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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第15話 四畳半に10人も住んでる!?
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「へぇ、10人にも?。ざっと見た感じ、そんなに広そうに見えないけどなぁ」
「セイ様、なにをおっしゃいます。広いモンですか!。ひと部屋はせいぜい縦横8フィート……。2・5メートル程度ですよ」
セイがおどろきの声をあげた。
「嘘だろ!。それって、日本だと四畳半くらいじゃないか。どうやってそんな狭い場所に何人も住めるんだい」
「住む?。いえ、暮らしているんですわ。これでさらに部屋のなかで、家畜を飼っていることもあるのですから」
セイはそれ以上なにも言えなくなった。が、それはマリアもおなじ思いだった。容易に想像できない状態に混乱した。どこをどうやったら十人もの人間と家畜が狭い部屋に同居できるというのだろうか……。
「ここにある建物は部屋の壁を共有する背割り長屋と呼ばれる、長屋をこまかく杜切られてつくられた狭小住宅です。のちの研究家たちによれば、人間の住居が歴史上もっとも悲惨になったのはこの時代であったと言及されているのです」
マリアはあたりに座り込んでいる連中を睥睨してから、スピロに言った。
「つまり、ここにいンのはその狭い部屋から押しだされた連中ってわけかよ」
「えぇ、そうです。ですが、それだけではありません。丸一日借りられない人々は三交代制で部屋をシェアしていたといいます。もしかしたら、このなかにはその時間になるのを待っている者もいるかもしれません」
「とても信じられない。だれにものかわからないひとの温もりが残ったベッドで寝るなんて……」
セイが絞り出すようにして言った。
「なにをいまさら驚くことが。セイ、おまえだって、今までいろんな酷い時代を見てきただろうに」
「うん、マリア。たしかに見てきた。でもこれはまたなんかちがう……」
セイはその悲惨さをどう語っていいのかわからず戸惑っているようだった。
「ンまぁ……、たしかに聞きしにまさるな。それにしてもコインを盗んだヤツにゃぁ、まんまと逃げられたぞ。スピロ、これからどうする?」
「逃げられた?。いいえ、マリア様。いま追いかけている最中ですわよ」
「追いかけている?。スピロ、そりゃ、どういう意味だぁ?」
スピロは上をみあげて、空のかなたを指さした。
「ほら、あそこに」
マリアがスピロに促されて、夜空を見あげると、エヴァの『ピストル・バイク』が上空に浮かんでいるのが見えた。ロンドン名物の煙る『霧』のせいで、ぼんやりとしたシルエットしかわからなかったが、この時代にあの場所に浮いてられるのは、エヴァの産み出したあのふざけた兵器しかない。
「エヴァ、いつのまに!」
「一瞬でしたわ。あっという間にゾーイも連れて行かれました」
スピロがこともなげに答えたのが、マリアには癪に障った。すくなくとも自分よりエヴァのほうが的確に行動したということだ。
「かーっ、マジかよ。圧倒的に先こされてンじゃねぇか」
マリアは思わず頭を抱え込んだが、スピロはそんな様子を気にする様子もなく、ただ当たり前の事実を淡々と言い放った。
「マリア様、なにをおっしゃっているんです?。あのエヴァ様ですよ——」
「お金がからむことで、あの方に敵うわけないではないですか」
「セイ様、なにをおっしゃいます。広いモンですか!。ひと部屋はせいぜい縦横8フィート……。2・5メートル程度ですよ」
セイがおどろきの声をあげた。
「嘘だろ!。それって、日本だと四畳半くらいじゃないか。どうやってそんな狭い場所に何人も住めるんだい」
「住む?。いえ、暮らしているんですわ。これでさらに部屋のなかで、家畜を飼っていることもあるのですから」
セイはそれ以上なにも言えなくなった。が、それはマリアもおなじ思いだった。容易に想像できない状態に混乱した。どこをどうやったら十人もの人間と家畜が狭い部屋に同居できるというのだろうか……。
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マリアはあたりに座り込んでいる連中を睥睨してから、スピロに言った。
「つまり、ここにいンのはその狭い部屋から押しだされた連中ってわけかよ」
「えぇ、そうです。ですが、それだけではありません。丸一日借りられない人々は三交代制で部屋をシェアしていたといいます。もしかしたら、このなかにはその時間になるのを待っている者もいるかもしれません」
「とても信じられない。だれにものかわからないひとの温もりが残ったベッドで寝るなんて……」
セイが絞り出すようにして言った。
「なにをいまさら驚くことが。セイ、おまえだって、今までいろんな酷い時代を見てきただろうに」
「うん、マリア。たしかに見てきた。でもこれはまたなんかちがう……」
セイはその悲惨さをどう語っていいのかわからず戸惑っているようだった。
「ンまぁ……、たしかに聞きしにまさるな。それにしてもコインを盗んだヤツにゃぁ、まんまと逃げられたぞ。スピロ、これからどうする?」
「逃げられた?。いいえ、マリア様。いま追いかけている最中ですわよ」
「追いかけている?。スピロ、そりゃ、どういう意味だぁ?」
スピロは上をみあげて、空のかなたを指さした。
「ほら、あそこに」
マリアがスピロに促されて、夜空を見あげると、エヴァの『ピストル・バイク』が上空に浮かんでいるのが見えた。ロンドン名物の煙る『霧』のせいで、ぼんやりとしたシルエットしかわからなかったが、この時代にあの場所に浮いてられるのは、エヴァの産み出したあのふざけた兵器しかない。
「エヴァ、いつのまに!」
「一瞬でしたわ。あっという間にゾーイも連れて行かれました」
スピロがこともなげに答えたのが、マリアには癪に障った。すくなくとも自分よりエヴァのほうが的確に行動したということだ。
「かーっ、マジかよ。圧倒的に先こされてンじゃねぇか」
マリアは思わず頭を抱え込んだが、スピロはそんな様子を気にする様子もなく、ただ当たり前の事実を淡々と言い放った。
「マリア様、なにをおっしゃっているんです?。あのエヴァ様ですよ——」
「お金がからむことで、あの方に敵うわけないではないですか」
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