上 下
540 / 935
ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜

第64話 今のことば、とりけしてもらえるかな

しおりを挟む
 いつのまに——。

 ゾーイの頭のなかに一瞬のうちに、いくつもの疑問符が頭に浮かんだ。ゾーイとおなじようにスピロにも、その早業は驚異に映ったようだった。目をおおきく見開いたまま見とれている。
 だがマリアとエヴァはちがっていた。
 マリアは自分の手のひらのうえに黒い雲を呼びだしていたし、エヴァは下にむけた手からの念で、床に黒い穴を現出させている。

「ゴードリーさん。今のことば、とりけしてもらえるかな」

 セイは精いっぱいビジネスライクな口調で、ゴードリーに謝罪を要求した。
「ど、どのこ、こ、ことば……」
「ここにいるぼくの仲間は、あなたにひどい言われ方をするような人じゃない」
「あぁ……。そ、そう……」
 ゴードリーの目は後悔と詫びの念で涙があふれんばかりだったが、彼はことばもなくうんうんと首を小刻みに縦揺れさせるだけだった。
 さすがにゾーイはゴードンが少々憐れに思えてきたが、それをとめたのはアバーラインだった。
「ちょっと、キミ。やめてもらませんかね!。ここは警察署ですよ」
「えぇ、わかっています」
 セイがアバーラインのほうへ向き直って言った。
「だからこの場所で、ぼくの仲間が勝手に罪人まがいの、濡れ衣を着させられることには黙っていられない」
「わ、わかった。ゴードンが吐いた暴言はわたしが謝ろう。だからその物騒なものを引っ込めてくれないかね」
「アバーライン警部補がそうおっしゃるのでしたら……」
 セイはあっさりとそのことばに従い、ゴードンにつきつけていた日本刀を引くと、すかさず上へ放りあげた。
 日本刀は天井にぶつかりそうになると、元からそんなものは存在しなかったかのように消えうせていた。

「おどろいたな」
 アバーラインは刀が消えた空間に目をむけたまま、上の空のような口調で言った。
 ゴードンが「うぅぅぅぅ」と呻き声をあげて、その場に崩れるように膝をついた。首筋につきつけられていた刃に
「きみらは、サーカスの団員かなにかなのかね。『バーナム・アンド・ベイリーサーカス』」かなにかの?」
 アバーラインがすこし興奮気味にセイに尋ねた。
「サーカスではありません」
「でも、今、長い剣をどこからか取り出して消失させたじゃないか。まるで希代のマジシャン、フーディーニのようだ」
「いえ、手品師でもありませんわ」
「じゃあ、いったいぜんたいきみらは何者なんだね?」


 そのこたえはセイよりも先に、スピロが答えた。
「未来からきた名探偵——、と言ったところです」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

追放冒険者、才能開花のススメ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:152

世界最強の俺は正体を明かさない ~眠れる獅子のもがれた牙が生えるまで~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:1,303

転生した悪役貴族はそれでも頑張らない

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:110

転生したので、とりあえず最強を目指してみることにしました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:2,457

私の平穏ライフをお返しやがれください!!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:92

預言者エルマの七転八倒人生 破滅フラグは足音を立ててやってくる!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:62

誰得☆ラリクエ! 俺を攻略するんじゃねぇ!? ~攻略!高天原学園編~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:207pt お気に入り:13

クラス全員が転生して俺と彼女だけが残された件

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:21

処理中です...