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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第183話 エレファントマンとの出会い1
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ロンドン病院(現ロイヤル・ロンドン病院)——
ホワイト・チャペル駅から降りて、5分ほどの場所にあるその病院が、ジョゼフ・ケアリー・メリック、『エレファントマン』の家だった。
モリ・リンタロウの日本国陸軍のつてとやらは、おもいのほかつよく、2日と経たずして、メリックの担当医師フレデリック・トレヴェスから連絡があった。
「あいかわらず、この場所は臭くて、汚くて、へどがでそうな街だな」
ホワイトチャペル駅につくなりマリアが悪態をついた。
だがその顔はいかばかりかこわばってみえた。エレファントマンという歴史的な障がい者に会うのだ。まぁ理解はできなくない。
おそらく自分もそんな顔をしているはずだ——
スピロは自分自身もマリアとおなじように、緊張していることに自分でも驚いていた。だが、自分がなぜ緊張しているのかがわからない。ためらいなのか、忌避しているのか、抵抗したいのか、それとも好奇心ゆえなのか。
この世界でも冷静沈着に事件を分析してきていたはずなのに、恥ずかしいことに、今、自分はなにをすべきなのかすらおぼつかなくなっている。
「お姉さま。コナン・ドイルさんとネルさんをエヴァさん、ひとりにまかせて、大丈夫だったのかい?」
ゾーイがそのふわふわとした様子を見かねたのか、声をかけてきた。スピロはその気づかいに感謝しながら、きわめて事務的に返事をした。
「ゾーイ。いたしかたありません。あの方はたいへん繊細な方です。あまり大勢で押しかけるわけにはいきません」
ロンドン病院に到着すると、すでに入り口で担当医師のトレヴェスが待ち受けていた。
「フレデリック・トレヴェスです」
リンタロウは握手をして、自己紹介とスピロたちの紹介をすませると、トレヴェスに案内されるまま、病院内に足を踏み入れた。
「恐縮です。まさか、入り口でお待ちいただいているとは、小生思いもしませんでした」
「いえいえ。ここのところ、上流階級の人々の関心がたかくてですね。ジョンへの面会希望があとをたたないのです。おかげで、すっかりわたしはジョンの案内係ですよ」
そう言ってトレヴェスがわらった。
「ジョン?」
セイがスピロに小声で訊いてきた。
「あのトレヴェス医師はメリック様のことを、ずっとまちがえて『ジョン』と呼んでたんです。彼の書いた手記にもその記述があるので、それを原作にした映画はジョン・メリックになってるんです」
「おいおい、とんだマヌケだな。ほんとうに、英国王室お抱え候補の優秀な医者なのか?」
マリアがトレヴェスに聞こえそうな声で、あげつらった。
その部屋は病院の地下にあった。不快というわけではなかったが、すこしばかり湿っぽさがかんじられた。換気が行き届いていないのだろう。
「ここがジョンの部屋です。多額の寄付金のおかげで維持しております」
トレヴェスがリンタロウにむかって説明した。
ここまできて、スピロは自分が先ほど以上に緊張しているのを感じた。
覚悟をきめてきているはずなのに、扉いちまいむこうに、自分の人生を変えるかもしれない人物が待っているかと思うと、決意がゆらぐ。
トレヴェスがドアをあけた。
部屋の中央にある応接用の椅子に、ジョゼフ・メリックが座っていた。
ホワイト・チャペル駅から降りて、5分ほどの場所にあるその病院が、ジョゼフ・ケアリー・メリック、『エレファントマン』の家だった。
モリ・リンタロウの日本国陸軍のつてとやらは、おもいのほかつよく、2日と経たずして、メリックの担当医師フレデリック・トレヴェスから連絡があった。
「あいかわらず、この場所は臭くて、汚くて、へどがでそうな街だな」
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だがその顔はいかばかりかこわばってみえた。エレファントマンという歴史的な障がい者に会うのだ。まぁ理解はできなくない。
おそらく自分もそんな顔をしているはずだ——
スピロは自分自身もマリアとおなじように、緊張していることに自分でも驚いていた。だが、自分がなぜ緊張しているのかがわからない。ためらいなのか、忌避しているのか、抵抗したいのか、それとも好奇心ゆえなのか。
この世界でも冷静沈着に事件を分析してきていたはずなのに、恥ずかしいことに、今、自分はなにをすべきなのかすらおぼつかなくなっている。
「お姉さま。コナン・ドイルさんとネルさんをエヴァさん、ひとりにまかせて、大丈夫だったのかい?」
ゾーイがそのふわふわとした様子を見かねたのか、声をかけてきた。スピロはその気づかいに感謝しながら、きわめて事務的に返事をした。
「ゾーイ。いたしかたありません。あの方はたいへん繊細な方です。あまり大勢で押しかけるわけにはいきません」
ロンドン病院に到着すると、すでに入り口で担当医師のトレヴェスが待ち受けていた。
「フレデリック・トレヴェスです」
リンタロウは握手をして、自己紹介とスピロたちの紹介をすませると、トレヴェスに案内されるまま、病院内に足を踏み入れた。
「恐縮です。まさか、入り口でお待ちいただいているとは、小生思いもしませんでした」
「いえいえ。ここのところ、上流階級の人々の関心がたかくてですね。ジョンへの面会希望があとをたたないのです。おかげで、すっかりわたしはジョンの案内係ですよ」
そう言ってトレヴェスがわらった。
「ジョン?」
セイがスピロに小声で訊いてきた。
「あのトレヴェス医師はメリック様のことを、ずっとまちがえて『ジョン』と呼んでたんです。彼の書いた手記にもその記述があるので、それを原作にした映画はジョン・メリックになってるんです」
「おいおい、とんだマヌケだな。ほんとうに、英国王室お抱え候補の優秀な医者なのか?」
マリアがトレヴェスに聞こえそうな声で、あげつらった。
その部屋は病院の地下にあった。不快というわけではなかったが、すこしばかり湿っぽさがかんじられた。換気が行き届いていないのだろう。
「ここがジョンの部屋です。多額の寄付金のおかげで維持しております」
トレヴェスがリンタロウにむかって説明した。
ここまできて、スピロは自分が先ほど以上に緊張しているのを感じた。
覚悟をきめてきているはずなのに、扉いちまいむこうに、自分の人生を変えるかもしれない人物が待っているかと思うと、決意がゆらぐ。
トレヴェスがドアをあけた。
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