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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第243話 スピロ、人質を楽しむ
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スピロは自分をつかむ、トライポッドの触手から伝わってくる振動を楽しんでいた。
楽しんでる——?
自分で自分の感情が信じられなくて、おもわず自問自答した。
「なにを笑っているのです」
トライポッドの頭部のてっぺんから声が響いた。アバーラインの悪魔の声だ。
それでなくても不快な響きのある声だったが、拡声器を通すとさらに耳障りが悪くなり、嫌悪感が募る。
「楽しいのですよ」
「楽しい?」
「だって、そうでしょう。悪魔にとらわれになったお姫様の気分なのですから」
「殺されることは考えてない口ぶりですねぇ」
「殺すつもりなら、とっくに捻り潰してるでしょうに。でもそれではセイ様を自分の土壌にひっぱれない」
「わたくしめは、このトライポッドを集結させて、一斉にセイ・ユメミを攻撃するつもりですが」
「浅はか極まりないこと」
「なんですって?」
「前に古代ギリシアで遭遇したアンドレアルフスという悪魔とおなじ轍を踏んでいます」
「アンドレアルフス……ですって」
「はい。もしかしてあなたより上位の悪魔でしたか?」
「ちがいますよ! あいつは72柱の悪魔の序列65番目で、わたくしめよりずいぶん下位の悪魔です」
「あなたの名前は?」
「わたくしめの名はアロケル! 72柱の悪魔の序列52番目の侯爵です」
「まぁ なんてこと!」
スピロはわざとらしく驚いてみせた。この状態ではやることも限られているのだ。このアロケルという悪魔をしばらく相手に時間を潰すしかない。
「高位の悪魔がかかわっていたと知って驚きましたか?」
アロケルの声から不敵な感じが伝わってきた。
「いいえ、アロケル様。わたくしが驚いたのは、その程度の序列の悪魔で、よくもまぁ偉ぶってられるってことです」
「!」
「あなたがたの世界ではどうかは知りませんが、わたくしには序列65番目も52番目もたいした変わりはありませんし、しょせんアンドレアルフスとおなじ『侯爵』でしかないのだという認識ですわ」
「スピロさん、あなた! 推理力や知識はみるべきものがありますが、あなた自身にはなんの力もないでしょう。よくもぬけぬけと言えるものですね」
「ええ、そりゃ言いますよ。だって……」
「囚われの姫は、王子様がかならず助けにくる、と相場がきまってるんですから」
「セイ・ユメミですか!!」
「ええ、セイ様です」
「あなたごとき、足元にも及ばない序列の『黄道十二宮の悪魔』、ハマリエルとウエルキエルを倒した、セイ・ユメミです」
脊髄反射的に怒鳴り声で反論してくると身構えていたが、アロケルは黙り込んだ。スピロは一瞬、悪魔の弱みにうまくつけ込めた、と思ったが、すぐにそうではないとわかった。
「あまい……あまいですねぇ」
楽しんでる——?
自分で自分の感情が信じられなくて、おもわず自問自答した。
「なにを笑っているのです」
トライポッドの頭部のてっぺんから声が響いた。アバーラインの悪魔の声だ。
それでなくても不快な響きのある声だったが、拡声器を通すとさらに耳障りが悪くなり、嫌悪感が募る。
「楽しいのですよ」
「楽しい?」
「だって、そうでしょう。悪魔にとらわれになったお姫様の気分なのですから」
「殺されることは考えてない口ぶりですねぇ」
「殺すつもりなら、とっくに捻り潰してるでしょうに。でもそれではセイ様を自分の土壌にひっぱれない」
「わたくしめは、このトライポッドを集結させて、一斉にセイ・ユメミを攻撃するつもりですが」
「浅はか極まりないこと」
「なんですって?」
「前に古代ギリシアで遭遇したアンドレアルフスという悪魔とおなじ轍を踏んでいます」
「アンドレアルフス……ですって」
「はい。もしかしてあなたより上位の悪魔でしたか?」
「ちがいますよ! あいつは72柱の悪魔の序列65番目で、わたくしめよりずいぶん下位の悪魔です」
「あなたの名前は?」
「わたくしめの名はアロケル! 72柱の悪魔の序列52番目の侯爵です」
「まぁ なんてこと!」
スピロはわざとらしく驚いてみせた。この状態ではやることも限られているのだ。このアロケルという悪魔をしばらく相手に時間を潰すしかない。
「高位の悪魔がかかわっていたと知って驚きましたか?」
アロケルの声から不敵な感じが伝わってきた。
「いいえ、アロケル様。わたくしが驚いたのは、その程度の序列の悪魔で、よくもまぁ偉ぶってられるってことです」
「!」
「あなたがたの世界ではどうかは知りませんが、わたくしには序列65番目も52番目もたいした変わりはありませんし、しょせんアンドレアルフスとおなじ『侯爵』でしかないのだという認識ですわ」
「スピロさん、あなた! 推理力や知識はみるべきものがありますが、あなた自身にはなんの力もないでしょう。よくもぬけぬけと言えるものですね」
「ええ、そりゃ言いますよ。だって……」
「囚われの姫は、王子様がかならず助けにくる、と相場がきまってるんですから」
「セイ・ユメミですか!!」
「ええ、セイ様です」
「あなたごとき、足元にも及ばない序列の『黄道十二宮の悪魔』、ハマリエルとウエルキエルを倒した、セイ・ユメミです」
脊髄反射的に怒鳴り声で反論してくると身構えていたが、アロケルは黙り込んだ。スピロは一瞬、悪魔の弱みにうまくつけ込めた、と思ったが、すぐにそうではないとわかった。
「あまい……あまいですねぇ」
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