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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第178話 コナン・ドイルのフーダニット2
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「悪魔が作りだす怪物は、自身が憑依した人物の記憶や考え方を元にしている、と申しあげただけですわ」
「それ、それなんですよぉ。つまりその時代にない概念の生き物や、その人物が想像できないものは、現われないっていう話です。だから合点がいったんです。だって、あたしゃ、あの怪物の造形をみたのは、はじめてじゃなかったんですから」
「はじめてじゃなかった?」
ブラム・ストーカーがおもわず声をあげた。
「冗談だろ。私はすくなくとも、あんな奇妙な形をした生物をみたのは、生まれてこの方はじめてだ。そりゃ何度かキテレツな舞台装置に、お目にかかったことはあるが、あんな造形ははじめてだよ」
「エイブラハム」
オスカー・ワイルドがなかば呆れ顔で声をかけた。
「君は蜘蛛くらいみたことあるだろう。昔は僕と一緒に森の中を遊び回ったことがあるのだから」
「オスカー。でもあれは蜘蛛でもなければ、蟹でもない。からだは三角形で周りが足だらけ、そして背中のまんなかに顔があるのだよ」
「そう、そうなんですよ、ブラム・ストーカーさん。この時代にあんな生物いやしない。もしあれが蜘蛛や蟹をモチーフにしたとしたら、拡大解釈ってもんじゃないですよ」
「おい、アーサー。きさま、なにを言いたい。ミアズマは悪魔が作るバケモノだ。悪魔が適当にデフォルメしているだけだろうがぁ」
マリアがコナン・ドイルを一喝すると、スピロが申し訳なさそうに言った。
「コナン・ドイル様、あの化物を便宜上『ミアズマ』と名付けたのはわたくしです。ですが、あれはどう見ても『蜘蛛』ですからね。こんな混乱をおこすのでしたら、蜘蛛にちなんだ名前を命名すべきだったかもしれません」
「それだ、それがひっかかるんだよなー。みなさんは端っから蜘蛛だって決めつけてる。でもね、あたしには別のものにしか見えないンですよぉ。だってぇ、あの形はこの時代にすでにあるんですもの」
「すでにある?」
「ええ、スピロさん。おそらくここにいる紳士の諸君も、知ってると思いますよ」
そう言いながらコナン・ドイルは、手元の本を開いて、みんなに見えるよう掲げた。
セイはそこに描かれた挿し絵に、おもわず息を飲んだ。
まさにそこには『ミアズマ』そのものといっていい絵が描かれていた。
その絵にマリアやエヴァたちも、セイと同様に衝撃を受けていた。
みな驚愕の表情を浮かべたまま、その本の絵から目が離せないでいる。そのなかでもスピロのショックは、群をぬいて強かった。呆然としたまま、わなわなとくちびるを震わせている。
「わたしとしたことが……こんなことに……気づかなかったとは……」
「しかたないさぁ、お姉さま。生き物だと思ってんだからさぁ」
ゾーイがスピロを慰めのことばをかける。マリアは挿し絵を見つめたまま訊いた。
「おい、スピロ、ゾーイ、あれはなんだ? オレも見たことがあるぞ」
答えたのはエヴァだった。エヴァの顔はいくぶん蒼ざめてみえた。
「マリアさん、あれは……」
「『プロビデンスの目』です」
そのあとをスピロが続けた。
「そして秘密結社フリーメーソンのシンボルマークです」
「それ、それなんですよぉ。つまりその時代にない概念の生き物や、その人物が想像できないものは、現われないっていう話です。だから合点がいったんです。だって、あたしゃ、あの怪物の造形をみたのは、はじめてじゃなかったんですから」
「はじめてじゃなかった?」
ブラム・ストーカーがおもわず声をあげた。
「冗談だろ。私はすくなくとも、あんな奇妙な形をした生物をみたのは、生まれてこの方はじめてだ。そりゃ何度かキテレツな舞台装置に、お目にかかったことはあるが、あんな造形ははじめてだよ」
「エイブラハム」
オスカー・ワイルドがなかば呆れ顔で声をかけた。
「君は蜘蛛くらいみたことあるだろう。昔は僕と一緒に森の中を遊び回ったことがあるのだから」
「オスカー。でもあれは蜘蛛でもなければ、蟹でもない。からだは三角形で周りが足だらけ、そして背中のまんなかに顔があるのだよ」
「そう、そうなんですよ、ブラム・ストーカーさん。この時代にあんな生物いやしない。もしあれが蜘蛛や蟹をモチーフにしたとしたら、拡大解釈ってもんじゃないですよ」
「おい、アーサー。きさま、なにを言いたい。ミアズマは悪魔が作るバケモノだ。悪魔が適当にデフォルメしているだけだろうがぁ」
マリアがコナン・ドイルを一喝すると、スピロが申し訳なさそうに言った。
「コナン・ドイル様、あの化物を便宜上『ミアズマ』と名付けたのはわたくしです。ですが、あれはどう見ても『蜘蛛』ですからね。こんな混乱をおこすのでしたら、蜘蛛にちなんだ名前を命名すべきだったかもしれません」
「それだ、それがひっかかるんだよなー。みなさんは端っから蜘蛛だって決めつけてる。でもね、あたしには別のものにしか見えないンですよぉ。だってぇ、あの形はこの時代にすでにあるんですもの」
「すでにある?」
「ええ、スピロさん。おそらくここにいる紳士の諸君も、知ってると思いますよ」
そう言いながらコナン・ドイルは、手元の本を開いて、みんなに見えるよう掲げた。
セイはそこに描かれた挿し絵に、おもわず息を飲んだ。
まさにそこには『ミアズマ』そのものといっていい絵が描かれていた。
その絵にマリアやエヴァたちも、セイと同様に衝撃を受けていた。
みな驚愕の表情を浮かべたまま、その本の絵から目が離せないでいる。そのなかでもスピロのショックは、群をぬいて強かった。呆然としたまま、わなわなとくちびるを震わせている。
「わたしとしたことが……こんなことに……気づかなかったとは……」
「しかたないさぁ、お姉さま。生き物だと思ってんだからさぁ」
ゾーイがスピロを慰めのことばをかける。マリアは挿し絵を見つめたまま訊いた。
「おい、スピロ、ゾーイ、あれはなんだ? オレも見たことがあるぞ」
答えたのはエヴァだった。エヴァの顔はいくぶん蒼ざめてみえた。
「マリアさん、あれは……」
「『プロビデンスの目』です」
そのあとをスピロが続けた。
「そして秘密結社フリーメーソンのシンボルマークです」
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