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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第13話 ホワイトチャペル3
しおりを挟む「あれは……、服……なのですか?」
「えぇ。そうですね。ここ『ホワイトチャペル』では、みすぼらしい、だけでは不足でしたわ……」
「汚くて、臭い、くらいでないと馴染まなかったようです。貧民のなかでも、貧民、最貧民のさらに下、『どん底貧民』にカテゴライズされる人々が巣くう場所ですから……」
「だったら話は早ぇ。エヴァの得意分野だ。金でけりがつく。だろ、エヴァ」
マリアが得意満面にそう持ちかけると、エヴァはあからさまに迷惑そうな顔をした。
「まぁ。情報を得るのに、これほど簡単なことはありませんわね」
「だったら金の力で、要引揚者をここの住人に探してもらおうじゃねぇか。ゾーイ。その要引揚者の特徴を教えてくれ」
有無を言わさずことを進めるマリアにスピロが呆れ返っていた。
「ここの住人に訊く、ですか……。わたくしも考えが及びませんでしたが……、まぁ、試してみてもいいかもしれません。いささか気分も悪くなってきたことですし……」
エヴァがスピロの目の前に手のひらを広げた。いつのまにか、その手の上には5枚のコインが乗っていた。
「スピロさん。これでいいかしら」
スピロはそのなかの一枚を摘んでもちあげるなり、エヴァに言った。
「エヴァ様、これはダメです。時代がちがいますわよ。『エリザベス二世』の横顔が刻印された1シリング硬貨は、ここでは使えません。『ヴィクトリア一世』のものでなくては……」
「あれぇ?」
そう言ってエヴァは、舌をだしたまま片目をつぶって、片手で自分の頭をこづくようなポーズをした。
「エヴァ、『てへぺろ』でごまかしてンじゃねぇよ」
マリアがうんざりして、つっこみをいれる。が、エヴァが返してきたことばは、なんとも拍子抜けするものだった。
「あれ?。なくなりました……」
「なにがなくなったのさ」
セイはエヴァがぼーっとしている姿をみて、つい声をかけた。
「セイさん。コインが全部なくなったんです」
「なくなった?」
エヴァはセイのほうに両方の手のひらをむけた。そこには先ほどまで乗っかっていた5枚の1シリング硬貨はなかった。
「まずいですよ、エヴァ様。あれをこの時代に使われると厄介事を引き起こしかねません。はやく消し去るかなにかしないと……」
「スピロさん。消せと言われましても、手元にないものを消すことはできません。消すには一度わたしの手のなかにいれないと……」
「じゃあ、どうすれば……」
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