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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第143話 ブラム・ストーカーが声を震わせた
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ゾーイはその音の正体がなにか、わかっていた。
だが、姿が見えない——。
ふと気づくと、じぶんたちのまわりに、またたく間に靄がかかりはじめている。ものすごい勢いでガスが噴霧されているように感じて、ゾーイはおまわず二度咳こんだ。
「ウェルズさん、フロイトさん、ブラム・ストーカーさん、三人ともすぐにホワイトチャペルの街ンなかに、逃げてくれないかい」
「なかに逃げる?。どういう意味なんです?」
ブラム・ストーカーが頭をひねった。
「どうもあたいらをこの街に入れさせないために、邪魔者がやってきてるようだよ」
「自分たちをこの街に入れさせない?」
ウェルズもとまどっていたが、ゾーイは説明している時間がないと感じていた。
「全員が足止めされては元もこもない。あたいがここで時間をかせぐから、切り裂きジャックの犯行現場近くにいるスピロ姉さんとセイさんの元にむかっておくれ。はやくしないと、この街自体にはいれなくなるかもしれないからさぁ」
「時間を稼ぐと言うが、なにがおきると……」
フロイトがそう言いかけたが、そこまででことばは止まった。
それもそのはずだ。
白濁した靄のなかから、カチカチという耳ざわりな音をたてながら異形なものが現われたのだから——。
ゆらめくガス灯に反射して、あやしくギラギラときらめく細い脚。何十本もが集まって、冷たく光る弦のように見える。やがてゾーイがよく見知ったフォルムの生物が、ゾロゾロと姿をみせはじめた。
予想どおりミアズマだった。
「バ、バケモノ……」
ブラム・ストーカーが声を震わせた。あとのふたりはことばすら発せられずにいる。
「さあ、みんな走ってくれないかい。だけど街ンなかは濃い靄で見えにくくなっているから、気をつけておくれよ」
三人は無言でなんども首肯を繰り返しながら、おぼつかない足取りのまま、ホワイトチャペルの街中へ走り出した。そこを狙おうとしたミアズマが、前へ進み出た。
「そうはいかないのさ」
ゾーイは手のなかに力を宿すと、そのまま右腕を横にはらった。
その方向にいたミアズマが数体、横殴りされたような衝撃ではね跳び、レンガ塀に叩きつけられた。ベシャッとミアズマが潰れる。
背中についた顔に赤みがさす。ミアズマたちが警戒を強めた証拠だ。
カチカチと背後から音が聞こえた。
見なくてもわかった。いつの間にか囲まれたのは確かだった。
さすがにこの数は骨がおれそうだ——。
「弱ったねぇ。お姉さまに、すこし遅れるって連絡しておくかねぇ……」
だが、姿が見えない——。
ふと気づくと、じぶんたちのまわりに、またたく間に靄がかかりはじめている。ものすごい勢いでガスが噴霧されているように感じて、ゾーイはおまわず二度咳こんだ。
「ウェルズさん、フロイトさん、ブラム・ストーカーさん、三人ともすぐにホワイトチャペルの街ンなかに、逃げてくれないかい」
「なかに逃げる?。どういう意味なんです?」
ブラム・ストーカーが頭をひねった。
「どうもあたいらをこの街に入れさせないために、邪魔者がやってきてるようだよ」
「自分たちをこの街に入れさせない?」
ウェルズもとまどっていたが、ゾーイは説明している時間がないと感じていた。
「全員が足止めされては元もこもない。あたいがここで時間をかせぐから、切り裂きジャックの犯行現場近くにいるスピロ姉さんとセイさんの元にむかっておくれ。はやくしないと、この街自体にはいれなくなるかもしれないからさぁ」
「時間を稼ぐと言うが、なにがおきると……」
フロイトがそう言いかけたが、そこまででことばは止まった。
それもそのはずだ。
白濁した靄のなかから、カチカチという耳ざわりな音をたてながら異形なものが現われたのだから——。
ゆらめくガス灯に反射して、あやしくギラギラときらめく細い脚。何十本もが集まって、冷たく光る弦のように見える。やがてゾーイがよく見知ったフォルムの生物が、ゾロゾロと姿をみせはじめた。
予想どおりミアズマだった。
「バ、バケモノ……」
ブラム・ストーカーが声を震わせた。あとのふたりはことばすら発せられずにいる。
「さあ、みんな走ってくれないかい。だけど街ンなかは濃い靄で見えにくくなっているから、気をつけておくれよ」
三人は無言でなんども首肯を繰り返しながら、おぼつかない足取りのまま、ホワイトチャペルの街中へ走り出した。そこを狙おうとしたミアズマが、前へ進み出た。
「そうはいかないのさ」
ゾーイは手のなかに力を宿すと、そのまま右腕を横にはらった。
その方向にいたミアズマが数体、横殴りされたような衝撃ではね跳び、レンガ塀に叩きつけられた。ベシャッとミアズマが潰れる。
背中についた顔に赤みがさす。ミアズマたちが警戒を強めた証拠だ。
カチカチと背後から音が聞こえた。
見なくてもわかった。いつの間にか囲まれたのは確かだった。
さすがにこの数は骨がおれそうだ——。
「弱ったねぇ。お姉さまに、すこし遅れるって連絡しておくかねぇ……」
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