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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第94話 確証バイアスにふりまわされている
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精神異常者のように揶揄されて、マリアが怒りをあらわにしたが、フロイトは自分に酔うように持論をまくしてた。
「当然であろう。わが輩はイエス・キリストの生まれ変わりだと信じている者や、アルバート公(ヴィクトリア女王の配偶者)の落とし胤と嘯く輩をずいぶん診てきた。未来から来たなどという奇天烈なことを、真顔で口にする患者はさすがにはじめてだがね」
「フロイト様、どうやら『確証バイアス』にふりまわされているようですね」
スピ口がさらりとした口調で、聞き馴染みのない専門用語をおりまぜてきた。
「確証……バイアス?。なんだね。それは?」
「確証バイアスは『認知バイアス』と呼ばれる人間心理の一種です。それは周りの環境や誤ったデータで、ひとが非合理的な判断をしてしまう心理のこと。『確証バイアス』とは個人の先入観だけで他人を観察し、自分に都合のいい情報だけを集めて、自己の先入観を補強するという傾向のことを言います」
「な、なんとも。適当にでっちあげたにしては、よくできている。ミスター・ワイルド、余興にしては実に手が込んでいるではないか」
フロイトはそう言ってワイルドのほうに相好を崩してみせたが、ワイルドがまったく笑っていないのを見て、あわててその部屋にいるおとなたち二人、ドイルとリンタロウの顔色をうかがった。
「ドクトル・フロイト。これは余興ではありません。冗談でからかっているつもりもない」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、ミスター・ワイルド。君ともあろうものがそれを信じているのかね」
「ああ完全にね。でも僕だけじゃない。ここにいる医者のドイル君と、日本の医者モリ・リンタロウ君もだ」
「医者がふたりもそろって?。何の医者かね。彼らは心の医者ではあるまい!」
そうあげつらわれたリンタロウは、フロイトの態度にすこし立腹しているようだった。わざと陸軍式の敬礼をしてみせて言った。
「小生はニッポンの軍医で、衛生学を学ぶべくドイツ帝国陸軍に派遣されました。ライプツィヒ、ドレスデン、ミュンヘン、ベルリン、ウィーンで約5年間最新医学を習得し、コッホ衛生試験所では細菌学も学ばせてもらいました」
「あ、あたしもですね、神経学を学んでおりまして、『脊髄癆における血管運動神経の変化に関する試論』で博士号を取得しておりまして……」
「ほう、ではいまは神経科医を?」
「い、いえ……、ただの町医者でして……」
「当然であろう。わが輩はイエス・キリストの生まれ変わりだと信じている者や、アルバート公(ヴィクトリア女王の配偶者)の落とし胤と嘯く輩をずいぶん診てきた。未来から来たなどという奇天烈なことを、真顔で口にする患者はさすがにはじめてだがね」
「フロイト様、どうやら『確証バイアス』にふりまわされているようですね」
スピ口がさらりとした口調で、聞き馴染みのない専門用語をおりまぜてきた。
「確証……バイアス?。なんだね。それは?」
「確証バイアスは『認知バイアス』と呼ばれる人間心理の一種です。それは周りの環境や誤ったデータで、ひとが非合理的な判断をしてしまう心理のこと。『確証バイアス』とは個人の先入観だけで他人を観察し、自分に都合のいい情報だけを集めて、自己の先入観を補強するという傾向のことを言います」
「な、なんとも。適当にでっちあげたにしては、よくできている。ミスター・ワイルド、余興にしては実に手が込んでいるではないか」
フロイトはそう言ってワイルドのほうに相好を崩してみせたが、ワイルドがまったく笑っていないのを見て、あわててその部屋にいるおとなたち二人、ドイルとリンタロウの顔色をうかがった。
「ドクトル・フロイト。これは余興ではありません。冗談でからかっているつもりもない」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、ミスター・ワイルド。君ともあろうものがそれを信じているのかね」
「ああ完全にね。でも僕だけじゃない。ここにいる医者のドイル君と、日本の医者モリ・リンタロウ君もだ」
「医者がふたりもそろって?。何の医者かね。彼らは心の医者ではあるまい!」
そうあげつらわれたリンタロウは、フロイトの態度にすこし立腹しているようだった。わざと陸軍式の敬礼をしてみせて言った。
「小生はニッポンの軍医で、衛生学を学ぶべくドイツ帝国陸軍に派遣されました。ライプツィヒ、ドレスデン、ミュンヘン、ベルリン、ウィーンで約5年間最新医学を習得し、コッホ衛生試験所では細菌学も学ばせてもらいました」
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「い、いえ……、ただの町医者でして……」
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