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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第171話 ロバート・スティーヴンソンのフーダニット3
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「なんか知らんが、おそろしいほどの数の作品があるようだな」
スティーブンソンが言った。驚きがまさったせいか、さきほどまでの上から目線がすっかり消えている。
「それはスティーブンソン様の作品が先べんをつけたものです。ですが、この多重人格者というものが、世間に知られるようになったのがおおきいですわ」
「ふん。だが、ほんとうに精神の病気で、人格が分裂するような都合のいいことが起きるものかね? 俺様はどうにも納得がいかねぇな」
「いや、ミスター・スティーブンソン。それが実際にあるのだ」
スティーブンソンにむかって言ったのは、フロイトだった。
「わが輩はかつて、あきらからに別人のような様相をみせる患者を診察したことがある。多重人格と指摘されれば、確かにそのようだったと言える」
「フロイト先生、先ほど申しあげたように、それをあなたが世間につまびらかにするのです」
スピロがフロイトにむかって断言した。
「それはのちに上梓する『ヒステリー研究』という著書のなかで言及されています。あなたはヒステリーの症状を2つのカテゴリに分類しました。ひとつは見た目に派手な身体症状をおこす『転換ヒステリー』。そしてもうひとつは意識が解離して人格の統一が失なわれる『解離性ヒステリー』です」
「解離性ヒステリーじゃと?」
「現在では『解離性解離性同一症』とされていますが、20世紀のあいだは『多重人格障害』と呼ばれていました。これは子ども時代に適応能力を遥かに超えた、激しい苦痛や体験、ほとんどの場合は、児童虐待、性的虐待による、心的外傷が原因とされています」
「興味深いな。どういうプロセスで、そう……もうひとつの人格が生まれるのかね?」
「子供にとって親や大人は、その世界の絶対的な正義です。その正義の指針になるべき存在から、不当な虐待をされたとき、子供たちは自分たちがわるいとしか考えません。ですがその虐待によって心が傷ついていくと、こんな目にあっているのは『自分ではない』と、心だけでも逃避しようとするのです。その瞬間、虐待を受ける別人格が生まれ、本来の自分の人格は守られるのです」
「この『解離性解離性同一症』による犯罪は、小説や映画の世界だけではなく、実際にも多数おきています。たとえば、『キラー・クラウン』と呼ばれたジョン・ゲイシー。彼は地元の名士として尊敬され、ピエロの格好で近所の子供たちを喜ばせる二児の父親でしたが、33人の少年たちを性的虐待のかぎりを尽くして殺しました。彼は逮捕時に自分のなかにちがう人格がいて、「黒いジャック」という警官が犯行をおこなったと主張しています。幼少期の父親の虐待による多重人格があった可能性があります」
----------------- 答え合わせ(ネタバレを含むので閲覧注意)-------------------
「シャッター・アイランド」「ファイトクラブ」「ハイドアンドシーク 暗闇のかくれんぼ」「真実の行方」「エンジェル・ハート」「アイデンティティー」「マシニスト」「ブラック・スワン」「フランキー&アリス」「イブの三つの顔」
「シークレット ウインドウ」
スティーブンソンが言った。驚きがまさったせいか、さきほどまでの上から目線がすっかり消えている。
「それはスティーブンソン様の作品が先べんをつけたものです。ですが、この多重人格者というものが、世間に知られるようになったのがおおきいですわ」
「ふん。だが、ほんとうに精神の病気で、人格が分裂するような都合のいいことが起きるものかね? 俺様はどうにも納得がいかねぇな」
「いや、ミスター・スティーブンソン。それが実際にあるのだ」
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「フロイト先生、先ほど申しあげたように、それをあなたが世間につまびらかにするのです」
スピロがフロイトにむかって断言した。
「それはのちに上梓する『ヒステリー研究』という著書のなかで言及されています。あなたはヒステリーの症状を2つのカテゴリに分類しました。ひとつは見た目に派手な身体症状をおこす『転換ヒステリー』。そしてもうひとつは意識が解離して人格の統一が失なわれる『解離性ヒステリー』です」
「解離性ヒステリーじゃと?」
「現在では『解離性解離性同一症』とされていますが、20世紀のあいだは『多重人格障害』と呼ばれていました。これは子ども時代に適応能力を遥かに超えた、激しい苦痛や体験、ほとんどの場合は、児童虐待、性的虐待による、心的外傷が原因とされています」
「興味深いな。どういうプロセスで、そう……もうひとつの人格が生まれるのかね?」
「子供にとって親や大人は、その世界の絶対的な正義です。その正義の指針になるべき存在から、不当な虐待をされたとき、子供たちは自分たちがわるいとしか考えません。ですがその虐待によって心が傷ついていくと、こんな目にあっているのは『自分ではない』と、心だけでも逃避しようとするのです。その瞬間、虐待を受ける別人格が生まれ、本来の自分の人格は守られるのです」
「この『解離性解離性同一症』による犯罪は、小説や映画の世界だけではなく、実際にも多数おきています。たとえば、『キラー・クラウン』と呼ばれたジョン・ゲイシー。彼は地元の名士として尊敬され、ピエロの格好で近所の子供たちを喜ばせる二児の父親でしたが、33人の少年たちを性的虐待のかぎりを尽くして殺しました。彼は逮捕時に自分のなかにちがう人格がいて、「黒いジャック」という警官が犯行をおこなったと主張しています。幼少期の父親の虐待による多重人格があった可能性があります」
----------------- 答え合わせ(ネタバレを含むので閲覧注意)-------------------
「シャッター・アイランド」「ファイトクラブ」「ハイドアンドシーク 暗闇のかくれんぼ」「真実の行方」「エンジェル・ハート」「アイデンティティー」「マシニスト」「ブラック・スワン」「フランキー&アリス」「イブの三つの顔」
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