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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第218話 悪魔の正体はわかっていました
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ゾーイには姉スピロの無念の気持ちが痛いほどわかった。すこし前にひそかに、スピロから秘密を打ち明けられていたからだ。
スピロは悪魔の正体を知っていた——
「いつからわかっていたんだい。お姉さま」
「あのパーティーのときには。ただ、悪魔は一体しかいない、と確信に変わったのは、このあいだワイルド様の編集部で、犯人像の絞り込みをしたときです」
「だったら、なぜセイさんに言ってあげないのかい」
「それは悪魔を油断させるためです」
「オリンピュアのときに、わたくしは小物を逃がしたままにして、首謀者のほうに集中しようとしました。ですが、結果油断をつかれてしまい、両方で相乗攻撃を受けることになり、セイ様やマリア様、そしてエヴァ様に無用な手間をかけさせることになりました」
「だけど、一体だけならセイさんは簡単に倒しちまうだろう」
「ええ。ゾーイ、あなたの言う通りでしょうね。セイ様なら簡単に倒してしまうことでしょう。ですが、わたしはそれをもっとも危惧しているのです」
「ど、どういうことなんだい?」
「いまいる悪魔を倒したら、もっと強い悪魔がやってくるのではないかと怖れているのです」
「お姉さま。ちっとも意味がわかんないよ」
「ゾーイ。セイ様の存在は悪魔の世界では、それなりに知られているのは聞いてますね」
「ああ、マリアさんたちから、あのウェルキエルが、セイさんがハマリエルを倒していたのを知っていた、と言ってたからねぇ。目をつけられてるのは確かなんだろうね」
「そうです。ですからもしセイ様たちが、今ここに巣くっている悪魔を倒してしまったら、別の悪魔が、もしかしたら黄道十二宮クラスの悪魔が、代わりにやってくるかもしれない。その可能性を考えると、うかつに相談できないのです」
「なぜだい? お姉さま。悪魔を倒しちまえば、それでミッションは終わるんじゃあ……」
「ふつうのミッションでしたらそうです」
スピロはゾーイのことばを最後まで続けさせなかった。
「ですが、今回のミッションはネル様への凶行を防ぐこと。そのために切り裂きジャックを捕まえねばならないのです。これは悪魔を倒したからと言って、終わるわけではないのですよ」
ゾーイはこころのなかで「あっ」と叫んでいた。要引き揚げ者の未練を晴らすか、悪魔を倒せばいい、という四角四面の考え方に自分がとらわれていたことに気づいた。
「そうだね。お姉さま。あたいはとんだ思い違いをしていたようだねぇ」
「それは仕方ありません。今回がイレギュラーなミッションなのですから。問題は……」
スピロはため息をついてから言った。
「セイ様は強い悪魔が出てくるのを、どこかで望んでいるということです」
「つまりセイさんが悪魔の正体を知っちまったら……」
「ええ、ゾーイ。セイ様はかならずその悪魔を倒すでしょう。妹のサエ様を引寄せたウエルキエルのような、強い悪魔が降臨する可能性に望みをかけてね」
スピロは悪魔の正体を知っていた——
「いつからわかっていたんだい。お姉さま」
「あのパーティーのときには。ただ、悪魔は一体しかいない、と確信に変わったのは、このあいだワイルド様の編集部で、犯人像の絞り込みをしたときです」
「だったら、なぜセイさんに言ってあげないのかい」
「それは悪魔を油断させるためです」
「オリンピュアのときに、わたくしは小物を逃がしたままにして、首謀者のほうに集中しようとしました。ですが、結果油断をつかれてしまい、両方で相乗攻撃を受けることになり、セイ様やマリア様、そしてエヴァ様に無用な手間をかけさせることになりました」
「だけど、一体だけならセイさんは簡単に倒しちまうだろう」
「ええ。ゾーイ、あなたの言う通りでしょうね。セイ様なら簡単に倒してしまうことでしょう。ですが、わたしはそれをもっとも危惧しているのです」
「ど、どういうことなんだい?」
「いまいる悪魔を倒したら、もっと強い悪魔がやってくるのではないかと怖れているのです」
「お姉さま。ちっとも意味がわかんないよ」
「ゾーイ。セイ様の存在は悪魔の世界では、それなりに知られているのは聞いてますね」
「ああ、マリアさんたちから、あのウェルキエルが、セイさんがハマリエルを倒していたのを知っていた、と言ってたからねぇ。目をつけられてるのは確かなんだろうね」
「そうです。ですからもしセイ様たちが、今ここに巣くっている悪魔を倒してしまったら、別の悪魔が、もしかしたら黄道十二宮クラスの悪魔が、代わりにやってくるかもしれない。その可能性を考えると、うかつに相談できないのです」
「なぜだい? お姉さま。悪魔を倒しちまえば、それでミッションは終わるんじゃあ……」
「ふつうのミッションでしたらそうです」
スピロはゾーイのことばを最後まで続けさせなかった。
「ですが、今回のミッションはネル様への凶行を防ぐこと。そのために切り裂きジャックを捕まえねばならないのです。これは悪魔を倒したからと言って、終わるわけではないのですよ」
ゾーイはこころのなかで「あっ」と叫んでいた。要引き揚げ者の未練を晴らすか、悪魔を倒せばいい、という四角四面の考え方に自分がとらわれていたことに気づいた。
「そうだね。お姉さま。あたいはとんだ思い違いをしていたようだねぇ」
「それは仕方ありません。今回がイレギュラーなミッションなのですから。問題は……」
スピロはため息をついてから言った。
「セイ様は強い悪魔が出てくるのを、どこかで望んでいるということです」
「つまりセイさんが悪魔の正体を知っちまったら……」
「ええ、ゾーイ。セイ様はかならずその悪魔を倒すでしょう。妹のサエ様を引寄せたウエルキエルのような、強い悪魔が降臨する可能性に望みをかけてね」
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