611 / 935
ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第135話 フロイトとブラム・ストーカーのドラキュラ談義3
しおりを挟む
「まず吸血鬼の伝承は古くからある。土葬の習慣のある地域では民間伝承として、語りつがれていることはすくなくない。もとの伝承に従って定議するとしたら、吸血鬼とは死後復活して、緑のある者を呪う『生ける死者』と考えてもいいだろう。それはおそらくキリスト教によって、救済されない悪、反自然、デーモンなどを投影したものかもしれない。わが輩は……」
フロイトはブラム・ストーカーを正面から見すえてから付け加えた。
「個人的にだが、吸血鬼の原型は女神へカテに仕えた巫女の秘儀ではなIいか、と思っている」
「女神ヘカテ?。ギリシア神話の女神のですか?」
「ヘカテの巫女たちは真っ黒なマントに身をつつみ、墓地に忍び込んで死んだばかりの少年の墓をあばくのだ。そしてその亡骸に秘薬を塗り込み、少年を蘇生させてから、ナイフで胸を切り裂き、その血をすするのだよ」
「なるほど……。たしかに吸血鬼的行為ですね。黒マントに身を包んで……、黒魔術的で現在でも通用しそうだ」
天啓を得たとばかりに、ブラム・ストーカーが頷くと、フロイトが尋ねる。
「ところで、ミスターブラム・ストーカー。貴君はその『ドラキュラ』をどのような話にしたいと考えておるのか?」
「そうですね。まだ構想の段階ですが、このロンドンを舞台にした、愛の物語にしたいと思っています。永遠の命を保ち続けるために、ひとの生き血を吸っているドラキュラが、ひとりの女性を愛してしまったばかりに、悩み、葛藤する……。そのような話に」
「ならばそのドラキュラはその女性によって、倒されるわけかね」
「いえ。その女性はドラキュラによって吸血鬼にされてしまうが、この吸血鬼を倒す専門家、権威とでもいうべき人物によって助けられる、と考えています」
「専門家……。それは聖職者かね、それとも考古学者とか呪術師のたぐいの、怪しげな人物かね?」
「あ、いえ、その専門家は……、あなたとおなじ精神医学の専門の教授にしたいと考えています」
「ミスターブラム・ストーカー、なんとも、うれしいことを。いや、精神科医というのは、見事な設定ではないか。だが、それでは三文小説そのものになってしまうのではないかね」
「ええ、そうなのです。専門家の手によって倒されるという結末では、自分とおなじ忌むべき存在にしてまで、ひとりの女性を愛そうとした、ドラキュラの苦しみや哀しみが、むしろ安っぽいものになるのです」
フロイトはブラム・ストーカーを正面から見すえてから付け加えた。
「個人的にだが、吸血鬼の原型は女神へカテに仕えた巫女の秘儀ではなIいか、と思っている」
「女神ヘカテ?。ギリシア神話の女神のですか?」
「ヘカテの巫女たちは真っ黒なマントに身をつつみ、墓地に忍び込んで死んだばかりの少年の墓をあばくのだ。そしてその亡骸に秘薬を塗り込み、少年を蘇生させてから、ナイフで胸を切り裂き、その血をすするのだよ」
「なるほど……。たしかに吸血鬼的行為ですね。黒マントに身を包んで……、黒魔術的で現在でも通用しそうだ」
天啓を得たとばかりに、ブラム・ストーカーが頷くと、フロイトが尋ねる。
「ところで、ミスターブラム・ストーカー。貴君はその『ドラキュラ』をどのような話にしたいと考えておるのか?」
「そうですね。まだ構想の段階ですが、このロンドンを舞台にした、愛の物語にしたいと思っています。永遠の命を保ち続けるために、ひとの生き血を吸っているドラキュラが、ひとりの女性を愛してしまったばかりに、悩み、葛藤する……。そのような話に」
「ならばそのドラキュラはその女性によって、倒されるわけかね」
「いえ。その女性はドラキュラによって吸血鬼にされてしまうが、この吸血鬼を倒す専門家、権威とでもいうべき人物によって助けられる、と考えています」
「専門家……。それは聖職者かね、それとも考古学者とか呪術師のたぐいの、怪しげな人物かね?」
「あ、いえ、その専門家は……、あなたとおなじ精神医学の専門の教授にしたいと考えています」
「ミスターブラム・ストーカー、なんとも、うれしいことを。いや、精神科医というのは、見事な設定ではないか。だが、それでは三文小説そのものになってしまうのではないかね」
「ええ、そうなのです。専門家の手によって倒されるという結末では、自分とおなじ忌むべき存在にしてまで、ひとりの女性を愛そうとした、ドラキュラの苦しみや哀しみが、むしろ安っぽいものになるのです」
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる