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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜

第24話 切り裂きジャックの歌

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「仕方がないさ」
 ピーターはその話を語ってから、意見を言った。
「役人っていうのは怠慢が仕事だろ。警官だってそうさ。このオールド・ニコルじゃあ、あいつらは不利な証言をして、ひとの命と自由を危険にさらすことしか頭にない、まったくの悪人って言われてるからね」
 
 たっぷりとこのイースト・エンドの悲惨な話を聞いていると、ふたり組の男の子が息を切らせながら戻ってきた。その顔には晴れがましい笑顔が浮かんでいた。セイは赤毛の女性が見つかったとすぐにわかった。
 ふたりはピーターのおなかに飛びついて言った。
「ピーター、赤毛キャロティのネルが見つかったよ」
「そうだよ。赤毛キャロティのネル、見つかった」
 ピーターはふたりの頭を手でくしゃくちゃと撫でながら訊いた。
「ジョン、マイケル。ふたりともよくやった。ネルはどこに?」
「ホワイトチャペルさ」とジョンが言うと、「チャンバー・ストリートのスワロー・ガーデンだよ」とマイケルが続ける。
「まさか!。ほんとうかい。ネルはスワロー・ガーデンに?」
「あたりまえじゃないか。あそこはネルの仕事場所だろ」
「そうだよ。ほかのどこに行くって言うのさ」
 ピーターはふたりの頭に手をのせたまま、ふたりの目線まで腰を落とすと、ことばを選ぶように言った。
「ほら、今日の朝、ホワイトチャペルでおんなの人が……、事件があったろ」
「切り裂きジャックだ」
 ジョンが叫ぶと、マイケルがはやし立てるように、節をつけて歌いだした。

『切り裂きジャックが死んじゃった
 ベッドのうえで伸びちゃった
 サンライト印の石鹸で
 自分の喉を掻切って
 切り裂きジャックは死んじゃった——』

 ピーターはふたりの頭をぎゅっと抑えると、耳元でささやくように言った。
「ふたりにもうひとつ頼みごとをお願いしたい。ふたりでウェンディを家に送り届けてくれないかい。そして戻ってきた連中には、明日は腹いっぱい食事ができるって教えてあげておいてね」
「ピーターは?」
「ぼくはこのひとたちをスワロー・ガーデンに連れて行かなくちゃならない」
 ふたりは「わかった」と言っておおきく頷くと、ウェンディの手をとってそのまま奥の路地のほうへ歩き出した。
 その様子を黙って見守っていたが、子供たちが去ると、セイがピーターに尋ねた。
「な、なんかおもしろい歌だね」
「最近、子供たちのあいだで流行っているらしいんだ」
「子供たちのあいだにまでかい」
 ゾーイがおどろきを口にすると、スピロは当たり前と言わんばかりに述べた。

「こういう事例はいくつかありますよ。『リジー・ボーデン』の事件なんかが有名です。まぁ、それもこの『切り裂きジャック』がルーツなのですがね」
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