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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第110話 ナルシシストとは
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「ナルシシストとは、ギリシャ神話の美少年ナルキッソスが、水面に映る自らの姿に恋をしたというエピソードに由来している心理学用語です」
心理学というキーワードにフロイトが反応した。
手元にメモのようなものをとりだして、書きとめようとしている。それに感化されたのか、コナン・ドイルもメモをとりだし、ペンを走らせはじめた。
「この自己愛は幼少期にはだれでももっている感情です。ですが、自分が世界の中心にいるのではない、と理解しはじめる5歳頃には一度うしなわれます。思春期にふたたび現われますが、成年期になると消失してしまいます。ただまれにそれが消えず、おとなになっても自己愛におぼれるひとびとがいるのです」
スピロはワイルドから目をそらさないまま話を続けた。
「自己のいきす過ぎた肯定をすてきれないと、ひとはそれを守るためにまわりの現状を変えようとします」
「たとえば、権威をかさに着たり、他人を軽蔑して傲慢にふるまったり、自画自賛することで自分の価値を高めようとしたり、人とはちがう権利を主張して優位をたもととしたり、さまざまな恥知らずな行為を繰り返してね」
「未来では『ナルシシスト』は認知の歪みによる、『自己愛性パーソナリティ障害』と定義されはじめています」
まるで医師のように診断を下されて、ワイルドの顔がくもった。
「スピロ、未来の意見はうけたまわったよ。だが、あんまり気持ちよくない分析だね。僕はその解釈は好きではない」
怒りがこもったような視線にさらされながら、スピロは肩をすくめた。
「そうですか?。でも文句はわたくしではなく、命名されたフロイト先生におっしゃってください」
そう言って目をむけられたフロイトは、じつに嬉しそうな顔をした。
「なんと、これはわが輩の理論だったか」
「ドクトル・フロイト。あなたはじつに異端な説ばかりを唱えますな。次はあなたの紹介の番だったが、さきほどご紹介さしあげたから割愛させていただきますよ」
ワイルドはじつに不機嫌そうに吐きすてると、部屋の端で待っていたアバーラインたちのほうに、手をむけながら言った。
「お待たせしました。全員紹介が終わりましたので、アバーライン警部補。こちらへ」
アバーラインがゆっくりと前に進みでようとしたとき、部屋の反対側の角に隠れるように立っていた男が声をあげた。
「ちょっと待ってもらえるかな」
一斉に全員の視線が彼に集まる。
「ワイルドさん、オレの紹介はなしなのか?」
心理学というキーワードにフロイトが反応した。
手元にメモのようなものをとりだして、書きとめようとしている。それに感化されたのか、コナン・ドイルもメモをとりだし、ペンを走らせはじめた。
「この自己愛は幼少期にはだれでももっている感情です。ですが、自分が世界の中心にいるのではない、と理解しはじめる5歳頃には一度うしなわれます。思春期にふたたび現われますが、成年期になると消失してしまいます。ただまれにそれが消えず、おとなになっても自己愛におぼれるひとびとがいるのです」
スピロはワイルドから目をそらさないまま話を続けた。
「自己のいきす過ぎた肯定をすてきれないと、ひとはそれを守るためにまわりの現状を変えようとします」
「たとえば、権威をかさに着たり、他人を軽蔑して傲慢にふるまったり、自画自賛することで自分の価値を高めようとしたり、人とはちがう権利を主張して優位をたもととしたり、さまざまな恥知らずな行為を繰り返してね」
「未来では『ナルシシスト』は認知の歪みによる、『自己愛性パーソナリティ障害』と定義されはじめています」
まるで医師のように診断を下されて、ワイルドの顔がくもった。
「スピロ、未来の意見はうけたまわったよ。だが、あんまり気持ちよくない分析だね。僕はその解釈は好きではない」
怒りがこもったような視線にさらされながら、スピロは肩をすくめた。
「そうですか?。でも文句はわたくしではなく、命名されたフロイト先生におっしゃってください」
そう言って目をむけられたフロイトは、じつに嬉しそうな顔をした。
「なんと、これはわが輩の理論だったか」
「ドクトル・フロイト。あなたはじつに異端な説ばかりを唱えますな。次はあなたの紹介の番だったが、さきほどご紹介さしあげたから割愛させていただきますよ」
ワイルドはじつに不機嫌そうに吐きすてると、部屋の端で待っていたアバーラインたちのほうに、手をむけながら言った。
「お待たせしました。全員紹介が終わりましたので、アバーライン警部補。こちらへ」
アバーラインがゆっくりと前に進みでようとしたとき、部屋の反対側の角に隠れるように立っていた男が声をあげた。
「ちょっと待ってもらえるかな」
一斉に全員の視線が彼に集まる。
「ワイルドさん、オレの紹介はなしなのか?」
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