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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第45話 まさかこんな即効で力をうしなうとは
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なにかがちがう——。
セイは剣を呼び出した瞬間から違和感を覚えていた。続けざまに複数の刀を召喚できなか上、手にした日本刀もいつもとちがい、手に馴染まなかった。マリアもなんども剣を持ち変えていたので、おなじような違和感があったのにちがいない。
しかも一太刀ふるうたびに、体が重たくなっていく——。
そして跳躍力がたりず地面に叩きつけられると、セイはもっていた一本きりの日本刀をうしなった。手元から突然消失したのだ。
セイはあわてて立ちあがると、マリアのほうに駆け出した。
自分がそうなら、マリアもおなじ状況に陥るはずだ、という判断だったが、はたしてその通り、セイの目の前でマリアの剣がはね飛ばされ、マリアは力なく地面に落ちて行くところだった。
ミアズマの細い脚のあいだをくぐり抜け、セイがからだを滑らせる。あたりに飛び散ったぬめったミアズマの血のおかげで、マリアが地面に直撃する寸前で、からだを滑り込ませることができた。あおむけになったままセイがマリアのからだを抱きとめる。
「大丈夫かい、マリア」
マリアはうつぶせの状態で受けとめられ、セイの胸のなかに顔をうずめていた。顔もあげずに胸元で口だけ動かす。
「なんとか……。まさかこんな即効で力をうしなうとは思わなかった……」
「逃げるよ」
セイは跳ねるようにして起き上がると、マリアの手をひいて、ミアズマの脚の下を駆け出した。からだを屈めたまま駆け抜けると、その先に膝をついたまま動けなくなっているゾーイを見つけた。
「ゾーイ!」
「セイさん、すまないねぇ。力が抜けちまって……」
苦しそうな息の下からそう詫びられて、セイはゾーイになにがおきているか悟った。おそらくテレキネシスを使うのに、ゾーイは未練の力だけでなく、生来持ち合わせている自分の現世の力まで使ったに違いなかった。
セイはゾーイのからだの前にかがんで背中をむけると、無理やり手をとって負ぶった。
セイはみんなを引き連れて二階建ての貸間長屋のなかに逃げ込んだ。だが、それだけでは危機から脱したというのには、ほど遠いことがわかっていた。未練の力をうしなった自分たちに、残された手札はそれほど残っていない。
「セイさん!」
外からエヴァの叫び声が聞こえた。
目をむけると、まだ外に取り残されていたネルとエヴァの姿があった。が、ふたりの侵入を拒むように、長屋の入り口を入り組んだ格子が塞いでいた。それは入り口に立ちふさがるミアズマの脚だった。
セイは剣を呼び出した瞬間から違和感を覚えていた。続けざまに複数の刀を召喚できなか上、手にした日本刀もいつもとちがい、手に馴染まなかった。マリアもなんども剣を持ち変えていたので、おなじような違和感があったのにちがいない。
しかも一太刀ふるうたびに、体が重たくなっていく——。
そして跳躍力がたりず地面に叩きつけられると、セイはもっていた一本きりの日本刀をうしなった。手元から突然消失したのだ。
セイはあわてて立ちあがると、マリアのほうに駆け出した。
自分がそうなら、マリアもおなじ状況に陥るはずだ、という判断だったが、はたしてその通り、セイの目の前でマリアの剣がはね飛ばされ、マリアは力なく地面に落ちて行くところだった。
ミアズマの細い脚のあいだをくぐり抜け、セイがからだを滑らせる。あたりに飛び散ったぬめったミアズマの血のおかげで、マリアが地面に直撃する寸前で、からだを滑り込ませることができた。あおむけになったままセイがマリアのからだを抱きとめる。
「大丈夫かい、マリア」
マリアはうつぶせの状態で受けとめられ、セイの胸のなかに顔をうずめていた。顔もあげずに胸元で口だけ動かす。
「なんとか……。まさかこんな即効で力をうしなうとは思わなかった……」
「逃げるよ」
セイは跳ねるようにして起き上がると、マリアの手をひいて、ミアズマの脚の下を駆け出した。からだを屈めたまま駆け抜けると、その先に膝をついたまま動けなくなっているゾーイを見つけた。
「ゾーイ!」
「セイさん、すまないねぇ。力が抜けちまって……」
苦しそうな息の下からそう詫びられて、セイはゾーイになにがおきているか悟った。おそらくテレキネシスを使うのに、ゾーイは未練の力だけでなく、生来持ち合わせている自分の現世の力まで使ったに違いなかった。
セイはゾーイのからだの前にかがんで背中をむけると、無理やり手をとって負ぶった。
セイはみんなを引き連れて二階建ての貸間長屋のなかに逃げ込んだ。だが、それだけでは危機から脱したというのには、ほど遠いことがわかっていた。未練の力をうしなった自分たちに、残された手札はそれほど残っていない。
「セイさん!」
外からエヴァの叫び声が聞こえた。
目をむけると、まだ外に取り残されていたネルとエヴァの姿があった。が、ふたりの侵入を拒むように、長屋の入り口を入り組んだ格子が塞いでいた。それは入り口に立ちふさがるミアズマの脚だった。
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