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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第82話 フランシス・コール(ネル)との再会
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「ネル様。いえ、フランシス・コール様」
スピロがネルに声をかけると、彼女はぶるっとからだを震わせ、あわてて両手で胸元を隠すようにしてあとずさりした。
「あたくしはスピロ・クロニスと申します。怪しいものではありません」
「じゅうぶん怪しいわよぉ。だいたいなんで、アタシの本名を知ってのよぉ」
「あなたにご協力をいただきたいことがありまして、お伺いいたしました」
ネルは猜疑の気持ちをいっぱい目に浮かべて、罵るように言った。
「わかったわ。アンタの旦那か恋人が、アタシと寝たから責任とらせようって魂胆なんでしょ。でもね、こっちも商売でやってるの。ほんとうに好きになったりするわけないじゃないのぉ。殿方が勝手にのぼせあがっても、アタシは寝取るつもりなんかありませんからね」
「はは、あんたのじゃあ、まだ男を骨抜きにできやしないからねぇ」
年長の女がネルにむかって茶々を入れると、まわりの女たちがドッと笑う。ネルは腹立たしげに顔をゆがめて「そりゃ、姉さんたちみたいに、まだ使い込んじゃいませんからね」と返すと、またドッと笑いがはじけた。
だがそのやりとりをスピ口は一瞬で静まりかえらせた。手にもった巾着袋をわざと石畳に落とすことで。
その袋は地面に落ちると『ガシャッ』と金属同士がぶつかる音をたてた。
それだけでその場の笑いがとまり、誰もが無言のままその袋に目を奪われた。
「あら、失礼。重たくて落としてしまいました」
そう言いながらスピロは袋を重たそうに拾いあげると、わざとらしく袋のまわりの汚れを手ではたいてみせた。『ジャラッ、ジャラッ』というあきらかな金属音が聞こえる。
「すこし汚れてしまいました。この袋はネル様、あなたにお渡しするためにお持ちしたものだったのですが……」
スピロは袋の口を開くと、なかから一枚の一ポンド硬貨をつまみだして、ネルの目の前に掲げてみせた。とまどったネルの視線は、突きつけられた一ポンド硬貨と、それがでてきた巾着袋のあいだを行ったりきたりしている。
「こ、これをアタシに?」
「はい。あなたに今の商売を数ヶ月ばかり中断していただき、わたくしたちと行動をともにしていただきたいのです」
「アンタたちと一緒に?。でもその数ヶ月間。アタシになにをやらせるつもりなのよぉ」
「なにも」
「なにも……って、そんなうまい話あるわけないでしょ」
「まぁ、ふつうに考えればそうですね。ですが、わたくしたちの都合で、あなたに遠くにいられては困る。という事情がありまして……」
スピロがネルに声をかけると、彼女はぶるっとからだを震わせ、あわてて両手で胸元を隠すようにしてあとずさりした。
「あたくしはスピロ・クロニスと申します。怪しいものではありません」
「じゅうぶん怪しいわよぉ。だいたいなんで、アタシの本名を知ってのよぉ」
「あなたにご協力をいただきたいことがありまして、お伺いいたしました」
ネルは猜疑の気持ちをいっぱい目に浮かべて、罵るように言った。
「わかったわ。アンタの旦那か恋人が、アタシと寝たから責任とらせようって魂胆なんでしょ。でもね、こっちも商売でやってるの。ほんとうに好きになったりするわけないじゃないのぉ。殿方が勝手にのぼせあがっても、アタシは寝取るつもりなんかありませんからね」
「はは、あんたのじゃあ、まだ男を骨抜きにできやしないからねぇ」
年長の女がネルにむかって茶々を入れると、まわりの女たちがドッと笑う。ネルは腹立たしげに顔をゆがめて「そりゃ、姉さんたちみたいに、まだ使い込んじゃいませんからね」と返すと、またドッと笑いがはじけた。
だがそのやりとりをスピ口は一瞬で静まりかえらせた。手にもった巾着袋をわざと石畳に落とすことで。
その袋は地面に落ちると『ガシャッ』と金属同士がぶつかる音をたてた。
それだけでその場の笑いがとまり、誰もが無言のままその袋に目を奪われた。
「あら、失礼。重たくて落としてしまいました」
そう言いながらスピロは袋を重たそうに拾いあげると、わざとらしく袋のまわりの汚れを手ではたいてみせた。『ジャラッ、ジャラッ』というあきらかな金属音が聞こえる。
「すこし汚れてしまいました。この袋はネル様、あなたにお渡しするためにお持ちしたものだったのですが……」
スピロは袋の口を開くと、なかから一枚の一ポンド硬貨をつまみだして、ネルの目の前に掲げてみせた。とまどったネルの視線は、突きつけられた一ポンド硬貨と、それがでてきた巾着袋のあいだを行ったりきたりしている。
「こ、これをアタシに?」
「はい。あなたに今の商売を数ヶ月ばかり中断していただき、わたくしたちと行動をともにしていただきたいのです」
「アンタたちと一緒に?。でもその数ヶ月間。アタシになにをやらせるつもりなのよぉ」
「なにも」
「なにも……って、そんなうまい話あるわけないでしょ」
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