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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第68話 尾崎行雄氏への面会のため龍動(ロンドン)に
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「カートゥーンとちがう?。いえ、そうではありません。映像作品で歴史に先入観を持つと、いらぬ混乱をまねくはめになるのです。さきほどのアバーライン様のようにね」
「はん、ご忠告、痛み入るよ」
自分の出現のせいで思いもよらない諍いになったのことに、ばつが悪そうにしているモリ・リンタロウにセイは声をかけた。
「モリ・リンタロウさん。すみません。なんか大騒ぎしちゃって」
「いやいや、こちらこそ、小生のせいで……」
「いえ、気になさらないでください。ぼくはユメミ・セイと言います」
「セイ君か。いやに若いね。貴君も国からの命令かなにかでこの龍動に?」
「いえ、そんなのではないんです」
「ほう、ではこちらに知り合いかなにかが?」
セイはあまり深入りされるのも、面倒を引き起こしそうだと感じた。
「それより、リンタロウさんこそ、ロンドンになにをしに来られたのです?」
「小生かい?。小生は陸軍省本部付けの陸軍軍医副(中尉相当)でね。ドイツ帝国陸軍の衛生制度を調べるために留学生として派遣を命ぜられたのだよ。数年ばかり研修を積んで、ベルリンのコッホ研究所で、北里柴三郎氏と細菌の研究をやってるところに、帰国命令がでたので、その前にいくつかの所用を済ませるために、龍動に立ち寄ったところなのさ」
リンタロウは背後のほうを曖昧に指し示しながら続けた。
「まぁ、『保安条例』で東京から退去処分になった尾崎行雄氏に面会して、詩編のいくつかを送っただけなのだけどね」
「尾崎行雄……って、あの『憲政の神様』と呼ばれた人ですか?」
「なんの神様だって?。彼は政府の『条約改正』案に反対して、後藤象二郎氏を担ぎだして、クーデターを計画したせいで逐客となった男だよ」
「『条約改正』?。『保安条例』?。すみません。それって試験にでますかね?」
「試験?。貴君がなにを言っているか、小生にはとんとわからないなぁ。『条約改正』というのは、諸外国との間に結ばされた『不平等条約』を対等なものに改正しようという外交交渉のことだし、『保安条例』というのは、自由民権運動を弾圧するための法律さ」
「あぁ、そうでした。それは試験にでます」
セイは一生懸命頭を巡らせて、教科書を思い出しながら相槌をうった。
「小生はこれから巴里に立ち寄ってから帰国するところさ。9月の頭には帰京(都に帰ること)しているだろうよ。聖くん、きみは?」
「ぼくらはこれから起こる、歴史的な連続殺人事件の犯人をつかまえるためにここにきたんです」
「これから起こる?。聖くん、まったく貴君はおかしなことを云ふね。まだ起きてもないことも過去のことのように云ふなんて。どうしてわかるというのだね」
「わたくしたちが未来から来た者だからです」
スピロがリンタロウのほうへ進みでて言った。
「未来から?。あのぅ、失礼ですが、その——」
「わたくしはスピロ・クロニス。ギリシア人です」
「はん、ご忠告、痛み入るよ」
自分の出現のせいで思いもよらない諍いになったのことに、ばつが悪そうにしているモリ・リンタロウにセイは声をかけた。
「モリ・リンタロウさん。すみません。なんか大騒ぎしちゃって」
「いやいや、こちらこそ、小生のせいで……」
「いえ、気になさらないでください。ぼくはユメミ・セイと言います」
「セイ君か。いやに若いね。貴君も国からの命令かなにかでこの龍動に?」
「いえ、そんなのではないんです」
「ほう、ではこちらに知り合いかなにかが?」
セイはあまり深入りされるのも、面倒を引き起こしそうだと感じた。
「それより、リンタロウさんこそ、ロンドンになにをしに来られたのです?」
「小生かい?。小生は陸軍省本部付けの陸軍軍医副(中尉相当)でね。ドイツ帝国陸軍の衛生制度を調べるために留学生として派遣を命ぜられたのだよ。数年ばかり研修を積んで、ベルリンのコッホ研究所で、北里柴三郎氏と細菌の研究をやってるところに、帰国命令がでたので、その前にいくつかの所用を済ませるために、龍動に立ち寄ったところなのさ」
リンタロウは背後のほうを曖昧に指し示しながら続けた。
「まぁ、『保安条例』で東京から退去処分になった尾崎行雄氏に面会して、詩編のいくつかを送っただけなのだけどね」
「尾崎行雄……って、あの『憲政の神様』と呼ばれた人ですか?」
「なんの神様だって?。彼は政府の『条約改正』案に反対して、後藤象二郎氏を担ぎだして、クーデターを計画したせいで逐客となった男だよ」
「『条約改正』?。『保安条例』?。すみません。それって試験にでますかね?」
「試験?。貴君がなにを言っているか、小生にはとんとわからないなぁ。『条約改正』というのは、諸外国との間に結ばされた『不平等条約』を対等なものに改正しようという外交交渉のことだし、『保安条例』というのは、自由民権運動を弾圧するための法律さ」
「あぁ、そうでした。それは試験にでます」
セイは一生懸命頭を巡らせて、教科書を思い出しながら相槌をうった。
「小生はこれから巴里に立ち寄ってから帰国するところさ。9月の頭には帰京(都に帰ること)しているだろうよ。聖くん、きみは?」
「ぼくらはこれから起こる、歴史的な連続殺人事件の犯人をつかまえるためにここにきたんです」
「これから起こる?。聖くん、まったく貴君はおかしなことを云ふね。まだ起きてもないことも過去のことのように云ふなんて。どうしてわかるというのだね」
「わたくしたちが未来から来た者だからです」
スピロがリンタロウのほうへ進みでて言った。
「未来から?。あのぅ、失礼ですが、その——」
「わたくしはスピロ・クロニス。ギリシア人です」
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