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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜

第66話 警察のくせに未来の犯行を防ごうとはしない

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 主任刑事アバーラインから『できる限り』という制約はあったものの、協力をとりつけたセイたちだったが、スコットランド・ヤードの建屋から出てくるなり、言い争いになった。
 まずはエヴァが口火を切る。
「なんですの、あのひとたちは。警察のくせに未来の犯行を防ごうとはしないなんて!」
「しかも見張りにつけるのが、あのゴードリーじゃあ、役に立たねぇだろ。あのデブじゃあ、イーストエンドに溶け込めるわけがねぇ」
「ありゃ、偉そうな態度で、見張りどころか、住人と揉めるだろうねぇ」
「マリアもエヴァもゾーイも我慢して!」
 セイはみんなのわがまま勝手を、いさめるよう口をはさんだ。
「スピロだって、ぼくだって、納得したわけじゃない。でも未来の犯罪を防げと言われて、困惑するアバーラインさんの気持ちも理解できる。そうだろ、スピロ?」

「セイ様、申し訳ありませんが、そうではありません」
 スピロから返ってきたことばは、セイには予想外のものだった。二の句がつげない。
「どちらかというと、アバーライン様にがんばられて、未来の犯行を未然に防がれるほうが厄介です」
「ど、どういうことなんだい?」
「わたしたちは『切り裂きジャック』の被害者を助けにきたわけではありません。犯人を捕まえにきたのです」
「だけど、その犯人をそこで捕まえられたら、そのあとの犯行も阻止できて、ネルさんも殺されずに済むんじゃないのかい」
「そう思いたいのですが、このマーサ・タブラムという被害者は、正式には『切り裂きジャック』の手によるものとはされていません。手口がわずかにちがうからです」
「でも、スピロの意見はちがうんだろ」
「ええ。ただ断定はできません。が、同時に『切り裂きジャック』の犯行ではない、とも言い切れないのです。これは後世の研究者のあいだでも、いまだに意見がわかれるところです。だからわたくしはこの犯人を『シリアル・マーダラー』と呼ばせることにしたのです」
「シリアル・キラーじゃねぇのか?」
「それはFBIが30人以上の女性を殺した『テッド・バンディ』をあらわすのに呼称したものです。その前には『シリアル・マーダラー』と呼ばれていたようです」
「まいったな。じゃあ、スピロ、きみの計画では、そのシリアル・マーダラーに対して、ぼくらはなにもせずに待ってろってことなのかい」

「はい。犯人が凶行におよぶのを見張って、犯人がだれかを見届けるのです」

「お姉さま、そいつはいくらなんでも、ひどすぎないかい」
「抵抗感がありますわ」
「ははは、気に入ったぜ、スピロ。目的のためなら手段を選ばねぇってのがな」

 スピロの提案に、また好き勝手言いはじめたが、今度はセイも彼女たち同様、ひとこと言いたい気分だった。だが、そのことばを飲みこんだ。

 また今度もネルさんを助けられないなら、きれいごとは——、くちにするな、だ。
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