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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第222話 80万年後の人類の成れの果て
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セイは道路正面をふさぐモーロックを見た。
まるでドクロにそのまま薄い肉と皮膚をはりつけたような形相。色は透きとおるような白さで、まるでアルビノを思わせる。だがその骨格は人間とはいえない。ゴリラやチンパンジーとおなじ猿人の骨格で、なおかつ凶悪さを強調し、いびつさに歪んで見えた。猿人をモチーフにしたモンスターと言えばいいだろうか。
からだはいくぶん前傾姿勢で、手をダラリと前に垂らしている。髪の毛が異様に長く、両側に分けた毛の先は腰近くまで届いていた。
モーロックがこちらを威嚇するように、グワッ、グワッと叫んだ。
「80万年後の人類の成れの果てとして、ウエルズ様に創造されたモーロックは、先祖返りして猿人に近い形で描かれています。これに対比する形で華奢でピンク色の肌をしたイーライという種族が一方にいて、それは男か女か性別がわからないユニセックスの存在として描かれています」
「よかった。どうやら、そのイーライというヤツはでてこないみたいだね」
「まぁ、でてきたとしても、脅威はありません。イーライはモーロックに捕食される人類で、なんの力ももっていません」
「よかった。じゃあ、こっちを片づけることにするよ」
セイはモーロックにむかって刀をふるった。が、モーロックはからだを穴のなかにひっこめて、その刃をよけた。よくみると、モーロックが顔をだしている穴は、モーロックの動きにあわせて移動していた。
「スピロ、こいつはちょっと時間がかかりそうだ」
「モーロックは地下に暮らす種族で、隠れた無数の穴からイーライを引きずり込む設定になっています」
「にしても、穴ごと移動するのは、チートだな」
「こちらを足止めするために、悪魔が知恵を絞ったのでしょう」
セイはふたたび穴から顔を覗かせはじめたモーロックを見た。足を踏み入れる隙間もなく通路を塞いでいたが、レッド・ドラゴンのように建物の壁面や屋根の上まではその勢力は及んでいなかった。
「スピロ、飛ぶよ」
セイはスピロを両手で抱きかかえると、近くの貸間長屋の壁にむかって跳躍した。壁を蹴ると、そのまま通りの反対側の長屋の屋根のうえに降りたった。スピロはふいに抱きあげられて、びっくりしたのか顔がすこし赤くなっていた。
「スピロ、大丈夫? ごめん。びっくりさせたね」
「い、いえ…… 問題ありません。一番手っ取り早い解決方法だと思いますわ」
「屋根のうえを走るよ」
セイはスピロの手をつかんで、走りだした。
「攻め方がやけに甘い感じがするね。まえのレッド・ドラゴンのほうが手を焼いた」
「え、ええ……あ、はい、おそらく、悪魔も焦っているのでしょう」
「イーライっていう人類も、すこし頭を働かせば、モーロックに喰われないだろう、と思うんだけどね」
「あ、はい。いえ、イーライは5歳児並の知能しか持ち合わせていない設定になっています」
「なぜ、そんな設定に?」
「社会主義に傾倒していたウエルズ様の政治観によるものです」
まるでドクロにそのまま薄い肉と皮膚をはりつけたような形相。色は透きとおるような白さで、まるでアルビノを思わせる。だがその骨格は人間とはいえない。ゴリラやチンパンジーとおなじ猿人の骨格で、なおかつ凶悪さを強調し、いびつさに歪んで見えた。猿人をモチーフにしたモンスターと言えばいいだろうか。
からだはいくぶん前傾姿勢で、手をダラリと前に垂らしている。髪の毛が異様に長く、両側に分けた毛の先は腰近くまで届いていた。
モーロックがこちらを威嚇するように、グワッ、グワッと叫んだ。
「80万年後の人類の成れの果てとして、ウエルズ様に創造されたモーロックは、先祖返りして猿人に近い形で描かれています。これに対比する形で華奢でピンク色の肌をしたイーライという種族が一方にいて、それは男か女か性別がわからないユニセックスの存在として描かれています」
「よかった。どうやら、そのイーライというヤツはでてこないみたいだね」
「まぁ、でてきたとしても、脅威はありません。イーライはモーロックに捕食される人類で、なんの力ももっていません」
「よかった。じゃあ、こっちを片づけることにするよ」
セイはモーロックにむかって刀をふるった。が、モーロックはからだを穴のなかにひっこめて、その刃をよけた。よくみると、モーロックが顔をだしている穴は、モーロックの動きにあわせて移動していた。
「スピロ、こいつはちょっと時間がかかりそうだ」
「モーロックは地下に暮らす種族で、隠れた無数の穴からイーライを引きずり込む設定になっています」
「にしても、穴ごと移動するのは、チートだな」
「こちらを足止めするために、悪魔が知恵を絞ったのでしょう」
セイはふたたび穴から顔を覗かせはじめたモーロックを見た。足を踏み入れる隙間もなく通路を塞いでいたが、レッド・ドラゴンのように建物の壁面や屋根の上まではその勢力は及んでいなかった。
「スピロ、飛ぶよ」
セイはスピロを両手で抱きかかえると、近くの貸間長屋の壁にむかって跳躍した。壁を蹴ると、そのまま通りの反対側の長屋の屋根のうえに降りたった。スピロはふいに抱きあげられて、びっくりしたのか顔がすこし赤くなっていた。
「スピロ、大丈夫? ごめん。びっくりさせたね」
「い、いえ…… 問題ありません。一番手っ取り早い解決方法だと思いますわ」
「屋根のうえを走るよ」
セイはスピロの手をつかんで、走りだした。
「攻め方がやけに甘い感じがするね。まえのレッド・ドラゴンのほうが手を焼いた」
「え、ええ……あ、はい、おそらく、悪魔も焦っているのでしょう」
「イーライっていう人類も、すこし頭を働かせば、モーロックに喰われないだろう、と思うんだけどね」
「あ、はい。いえ、イーライは5歳児並の知能しか持ち合わせていない設定になっています」
「なぜ、そんな設定に?」
「社会主義に傾倒していたウエルズ様の政治観によるものです」
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