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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第138話 ピーター、文士をディスる
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「あなたがたが、はっきり見えているのはわかりました……」
スピロはため息まじりに言った。
「どうやら、この靄で視界を奪われはじめているのは、セイ様とわたくしだけのようです」
「まずいじゃないか。これじゃあ、あの女の人をぼくらは見うしなう」
「ふん。どうにもややこしいことになっているようだが、セイ、君は僕らがいることを忘れてはいないかね」
「そうですよ、セイ。あの婦人の尾行は、小生らにまかせてください」
ワイルドとリンタロウが、ここぞとばかりにアピールしてきたが、ピーターは頭のうしろで手をくんで、あきれ返ったような声をあげた。
「だったら、いっそメアリーに事情を話して、一緒に行動すりゃあいいんじゃないの?」
「ピーター、そうはいかないのです。それではメアリー様が犯人に襲われない。犯行がおこなわれないのでは、犯人の捕まえようがありません」
「ふ~ん、つまり、メアリーが犠牲になってもらわないといけないっていうんだね」
ピーターのことばがやけに非難めいて聞こえて、セイはあわてて取りつくろった。
「ピ、ピーター、そういう言いかたはちょっと……。だいたい、あのメアリーっていう女の人は、本来の歴史では殺されるんだ。それが運命なんだよ」
ピーターの調子はサバサバとしたものだった。
「セイ、べつに責めてるわけじゃないさ。あんたたちが未来から来たっていうのが、本当なんだとしたら、たぶん、あの人を見殺しにするのも正しい判断なんだろうさ」
ピーターはワイルドとリンタロウ、スティーブンソンを見まわした。
「立派な紳士たちがその話を信じて、真夜中にこんな場所をうろついているのをみればね」
目をむけられた三人は、すこし疎ましそうな目をピーターにむけた。
「ええ、ピーター。これで良いのです」
スピロがもの静かな口調で、しかも一点のゆらぎもなく断言した。
「もしメアリー・アン・ニコルズ様ひとりの犠牲で、この連続殺人犯を捕らえることができたら、そのあとに続くはずだった、すくなくとも4人の犠牲は防ぐことができます。全員を救うべきだ、という『きれいごと』を口にするのは簡単です。ですが、その決断では歴史をそのままトレースして、5人全員が犠牲になることでしょう」
「わかってるさ、スピロ。ちょっと試しただけさ」
ピーターはワイルドたち大人三人に、さきほどよりさらに皮肉をこめた目線をむけて言った。
「ここにはそう言う『きれいごと』を言いそうな、立派なおとなが混じってそうだったからさ」
オスカー・ワイルドはピーターの嫌みに、あきらかに気分を害していた。
「なんだね。このガキは?。ずいぶん生意気じゃないか」
「ほんとうだ。坊主、俺様に喧嘩でもふっかけているようだな」
「いや、いや、ワイルドさんもスティーブンソンさんも、おふたかたとも、相手は子供なんですから」
モリ・リンタロウがわってはいった。
スピロはため息まじりに言った。
「どうやら、この靄で視界を奪われはじめているのは、セイ様とわたくしだけのようです」
「まずいじゃないか。これじゃあ、あの女の人をぼくらは見うしなう」
「ふん。どうにもややこしいことになっているようだが、セイ、君は僕らがいることを忘れてはいないかね」
「そうですよ、セイ。あの婦人の尾行は、小生らにまかせてください」
ワイルドとリンタロウが、ここぞとばかりにアピールしてきたが、ピーターは頭のうしろで手をくんで、あきれ返ったような声をあげた。
「だったら、いっそメアリーに事情を話して、一緒に行動すりゃあいいんじゃないの?」
「ピーター、そうはいかないのです。それではメアリー様が犯人に襲われない。犯行がおこなわれないのでは、犯人の捕まえようがありません」
「ふ~ん、つまり、メアリーが犠牲になってもらわないといけないっていうんだね」
ピーターのことばがやけに非難めいて聞こえて、セイはあわてて取りつくろった。
「ピ、ピーター、そういう言いかたはちょっと……。だいたい、あのメアリーっていう女の人は、本来の歴史では殺されるんだ。それが運命なんだよ」
ピーターの調子はサバサバとしたものだった。
「セイ、べつに責めてるわけじゃないさ。あんたたちが未来から来たっていうのが、本当なんだとしたら、たぶん、あの人を見殺しにするのも正しい判断なんだろうさ」
ピーターはワイルドとリンタロウ、スティーブンソンを見まわした。
「立派な紳士たちがその話を信じて、真夜中にこんな場所をうろついているのをみればね」
目をむけられた三人は、すこし疎ましそうな目をピーターにむけた。
「ええ、ピーター。これで良いのです」
スピロがもの静かな口調で、しかも一点のゆらぎもなく断言した。
「もしメアリー・アン・ニコルズ様ひとりの犠牲で、この連続殺人犯を捕らえることができたら、そのあとに続くはずだった、すくなくとも4人の犠牲は防ぐことができます。全員を救うべきだ、という『きれいごと』を口にするのは簡単です。ですが、その決断では歴史をそのままトレースして、5人全員が犠牲になることでしょう」
「わかってるさ、スピロ。ちょっと試しただけさ」
ピーターはワイルドたち大人三人に、さきほどよりさらに皮肉をこめた目線をむけて言った。
「ここにはそう言う『きれいごと』を言いそうな、立派なおとなが混じってそうだったからさ」
オスカー・ワイルドはピーターの嫌みに、あきらかに気分を害していた。
「なんだね。このガキは?。ずいぶん生意気じゃないか」
「ほんとうだ。坊主、俺様に喧嘩でもふっかけているようだな」
「いや、いや、ワイルドさんもスティーブンソンさんも、おふたかたとも、相手は子供なんですから」
モリ・リンタロウがわってはいった。
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