ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

文字の大きさ
上 下
619 / 935
ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜

第143話 ブラム・ストーカーが声を震わせた

しおりを挟む
 ゾーイはその音の正体がなにか、わかっていた。

 だが、姿が見えない——。
 ふと気づくと、じぶんたちのまわりに、またたく間にもやがかかりはじめている。ものすごい勢いでガスが噴霧されているように感じて、ゾーイはおまわず二度咳こんだ。
「ウェルズさん、フロイトさん、ブラム・ストーカーさん、三人ともすぐにホワイトチャペルの街ンなかに、逃げてくれないかい」
「なかに逃げる?。どういう意味なんです?」

 ブラム・ストーカーが頭をひねった。
「どうもあたいらをこの街に入れさせないために、邪魔者がやってきてるようだよ」
「自分たちをこの街に入れさせない?」
 ウェルズもとまどっていたが、ゾーイは説明している時間がないと感じていた。
「全員が足止めされては元もこもない。あたいがここで時間をかせぐから、切り裂きジャックの犯行現場近くにいるスピロ姉さんとセイさんの元にむかっておくれ。はやくしないと、この街自体にはいれなくなるかもしれないからさぁ」

「時間を稼ぐと言うが、なにがおきると……」

 フロイトがそう言いかけたが、そこまででことばは止まった。
 それもそのはずだ。
 白濁したもやのなかから、カチカチという耳ざわりな音をたてながら異形なものが現われたのだから——。
 ゆらめくガス灯に反射して、あやしくギラギラときらめく細い脚。何十本もが集まって、冷たく光るつるのように見える。やがてゾーイがよく見知ったフォルムの生物が、ゾロゾロと姿をみせはじめた。

 予想どおりミアズマだった。

「バ、バケモノ……」
 ブラム・ストーカーが声を震わせた。あとのふたりはことばすら発せられずにいる。

「さあ、みんな走ってくれないかい。だけど街ンなかは濃いもやで見えにくくなっているから、気をつけておくれよ」
 三人は無言でなんども首肯を繰り返しながら、おぼつかない足取りのまま、ホワイトチャペルの街中へ走り出した。そこを狙おうとしたミアズマが、前へ進み出た。
「そうはいかないのさ」

 ゾーイは手のなかに力を宿すと、そのまま右腕を横にはらった。
 その方向にいたミアズマが数体、横殴りされたような衝撃ではね跳び、レンガ塀に叩きつけられた。ベシャッとミアズマが潰れる。
 背中についた顔に赤みがさす。ミアズマたちが警戒を強めた証拠だ。

 カチカチと背後から音が聞こえた。
 見なくてもわかった。いつの間にか囲まれたのは確かだった。
 
 さすがにこの数は骨がおれそうだ——。

「弱ったねぇ。お姉さまに、すこし遅れるって連絡しておくかねぇ……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

処理中です...