ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜

第153話 犯行現場へ急行

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「スピロ、大丈夫かい?」

 セイがふりむいて心配そうに訊いてきた。それだけでもたげたネガティブな思いは、簡単にふきとんだ。
「えぇ、もちろんですわ」

「よかった。きみをしっかりと守れて、すこしホッとした」

 スピロは安堵して笑顔をみせるセイをみて、ドキッと心臓がはねるのを感じた。
 ここに物理的な心臓などないのに、という思いがよぎったが、スピロはそのドキドキを楽しむことにした。
 しかしそのときめきは、長続きしなかった。

 ミアズマの死骸のよこを駆け抜けようとした刹那、下のほうに埋もれていたミアズマが唐突に断末魔の奇声をあげた。それがあまりにも不意打ちで、しかも間近で聞こえた。
 スピロはおどろきのあまり、おもわず悲鳴をあげ、ビクリとからだを震わせた。

「きゃっ」

 その声にセイが足をゆるめた。
「スピロ、大丈夫?」
「ええ、お構いなく。いきなりでしたので、すこしびっくりしただけです」
 そうとっさに言い訳を返したが、内心は恥ずかしさと腹立たしさでいっぱいだった。

 自分がしあわせを噛みしめようとすると、いつだって邪魔ばかりがはいる——。

「スピロ、きみは強いな」
 セイが握った手にぎゅっと力をこめて言った。
 そのとたん、スピロはカッと顔が熱くなるのを感じた。

 強い……って、どういう意味——?。

 さすがのスピロもセイの言っていることばの真偽をはかりかねた。セイが口にしたことばなのだから、褒めことばにちがいない。

 でもそんなこと現世でも前世でも、今まで一度も言われたことがないの。
 さらりと言われても、わたし、聞きかえせないじゃない。

 セイはスピロの手をにぎったまま、ふたたび走りはじめた。
 スピロはすこしうつむきながら、セイのあとに続いた。

 セイに火照ほてった顔を見られたくなかった。


 街中を1ブロック程度走っているうちに、すっかりとあたりは元の夜の貧民窟に戻っていた。

 朝日は夜の闇に、ほんのりと光を投げかけはじめたが、まだ夜の支配からは抜けでてない時間帯だった。

 街角を曲がったところで、前を走っていたセイが足をとめた。
 その先に数十人ものひとびとがたむろしているのが見えた。まだあたりは薄暗く、遠くに青いガス灯が薄暗い光を投げかけていた。
 スピロはそこが犯行現場のバックス・ロウだとわかった。

 四年前に開通したばかりの地下鉄ホワイト・チャペル駅の駅裏、六メートル幅の石畳の小路こうじがバックス・ロウで、道の片側は倉庫の壁、反対側には連棟式集合住宅テラスハウスが並んでいた。南側にはエセックス埠頭倉庫があり、そのさきには厩舎と寄宿学校があった。
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