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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第65話 ゴードリー、セイに感謝しろ
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スピロから詳しく話を聞いたアバーラインは意外にも、すんなりとスピロの説明を信じた。
セイは警察署で刃物を取りだしたことと、怒りにまかせたような態度で、ゴードンに謝罪を迫ったことをこころから詫びた。
「ゴードリー、セイに感謝しろ」
マリアが居心地悪そうに身を縮こまらせて、同席しているゴードンにむかって吐きすてるように言った。
「セイの抜刀が速くなかったら、おまえの首はオレが刎ねてる」
「いえ、わたしが先に蜂の巣にしています。ヘイト発言は許されるものではありませんわ」
エヴァもマリアに続けて滔々と自分たちの正当性を説いたが、ゾーイはその場を取りつくろった。
「まあ、マリアさん、エヴァさん。あたいらのいる21世紀と、この19世紀じゃあ、価値観がちがって当たり前だろうさ。だいたいここじゃあヘイト発言どころか、子供の人権すら、これっぽっちも配慮されちゃあしないだろ」
「そうか……。キミたちはすでにイースト・エンドをみてきたんだね」
「はい……」
スピロが沈欝な表情でアバーラインに言った。
「無慈悲な衛生環境と容赦ない貧困が、ひとびとを絶望にのみ込んでいく場所を。そして人類の歴史上もっとも悲惨と言われる住宅事情もね……」
「あそこは犯罪があいさつがわりにおきてる場所だ。娼婦の連続殺人が起きたからと言って、キミらが言う世界を震撼させるような注目を浴びるとは、とうてい思えないのだが……」
「あら、アバーラインさん。わたしたちが未来からきた人物だと信じたのではないですか?」
エヴァがアバーラインをとがめるように言った。
「ああ。キミらが未来から来た。いや、すくなくとも我々と同列の時代にいない、そしてなにか特殊な力を持っているらしい、というのは、なんとなくね。だけど、キミらの語る未来のことが真実であるとは、簡単には信じられない」
「まぁ、じつに警察らしい口ぶりですわね」
「えぇ、警察官ですからね」
「は、警察官っていうより、その慇懃さは銀行員のように感じるがな。で、アバーライン、あんたはどうするつもりだ」
マリアがアバーラインに決断を迫ると、彼はゆっくりとたちあがり、部屋のなかを歩き回りはじめた。
「スピロさん。あなたが『シリアル・マーダラー』と呼ばれた、その犯人による、一連の連続殺人ですが、一番最初の事件はいつ起きるのでしたか?」
「8月7日です」
「ふむ、法定休日か……。ではその日に本当にその事件が起きるのか、待とうじゃないか」
「アバーライン様、お待ちください。歴史的には8月7日ですが、わたしたちがこの地にきた時点で、そのあたりの時系列はかなり曖昧になるのです。以前、ここに来たときには、2年後におきるイベントが、その日の夜に起きたりしました」
「どうにも嘘っぽいですね」
「えぇ……。わたくしたちの言うことを信じきれない、というのも理解できます。でも最初の事件現場はホワイトチャペル・ロード。被害者は39歳の娼婦、マーサ・タブラムなのは確かなのです」
「では、法定休日まで、そのマーサ・タブラム嬢に、ゴードリーを見張りとしてつけることにしましょう」
アバーラインはスピロに提案してきた。
それをかたわらで聞いていたゴードリーは、えっという驚きを顔に浮かべ、おおきくため息を吐きだした。
セイは警察署で刃物を取りだしたことと、怒りにまかせたような態度で、ゴードンに謝罪を迫ったことをこころから詫びた。
「ゴードリー、セイに感謝しろ」
マリアが居心地悪そうに身を縮こまらせて、同席しているゴードンにむかって吐きすてるように言った。
「セイの抜刀が速くなかったら、おまえの首はオレが刎ねてる」
「いえ、わたしが先に蜂の巣にしています。ヘイト発言は許されるものではありませんわ」
エヴァもマリアに続けて滔々と自分たちの正当性を説いたが、ゾーイはその場を取りつくろった。
「まあ、マリアさん、エヴァさん。あたいらのいる21世紀と、この19世紀じゃあ、価値観がちがって当たり前だろうさ。だいたいここじゃあヘイト発言どころか、子供の人権すら、これっぽっちも配慮されちゃあしないだろ」
「そうか……。キミたちはすでにイースト・エンドをみてきたんだね」
「はい……」
スピロが沈欝な表情でアバーラインに言った。
「無慈悲な衛生環境と容赦ない貧困が、ひとびとを絶望にのみ込んでいく場所を。そして人類の歴史上もっとも悲惨と言われる住宅事情もね……」
「あそこは犯罪があいさつがわりにおきてる場所だ。娼婦の連続殺人が起きたからと言って、キミらが言う世界を震撼させるような注目を浴びるとは、とうてい思えないのだが……」
「あら、アバーラインさん。わたしたちが未来からきた人物だと信じたのではないですか?」
エヴァがアバーラインをとがめるように言った。
「ああ。キミらが未来から来た。いや、すくなくとも我々と同列の時代にいない、そしてなにか特殊な力を持っているらしい、というのは、なんとなくね。だけど、キミらの語る未来のことが真実であるとは、簡単には信じられない」
「まぁ、じつに警察らしい口ぶりですわね」
「えぇ、警察官ですからね」
「は、警察官っていうより、その慇懃さは銀行員のように感じるがな。で、アバーライン、あんたはどうするつもりだ」
マリアがアバーラインに決断を迫ると、彼はゆっくりとたちあがり、部屋のなかを歩き回りはじめた。
「スピロさん。あなたが『シリアル・マーダラー』と呼ばれた、その犯人による、一連の連続殺人ですが、一番最初の事件はいつ起きるのでしたか?」
「8月7日です」
「ふむ、法定休日か……。ではその日に本当にその事件が起きるのか、待とうじゃないか」
「アバーライン様、お待ちください。歴史的には8月7日ですが、わたしたちがこの地にきた時点で、そのあたりの時系列はかなり曖昧になるのです。以前、ここに来たときには、2年後におきるイベントが、その日の夜に起きたりしました」
「どうにも嘘っぽいですね」
「えぇ……。わたくしたちの言うことを信じきれない、というのも理解できます。でも最初の事件現場はホワイトチャペル・ロード。被害者は39歳の娼婦、マーサ・タブラムなのは確かなのです」
「では、法定休日まで、そのマーサ・タブラム嬢に、ゴードリーを見張りとしてつけることにしましょう」
アバーラインはスピロに提案してきた。
それをかたわらで聞いていたゴードリーは、えっという驚きを顔に浮かべ、おおきくため息を吐きだした。
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