606 / 935
ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第130話 武道の達人 森鴎外
しおりを挟む
「あたしもそれに含まれてますか?」
「当たり前だろうが。アーサー。真夜中の街を見まわろうかっていうんだ。ひとりでも頭数は欲しいからな」
「ええー、えーー。いや、嘘でしょ。だ、だってあのイースト・エンドでしょう。あんな物騒な街、あたしのような田舎モンにはちょっとハードルが高いですよ。しかも真夜中なんでしょう。まかり間違えてあたしがその『切り裂きジャック』に刺されたらどうするんです」
「心配すんな。切り裂きジャックは、男を襲わねぇんだ」
マリアはそうぶっきらぼうに斬って捨てたが、ドイルはおびえた様子でリンタロウに助けを求めた。
「そんなこと、わかんないでしょう。殺すのは女性でも、犯行を目撃されたら男、女関係なく襲いかかるでしょう。ねぇ、リンタロウさん」
いつものようにドイルがリンタロウに同意を求めた。
「いえ、小生のことはご心配なく。自分の身は自分で守れますので」
「そ、そりゃ、どういうことですぅ?」
「小生は津和野藩の『養老館』という藩校で、いろいろ武芸を体得しておりますゆえ、女性を殺めるような畜生を蹴散らすくらいぞうさもございませんよ」
「そうなんですかぁ……」
味方がいなくなってドイルの表情が、たちまち意気消沈していく。
セイはちょっとかわいそうだなと思いつつも、リンタロウの体得した武術に興味をひかれた。
「リンタロウさんは、どんなものを学ばれたのですか?」
「うむ。剣術、槍術、弓術、馬術、柔術などです。セイ殿はなにかやられてますか」
「ぼくはボクシング、空手、剣道、それにいくつかの外国の武術を……」
「ほう、すばらしいですね。小生はたしなむ程度で、それほど強いわけでは……」
リンタロウはそう謙遜したが、マリアが茶化すようにはやし立てた。
「うそつくな。リンタロウ。作家の太宰治がすげー強かったと、述懐しているぞ。50歳頃でも、軍隊の宴会などで無礼者には敢然と腕力をふるったってな」
「リ、リンタロウさん、そんなに強いンですかぁ」
コナン・ドイルが驚き半分、心細さ半分という口調で呟いたが、今度はそれにスピロが異論をはさみ込んできた。
「コナン・ドイル様。あなたも強いんじゃないですか。あなたスポーツ万能で、高校時代はクリケット部の主将をつとめてたそうですね。それに大学ではボクシングとラグビーをやっていた。しかもだれかれ構わず、試合をやりたがるほどだったと聞いていますよ」
「あ、いや、そうなんですが。あたしゃ、ナイフをもったヤツを相手にするほど度胸があるわけ……」
なおも弁明しようとしたが、リンタロウに力強く背中を叩かれて、ことばが尻切れになった。
「いやぁ、すごいじゃないですか。アーサー。その体格はなにかやっていると思いましたよ」
「勘弁してくださいよぉ。真夜中のイーストエンドで、ナイフ持った相手とひとりで格闘なんて、あたしゃごめん……」
コンコン——。
なおもコナン・ドイルは抗弁しようとしていたが、突然のノックの音にまた尻切れになった。
「当たり前だろうが。アーサー。真夜中の街を見まわろうかっていうんだ。ひとりでも頭数は欲しいからな」
「ええー、えーー。いや、嘘でしょ。だ、だってあのイースト・エンドでしょう。あんな物騒な街、あたしのような田舎モンにはちょっとハードルが高いですよ。しかも真夜中なんでしょう。まかり間違えてあたしがその『切り裂きジャック』に刺されたらどうするんです」
「心配すんな。切り裂きジャックは、男を襲わねぇんだ」
マリアはそうぶっきらぼうに斬って捨てたが、ドイルはおびえた様子でリンタロウに助けを求めた。
「そんなこと、わかんないでしょう。殺すのは女性でも、犯行を目撃されたら男、女関係なく襲いかかるでしょう。ねぇ、リンタロウさん」
いつものようにドイルがリンタロウに同意を求めた。
「いえ、小生のことはご心配なく。自分の身は自分で守れますので」
「そ、そりゃ、どういうことですぅ?」
「小生は津和野藩の『養老館』という藩校で、いろいろ武芸を体得しておりますゆえ、女性を殺めるような畜生を蹴散らすくらいぞうさもございませんよ」
「そうなんですかぁ……」
味方がいなくなってドイルの表情が、たちまち意気消沈していく。
セイはちょっとかわいそうだなと思いつつも、リンタロウの体得した武術に興味をひかれた。
「リンタロウさんは、どんなものを学ばれたのですか?」
「うむ。剣術、槍術、弓術、馬術、柔術などです。セイ殿はなにかやられてますか」
「ぼくはボクシング、空手、剣道、それにいくつかの外国の武術を……」
「ほう、すばらしいですね。小生はたしなむ程度で、それほど強いわけでは……」
リンタロウはそう謙遜したが、マリアが茶化すようにはやし立てた。
「うそつくな。リンタロウ。作家の太宰治がすげー強かったと、述懐しているぞ。50歳頃でも、軍隊の宴会などで無礼者には敢然と腕力をふるったってな」
「リ、リンタロウさん、そんなに強いンですかぁ」
コナン・ドイルが驚き半分、心細さ半分という口調で呟いたが、今度はそれにスピロが異論をはさみ込んできた。
「コナン・ドイル様。あなたも強いんじゃないですか。あなたスポーツ万能で、高校時代はクリケット部の主将をつとめてたそうですね。それに大学ではボクシングとラグビーをやっていた。しかもだれかれ構わず、試合をやりたがるほどだったと聞いていますよ」
「あ、いや、そうなんですが。あたしゃ、ナイフをもったヤツを相手にするほど度胸があるわけ……」
なおも弁明しようとしたが、リンタロウに力強く背中を叩かれて、ことばが尻切れになった。
「いやぁ、すごいじゃないですか。アーサー。その体格はなにかやっていると思いましたよ」
「勘弁してくださいよぉ。真夜中のイーストエンドで、ナイフ持った相手とひとりで格闘なんて、あたしゃごめん……」
コンコン——。
なおもコナン・ドイルは抗弁しようとしていたが、突然のノックの音にまた尻切れになった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる