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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第90話 ジェンダーの境界を侵犯してみせた小説ですよね
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「はぁ?」
スピロが得意満面に披瀝するワイルドのことばを、侮蔑のこもった口調でぶった切ってきた。それがあまりにもあからさまだったので、セイはぎょっとした。
それはワイルド当人もおなじで、その取り巻きの女性とともにショックを受けていた。一瞬でその場の空気が冷えきった、とセイは感じた。
「あの作品は、異性愛・同性愛という区別にとらわれない、新たな愛の形を啓蒙したものですよね。銅像とツバメという無機物と動物を通して、この時代の因襲的に強制された『男らしさ・女らしさ』というジェンダーの境界を侵犯してのけたものではないですか?」
冷えきったと思ったその場の雰囲気が、そのことばでさらに凍てついた。セイはごくりと唾を飲みこんだ。
「な、なにを言うのかね」
「否定したいのは当然です。この時代、『ソドミー(逸脱した性行為)』はたしか二年間の重労働付き懲役が課せられますからね」
「き、君は……な、なにものかね?」
「申し遅れました。わたしは、スピロ・クロニス 17歳、ギリシア人。そして生物学的な『性』は……」
スピロは顔色ひとつ変えることなく言い放った。
「男性です」
スピロが堂々とカミングアウトすると、ワイルドは目をおおきく見開いた。セイはその表情に嬉しさのような好意的なニュアンスを感じとった。が、残念なことに取り巻きの女性たちは嫌悪感が、あからさまに表層に浮かんでいた。
「スピロさん、なぜあなたは女性の格好を……?」
「からだは男性ですが、心は女性として生れてきたからです」
「やられたな。僕が『ウラニズム』と呼んでいる恋愛の形を、堂々と実践している人がいるなんて……。さすが『ウラヌス』が産まれたギリシアだけはある」
「これは『トランス・ジェンダー』と未来で称されているあたらしい性の形です」
「トランス・ジェンダー?、未来?。スピロさん、あなたたたちはいったいなにものなんです?」
「聞いてませんでしたか。わたくしたちは未来から来たなユニークな連中ですわ」
「そうか。それはおもしろい」
ワイルドはクールな表情を崩さないまま、期待や興奮をその上に重ねあわせたようなダンディな笑顔をスピ口にむけた。
「ワイルド様、そんな戯言信じるのですか!」
「しかも女装をするような非常識な男性ですよ!」
取り巻きの女性たちから、口々に抗議の声があがったが、ワイルドはまるで野良猫でも追い払うような仕草で手をふって、彼女たちへの答えとした。それをみた取り巻き女性は、一人残らず怒りの表情をスピロにむけると、好き勝手な捨て台詞を吐きながら、その場から去っていった。
「ワイルド様、良いのですか?。あなたのファンをあのように邪険にして」
「あぁ、構わないとも。ファンは彼女たちだけじゃない」
ワイルドは色目遣いのようにも感じる、熱いまなざしをスピロにむけて言った。
「それよりもスピロさん、ぜひとも詳しい話を静かな部屋で聞かせてくれないかね」
スピロが得意満面に披瀝するワイルドのことばを、侮蔑のこもった口調でぶった切ってきた。それがあまりにもあからさまだったので、セイはぎょっとした。
それはワイルド当人もおなじで、その取り巻きの女性とともにショックを受けていた。一瞬でその場の空気が冷えきった、とセイは感じた。
「あの作品は、異性愛・同性愛という区別にとらわれない、新たな愛の形を啓蒙したものですよね。銅像とツバメという無機物と動物を通して、この時代の因襲的に強制された『男らしさ・女らしさ』というジェンダーの境界を侵犯してのけたものではないですか?」
冷えきったと思ったその場の雰囲気が、そのことばでさらに凍てついた。セイはごくりと唾を飲みこんだ。
「な、なにを言うのかね」
「否定したいのは当然です。この時代、『ソドミー(逸脱した性行為)』はたしか二年間の重労働付き懲役が課せられますからね」
「き、君は……な、なにものかね?」
「申し遅れました。わたしは、スピロ・クロニス 17歳、ギリシア人。そして生物学的な『性』は……」
スピロは顔色ひとつ変えることなく言い放った。
「男性です」
スピロが堂々とカミングアウトすると、ワイルドは目をおおきく見開いた。セイはその表情に嬉しさのような好意的なニュアンスを感じとった。が、残念なことに取り巻きの女性たちは嫌悪感が、あからさまに表層に浮かんでいた。
「スピロさん、なぜあなたは女性の格好を……?」
「からだは男性ですが、心は女性として生れてきたからです」
「やられたな。僕が『ウラニズム』と呼んでいる恋愛の形を、堂々と実践している人がいるなんて……。さすが『ウラヌス』が産まれたギリシアだけはある」
「これは『トランス・ジェンダー』と未来で称されているあたらしい性の形です」
「トランス・ジェンダー?、未来?。スピロさん、あなたたたちはいったいなにものなんです?」
「聞いてませんでしたか。わたくしたちは未来から来たなユニークな連中ですわ」
「そうか。それはおもしろい」
ワイルドはクールな表情を崩さないまま、期待や興奮をその上に重ねあわせたようなダンディな笑顔をスピ口にむけた。
「ワイルド様、そんな戯言信じるのですか!」
「しかも女装をするような非常識な男性ですよ!」
取り巻きの女性たちから、口々に抗議の声があがったが、ワイルドはまるで野良猫でも追い払うような仕草で手をふって、彼女たちへの答えとした。それをみた取り巻き女性は、一人残らず怒りの表情をスピロにむけると、好き勝手な捨て台詞を吐きながら、その場から去っていった。
「ワイルド様、良いのですか?。あなたのファンをあのように邪険にして」
「あぁ、構わないとも。ファンは彼女たちだけじゃない」
ワイルドは色目遣いのようにも感じる、熱いまなざしをスピロにむけて言った。
「それよりもスピロさん、ぜひとも詳しい話を静かな部屋で聞かせてくれないかね」
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