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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第235話 あなた、未来のことを口にしてしまったんですよ
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「弱い?」
「小賢しくはありましたが、しょせん、セイ様の敵ではありませんでしたわ」
スピロがアバーラインから見えないようにして、ウインクをしてきた。セイはすぐに意図をくみとった。
「あ、ああ…… まったく数ばっかりおおいだけで、全然弱っちいよ。これならアンドレアルフスやザレオスのほうがマシだったかな。すくなくともハマリエルやウエルキエルなんかとは比べ物にならない」
「それに頭がわるい。調子にのって出会ったばかりのときに、うっかり悪魔である証拠を口にしてしまうんですから」
「スピロさん、なにを言ったというんです」
アバーラインは挑発など意に介する様子もなく、平静をよそおっていた。
「あら、お気付きではなかったですか? あなたはこの時代のひとが知るはずのない、未来のことをさらりと言ってしまったんですよ」
「どういうことです?」
「あなたはセイ様が刀を抜いたとき、こうおっしゃいました。『まるで希代のマジシャン、フーディーニのようだ』と……」
「ですが、1888年には、まだマジシャンのフーディーニは、手品にすら出あってないのですよ。この時代の人間がフーディーニを知るはずないのです」
その瞬間、アバーラインの目が、山羊のような四角い瞳孔に変わった。
「くやしいぃぃ! そんなつまらぬことでバレるなんてぇ!」
アバーラインが怒りをぶちまけた。その口元には牙のようなものが生えている。
セイは剣を振り抜いた。
が、その剣が中空でとまった。目に見えないなにかに太刀筋をはばまれていた。その感触はぶよぶよとした弾力があり、刃がはね返された。
さきほどまで地面にいたなにかが、アバーラインの前にいるのがわかった。
セイはさらに力をこめて、剣を振り抜いた。
が、アバーラインはその隙にすでに後方へ逃げていた。
「透明人間ですよ、セイさん!」
エヴァが叫んだ。そう聞いたとたん、あたりをなにかに取り囲まれていることに気づいた。セイは剣を構えたまま、うしろへさがった。正確な剣で斬るのを得意としているセイには、見えない敵というのは相性があまりいいとは言えなかった。
「エヴァ様、透明人間ではありませんよ」
スピロがアバーラインを見すえたまま言った。
「透明人間じゃない? どういうことです?」
「まぁ、人間と言えなくはないかもしれません……火星人をひとと呼ぶのであればね」
「そうでしょう? アバーライン様」
アバーラインの悪魔がにたりと笑った。
「さすがですわね。スピロさん。見えてないはずなのに、正体まで見抜かれるとはね」
「あなた程度の浅はかな戦い方なら、わたくしでなくても簡単に見抜けますよ」
「ふふふふふ…… まだわたくしめを小馬鹿にされるのですねぇ」
アバーラインが笑った。いつのまにか女性のようなしゃべり方になっていたが、そこには不敵さが感じられた。
「では、これでもそんな態度でいられますかね」
「小賢しくはありましたが、しょせん、セイ様の敵ではありませんでしたわ」
スピロがアバーラインから見えないようにして、ウインクをしてきた。セイはすぐに意図をくみとった。
「あ、ああ…… まったく数ばっかりおおいだけで、全然弱っちいよ。これならアンドレアルフスやザレオスのほうがマシだったかな。すくなくともハマリエルやウエルキエルなんかとは比べ物にならない」
「それに頭がわるい。調子にのって出会ったばかりのときに、うっかり悪魔である証拠を口にしてしまうんですから」
「スピロさん、なにを言ったというんです」
アバーラインは挑発など意に介する様子もなく、平静をよそおっていた。
「あら、お気付きではなかったですか? あなたはこの時代のひとが知るはずのない、未来のことをさらりと言ってしまったんですよ」
「どういうことです?」
「あなたはセイ様が刀を抜いたとき、こうおっしゃいました。『まるで希代のマジシャン、フーディーニのようだ』と……」
「ですが、1888年には、まだマジシャンのフーディーニは、手品にすら出あってないのですよ。この時代の人間がフーディーニを知るはずないのです」
その瞬間、アバーラインの目が、山羊のような四角い瞳孔に変わった。
「くやしいぃぃ! そんなつまらぬことでバレるなんてぇ!」
アバーラインが怒りをぶちまけた。その口元には牙のようなものが生えている。
セイは剣を振り抜いた。
が、その剣が中空でとまった。目に見えないなにかに太刀筋をはばまれていた。その感触はぶよぶよとした弾力があり、刃がはね返された。
さきほどまで地面にいたなにかが、アバーラインの前にいるのがわかった。
セイはさらに力をこめて、剣を振り抜いた。
が、アバーラインはその隙にすでに後方へ逃げていた。
「透明人間ですよ、セイさん!」
エヴァが叫んだ。そう聞いたとたん、あたりをなにかに取り囲まれていることに気づいた。セイは剣を構えたまま、うしろへさがった。正確な剣で斬るのを得意としているセイには、見えない敵というのは相性があまりいいとは言えなかった。
「エヴァ様、透明人間ではありませんよ」
スピロがアバーラインを見すえたまま言った。
「透明人間じゃない? どういうことです?」
「まぁ、人間と言えなくはないかもしれません……火星人をひとと呼ぶのであればね」
「そうでしょう? アバーライン様」
アバーラインの悪魔がにたりと笑った。
「さすがですわね。スピロさん。見えてないはずなのに、正体まで見抜かれるとはね」
「あなた程度の浅はかな戦い方なら、わたくしでなくても簡単に見抜けますよ」
「ふふふふふ…… まだわたくしめを小馬鹿にされるのですねぇ」
アバーラインが笑った。いつのまにか女性のようなしゃべり方になっていたが、そこには不敵さが感じられた。
「では、これでもそんな態度でいられますかね」
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