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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第49話 それって手も汚さずつかめるもんじゃないだろ
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目の前でネルが連れ去られる。だがウェンディのミアズマが邪魔をして、まったく手が出せない。苛立ちと焦りばかりが募る。
「マリアさん、エヴァさん。なんとか出てこれないのかい。ミアズマが逃げちまう!」
ゾーイは壁越しにすこしばかりの苛立ちをぶつけた。
「ムチャ言うな。こっちも部屋ンなかに二体いて、身動きがとれねぇ。こっちもしっかりと釘付けされてンだ!。おまえにまかせるしかねぇ」
すくなくとも五体——。マリアとエヴァたちの部屋に二体。ネルを拉致している二体。そして目の前のウェンディ。
「わかったよ。なんとかするさ」
ゾーイは大声でマリアに伝えると、ナイフをぐっと握りしめてウェンディのミアズマを見つめた。
「ゾーイ……」
背後から姉スピロの声が聞こえた。ふりむかなくてもわかった。スピロの声がふるえている。
「お姉さま。なにも言わないでおくれ!」
「しかし、おまえはセイ様たちとはちがうのですよ。この世界で怪物や悪魔も倒し慣れてない。ましてやひとなど……」
「お姉さま。あたいたちはセイさんに選んでもらったんだよ。だからそれに応えたいのさ」
「ですが、セイ様はそんな働きを期待しているわけでは……」
「お姉さまは居場所を与えられた……。だけど、あたいは自分の手でその居場所を掴みたいのさ」
ナイフを握る右手にもう一方を添えて、ぐっと身構える。
「でもそれって、手も汚さずつかめるもんじゃないだろ」
そのときウェンディがうっすらと目をあけた。まだあどけなさが残るかわいい盛りの顔で、ゾーイを見つめる。そんな顔で見つめられたら、だれだって顔がほころぶにちがいない。
だがゾーイはおおきく息を吸い込むと、からだを前に踏み込んでウェンディの顔にナイフを突き立てた。
その手に肉を貫いた感触が伝わってくる。
スピロから聞いた『「ムサカ(ギリシア名物の野菜の重ね焼き)」を切る』ようなやわらかな感触ではない。
「いやぁぁぁぁ」
ウェンディが泣き叫んだ。ナイフで貫いた彼女の右目から、どくどくと血が噴き出していた。痛みにあえいでいるのか、ミアズマのからだが脚をバタバタさせている。
ゾーイはハッとした。
ふいに己がおかした行為が、人間として許されない残虐なものであったのではないかと思い知らされた。
足がガクガクと震え出す。
「よくやった!。ゾーイ」
そんな威勢のいい声が聞こえたかと思うと、背中をパンとはたかれた。一瞬、背後にミアズマが潜んでいて、それに襲われたかと身構えたが、よく見るとそれはマリアだった。
「マリアさん、エヴァさん。なんとか出てこれないのかい。ミアズマが逃げちまう!」
ゾーイは壁越しにすこしばかりの苛立ちをぶつけた。
「ムチャ言うな。こっちも部屋ンなかに二体いて、身動きがとれねぇ。こっちもしっかりと釘付けされてンだ!。おまえにまかせるしかねぇ」
すくなくとも五体——。マリアとエヴァたちの部屋に二体。ネルを拉致している二体。そして目の前のウェンディ。
「わかったよ。なんとかするさ」
ゾーイは大声でマリアに伝えると、ナイフをぐっと握りしめてウェンディのミアズマを見つめた。
「ゾーイ……」
背後から姉スピロの声が聞こえた。ふりむかなくてもわかった。スピロの声がふるえている。
「お姉さま。なにも言わないでおくれ!」
「しかし、おまえはセイ様たちとはちがうのですよ。この世界で怪物や悪魔も倒し慣れてない。ましてやひとなど……」
「お姉さま。あたいたちはセイさんに選んでもらったんだよ。だからそれに応えたいのさ」
「ですが、セイ様はそんな働きを期待しているわけでは……」
「お姉さまは居場所を与えられた……。だけど、あたいは自分の手でその居場所を掴みたいのさ」
ナイフを握る右手にもう一方を添えて、ぐっと身構える。
「でもそれって、手も汚さずつかめるもんじゃないだろ」
そのときウェンディがうっすらと目をあけた。まだあどけなさが残るかわいい盛りの顔で、ゾーイを見つめる。そんな顔で見つめられたら、だれだって顔がほころぶにちがいない。
だがゾーイはおおきく息を吸い込むと、からだを前に踏み込んでウェンディの顔にナイフを突き立てた。
その手に肉を貫いた感触が伝わってくる。
スピロから聞いた『「ムサカ(ギリシア名物の野菜の重ね焼き)」を切る』ようなやわらかな感触ではない。
「いやぁぁぁぁ」
ウェンディが泣き叫んだ。ナイフで貫いた彼女の右目から、どくどくと血が噴き出していた。痛みにあえいでいるのか、ミアズマのからだが脚をバタバタさせている。
ゾーイはハッとした。
ふいに己がおかした行為が、人間として許されない残虐なものであったのではないかと思い知らされた。
足がガクガクと震え出す。
「よくやった!。ゾーイ」
そんな威勢のいい声が聞こえたかと思うと、背中をパンとはたかれた。一瞬、背後にミアズマが潜んでいて、それに襲われたかと身構えたが、よく見るとそれはマリアだった。
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