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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第98話 ネルさん、そもそも売春は犯罪なんだろ
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「ネルさん。アバーラインさんがわざわざ来たっていうんじゃあ、なにかただならぬことが起きたんじゃないのかねぇ」
「ただならぬこと?。そいつはなんなのぉ」
ネルの口調がいつも、甘ったるいものに変わった。
「そいつはわからないさぁ。あんた、なにかやらかしたンじゃないかい」
「ゾーイ、人聞きがわるいことを言うじゃないのぉ。そりゃ、あたしの『太客』を引っこ抜こうとしている女ともめたことはあるわ。でも、警察に追いかけてこられるほど、ひどいことはやってないわ」
「ネルさん、そもそも『売春』が犯罪なんだろ」
「は、なにをおっしゃってるの。あんなのはただの業よ。もしあんなのでしょっぴかれるなら、イーストエンド中から女っていう女は、いなくなっちゃうわよ」
そのとき、演奏がふいにとまって、会場が静かになった。
とたんに会場内がざわつきはじめる。
入り口からフレッド・アバーライン警部補がジョージ・ゴードリーと一緒に会場に入ってくるのが見えた。
ゴードリーは見慣れない青年を引き連れている。
「あーーあ。せっかく贅沢な食事を食べ、とびっきりの酒を飲み、心やすらぐ音楽を聞きながら、紳士たちとかたらって、すっかり夢見心地だった、ったのに……。ほんとうに警察って、無粋な連中ですわね。たぶんあのひとたちは、ひとのしあわせを壊すのが仕事なんですわ」
ネルがすっかり意気消沈しながら悪態をつぶいた。
そのとき玄関口の正面の階段にスピロが姿をあらわした。
スピロを見つけたアバーラインたちが、階段のたもとへ小走りで駆け寄る。
「あたしたちも行こうじゃあないか」
そう言うとゾーイはネルの手をひいた。ネルはすこし抵抗したが、肩をおとしてゾーイにしたがった。
ゾーイたちがアバーラインに近づくと、ゴードリーが手錠をかけられている若い男のことに、スピロが言及していた。
「アバーライン様、この方は誰です?」
「あ、いえ、スピロさん。この青年は……」
アバーラインがそう言ったが、ゴードリーは青年の手首にかかる手錠をかかげてみせた。
「こそ泥ですよ」
「こそ泥がわたしたちになんの関係が?」
「いえ。関係ありません。玄関に向かっているときに、窓から忍び込もうとしているのを見つけましてね。職務ですので、いたしかたなく逮捕したというわけです」
「待ってください。自分はこそ泥なんかじゃない!」
その青年がゴードリーの腕をふりほどこうとしながら抗議したが、ゴードリーはつかんでいる手錠にぎゅっと力をいれた。
「残念だな。警察の見解では、他人の家に黙って忍び込もうとするヤツのことを『こそ泥』というんだよ」
「ちがいますよ。自分はサウス・ケンジントンの科学師範学校(現インペリアル・カレッジ)で生物学を学んでいる学生です」
「生物学?。生物学の学生がなんのようだ?」
そう言って荒々しく手錠を揺さぶる。輪っかが喰いこんだらしく、青年は思わず顔をしかめた。
「こちらに作家のスティーブンソン先生が、アメリカから一時帰国されていると聞いて、一目会いたくてきたんです」
「スティーブンソン?。誰だいそりゃ?」
「ただならぬこと?。そいつはなんなのぉ」
ネルの口調がいつも、甘ったるいものに変わった。
「そいつはわからないさぁ。あんた、なにかやらかしたンじゃないかい」
「ゾーイ、人聞きがわるいことを言うじゃないのぉ。そりゃ、あたしの『太客』を引っこ抜こうとしている女ともめたことはあるわ。でも、警察に追いかけてこられるほど、ひどいことはやってないわ」
「ネルさん、そもそも『売春』が犯罪なんだろ」
「は、なにをおっしゃってるの。あんなのはただの業よ。もしあんなのでしょっぴかれるなら、イーストエンド中から女っていう女は、いなくなっちゃうわよ」
そのとき、演奏がふいにとまって、会場が静かになった。
とたんに会場内がざわつきはじめる。
入り口からフレッド・アバーライン警部補がジョージ・ゴードリーと一緒に会場に入ってくるのが見えた。
ゴードリーは見慣れない青年を引き連れている。
「あーーあ。せっかく贅沢な食事を食べ、とびっきりの酒を飲み、心やすらぐ音楽を聞きながら、紳士たちとかたらって、すっかり夢見心地だった、ったのに……。ほんとうに警察って、無粋な連中ですわね。たぶんあのひとたちは、ひとのしあわせを壊すのが仕事なんですわ」
ネルがすっかり意気消沈しながら悪態をつぶいた。
そのとき玄関口の正面の階段にスピロが姿をあらわした。
スピロを見つけたアバーラインたちが、階段のたもとへ小走りで駆け寄る。
「あたしたちも行こうじゃあないか」
そう言うとゾーイはネルの手をひいた。ネルはすこし抵抗したが、肩をおとしてゾーイにしたがった。
ゾーイたちがアバーラインに近づくと、ゴードリーが手錠をかけられている若い男のことに、スピロが言及していた。
「アバーライン様、この方は誰です?」
「あ、いえ、スピロさん。この青年は……」
アバーラインがそう言ったが、ゴードリーは青年の手首にかかる手錠をかかげてみせた。
「こそ泥ですよ」
「こそ泥がわたしたちになんの関係が?」
「いえ。関係ありません。玄関に向かっているときに、窓から忍び込もうとしているのを見つけましてね。職務ですので、いたしかたなく逮捕したというわけです」
「待ってください。自分はこそ泥なんかじゃない!」
その青年がゴードリーの腕をふりほどこうとしながら抗議したが、ゴードリーはつかんでいる手錠にぎゅっと力をいれた。
「残念だな。警察の見解では、他人の家に黙って忍び込もうとするヤツのことを『こそ泥』というんだよ」
「ちがいますよ。自分はサウス・ケンジントンの科学師範学校(現インペリアル・カレッジ)で生物学を学んでいる学生です」
「生物学?。生物学の学生がなんのようだ?」
そう言って荒々しく手錠を揺さぶる。輪っかが喰いこんだらしく、青年は思わず顔をしかめた。
「こちらに作家のスティーブンソン先生が、アメリカから一時帰国されていると聞いて、一目会いたくてきたんです」
「スティーブンソン?。誰だいそりゃ?」
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