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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第91話 なんですかな?。そのシャーロック……とは?
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オスカー・ワイルドに招かれた別室へは、ネルとお目付け役のゾーイ以外の、残りの六人で向かうことにした。その部屋は二階にある執務室だったが、アンティークな丸テーブルが設えられており、十人程度は楽に歓談できるほどの広さがあった。
オスカーワイルドは話を聞いたあとも、顔色を変えずにいた。
だが、セイには彼が必死でそうつとめているだけで、立ちあがったらふらつくか、もしくは立ちあがれないかもしれないほどに見えた。その目にはそれほどのショックの色がありありと浮かんでいたが、それでもワイルドは冷静な口調で言った。
「それで君……、リンタロウだったかな。君はこの話を信じたのかね?」
「ええ、もちろんですとも。これが存外に小生のことをあまりにも云ひあてるものですから、気味が悪くってですね。まるで興信所の探偵にでもひそかに探らせたようで。ですが、未来のことまで見通せる探偵なんぞはおらんでしょう」
「そうだな。いくら名探偵シャーロック・ホームズでも未来は言いあてられんよな」
マリアがドイルを軽く突っつきながら言うと、ワイルドは怪訝そうな顔で尋ねた。
「なんですかな?。そのシャーロック……なんとかと言うのは?」
ワイルドがその名を口にするや、ドイルはもう大慌てで弁明しはじめた。
「あ、いえ、その、ワイルドさん。気にとめないでくださいよ。たいした話じゃないんですから。シャーロック・ホームズってーーのは、あたしが書いた小説にでてくる探偵のことですが、まぁ、もうこれが、ちぃっとも売れなかったヤツで、ワイルドさんに覚えておいてもらうなんて、とてもとても……」
「ほう、君も本を書いているのかね。えーと、なんとおっしゃったかな?」
「コナン・ドイル。アーサー・コナン・ドイルっていう田舎の町医者です。あんまり患者がこないもんで駄文ばかり書きつらねておりましてね」
「ドイル様。ご謙遜する必要はございませんわよ。あなたはとても有名な作家になるのですよ。その暇な時間のおかげで……」
スピロがすがすがしいまでに褒めたたえたが、ドイルはワイルドにまるで助けでも請うように卑屈な姿勢で、「ほら、このひとたち、ちょっとおかしいんですよ。あたしが歴史小説で身をたてるってぇならまだしも、小遣い稼ぎのような推理小説でだなんて」と弁明した。
「推理小説。ふうむ、エドガー・アラン・ポーのようなものかね?」
「あ、いや、あんな神様のような方と比べられても困ります。そりゃね、作品の中じゃあデュパンなんぞ『へぼ探偵』だなんて、ホームズにこき下ろさせましたよ。でもそれは本心なんかじゃないんですから」
「ほう。そこまで言いきるなんて、なかなかに小気味いいじゃないか?。次にでる本の予定は?」
「あ、はい17世紀後半のモンマスの反乱を描いた『マイカ・クラーク』が来年に」
「興味深いね。おぼえておくことにしよう」
その時、外の方から大きな怒鳴り声が聞こえてきた。
「ひとを待たせて、どういうつもりかね!」
オスカーワイルドは話を聞いたあとも、顔色を変えずにいた。
だが、セイには彼が必死でそうつとめているだけで、立ちあがったらふらつくか、もしくは立ちあがれないかもしれないほどに見えた。その目にはそれほどのショックの色がありありと浮かんでいたが、それでもワイルドは冷静な口調で言った。
「それで君……、リンタロウだったかな。君はこの話を信じたのかね?」
「ええ、もちろんですとも。これが存外に小生のことをあまりにも云ひあてるものですから、気味が悪くってですね。まるで興信所の探偵にでもひそかに探らせたようで。ですが、未来のことまで見通せる探偵なんぞはおらんでしょう」
「そうだな。いくら名探偵シャーロック・ホームズでも未来は言いあてられんよな」
マリアがドイルを軽く突っつきながら言うと、ワイルドは怪訝そうな顔で尋ねた。
「なんですかな?。そのシャーロック……なんとかと言うのは?」
ワイルドがその名を口にするや、ドイルはもう大慌てで弁明しはじめた。
「あ、いえ、その、ワイルドさん。気にとめないでくださいよ。たいした話じゃないんですから。シャーロック・ホームズってーーのは、あたしが書いた小説にでてくる探偵のことですが、まぁ、もうこれが、ちぃっとも売れなかったヤツで、ワイルドさんに覚えておいてもらうなんて、とてもとても……」
「ほう、君も本を書いているのかね。えーと、なんとおっしゃったかな?」
「コナン・ドイル。アーサー・コナン・ドイルっていう田舎の町医者です。あんまり患者がこないもんで駄文ばかり書きつらねておりましてね」
「ドイル様。ご謙遜する必要はございませんわよ。あなたはとても有名な作家になるのですよ。その暇な時間のおかげで……」
スピロがすがすがしいまでに褒めたたえたが、ドイルはワイルドにまるで助けでも請うように卑屈な姿勢で、「ほら、このひとたち、ちょっとおかしいんですよ。あたしが歴史小説で身をたてるってぇならまだしも、小遣い稼ぎのような推理小説でだなんて」と弁明した。
「推理小説。ふうむ、エドガー・アラン・ポーのようなものかね?」
「あ、いや、あんな神様のような方と比べられても困ります。そりゃね、作品の中じゃあデュパンなんぞ『へぼ探偵』だなんて、ホームズにこき下ろさせましたよ。でもそれは本心なんかじゃないんですから」
「ほう。そこまで言いきるなんて、なかなかに小気味いいじゃないか?。次にでる本の予定は?」
「あ、はい17世紀後半のモンマスの反乱を描いた『マイカ・クラーク』が来年に」
「興味深いね。おぼえておくことにしよう」
その時、外の方から大きな怒鳴り声が聞こえてきた。
「ひとを待たせて、どういうつもりかね!」
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