462 / 935
ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
第110話 ハギア・ソフィア大聖堂
しおりを挟む
マリアは聖堂への入り口の前に立つと上をみあげた。『皇帝の門』と呼ばれるおおきな正面入口の上の空間にモザイク画があった。だれかにだれかがひれ伏している姿が描かれていた。
マリアは神経を研ぎ澄ましながら、聖堂のなかにゆっくりと足を踏み入れた。
目の前にビザンチン建築の最高傑作と称された、ハギア・ソフィアの聖堂が姿を現した。スルタン、メフメト二世さえも驚嘆させたその聖堂は、地上55メートル、直 径33メートル、現代の18階建てのビルに匹敵する巨大な中央ドームを、周囲の半円ドームが支える構造になっていた。高い天蓋に覆われた広々とした内部空間は、宮殿のような威厳すら感じさせる。
だが、コンスタンティノープル陥落から数年の間に内部はかなり作り替えられていた。
十字架などキリスト教世界のものはすべて取り除かれ、聖地メッカの方向を指し示すミフラーブと呼ばれる壁龕(壁の窪み状の設備)がすえられていた。
マリアはネイブと呼ばれる教会の中央部分にゆっくりと歩みでていく。
「マリア、それを見て、どう思うかね?」
奥のほうからロルフの声が聞こえた。広いドーム状の構内に反響する。
「どうって?。なんとも」
「イスラム教のスルタンは、ここをモスクにするために、ビザンチン美術の最高傑作を台無しにしようとしているのだよ」
「だから?。歴史は常に勝った者が自分の都合のいいように書き換えるものでしょう」
「きみが今通ってきた聖堂の入り口の門の上を見たかね、キリストと、キリストに礼拝をする皇帝のモザイク画だ。このあとの時代のスルタンたちはこれらの芸術すらも、塗り固めてしまうのだよ」
マリアは必死で耳をすませた。音が反響してロルフがどこにいるのかがわからない。ふっと足元を風が洗っていくのを感じた。マリアはとっさに下に注意を向けかけた。
ロルフはそんなマヌケじゃないっっ。
すぐさま天井に目をむけた。ドーム天井付近の空気によどみのようなものを感じた。ロルフがおしゃべりで時間を稼いでいるあいだに、上空に風の塊を圧縮していたのだと瞬時に悟った。
押し潰すつもりねぇぇ——。
マリアは持っていた剣を投げ出すと、床をちからの限り蹴飛ばして、いまさきほど通ってきた『皇帝の門』のほうへ、弾丸のように飛び出した。と同時に強力な気圧の塊が一気に上からのしかかってきた。マリアのからだはその塊が床を穿つ直前に、入り口からすり抜けていた。
マリアは神経を研ぎ澄ましながら、聖堂のなかにゆっくりと足を踏み入れた。
目の前にビザンチン建築の最高傑作と称された、ハギア・ソフィアの聖堂が姿を現した。スルタン、メフメト二世さえも驚嘆させたその聖堂は、地上55メートル、直 径33メートル、現代の18階建てのビルに匹敵する巨大な中央ドームを、周囲の半円ドームが支える構造になっていた。高い天蓋に覆われた広々とした内部空間は、宮殿のような威厳すら感じさせる。
だが、コンスタンティノープル陥落から数年の間に内部はかなり作り替えられていた。
十字架などキリスト教世界のものはすべて取り除かれ、聖地メッカの方向を指し示すミフラーブと呼ばれる壁龕(壁の窪み状の設備)がすえられていた。
マリアはネイブと呼ばれる教会の中央部分にゆっくりと歩みでていく。
「マリア、それを見て、どう思うかね?」
奥のほうからロルフの声が聞こえた。広いドーム状の構内に反響する。
「どうって?。なんとも」
「イスラム教のスルタンは、ここをモスクにするために、ビザンチン美術の最高傑作を台無しにしようとしているのだよ」
「だから?。歴史は常に勝った者が自分の都合のいいように書き換えるものでしょう」
「きみが今通ってきた聖堂の入り口の門の上を見たかね、キリストと、キリストに礼拝をする皇帝のモザイク画だ。このあとの時代のスルタンたちはこれらの芸術すらも、塗り固めてしまうのだよ」
マリアは必死で耳をすませた。音が反響してロルフがどこにいるのかがわからない。ふっと足元を風が洗っていくのを感じた。マリアはとっさに下に注意を向けかけた。
ロルフはそんなマヌケじゃないっっ。
すぐさま天井に目をむけた。ドーム天井付近の空気によどみのようなものを感じた。ロルフがおしゃべりで時間を稼いでいるあいだに、上空に風の塊を圧縮していたのだと瞬時に悟った。
押し潰すつもりねぇぇ——。
マリアは持っていた剣を投げ出すと、床をちからの限り蹴飛ばして、いまさきほど通ってきた『皇帝の門』のほうへ、弾丸のように飛び出した。と同時に強力な気圧の塊が一気に上からのしかかってきた。マリアのからだはその塊が床を穿つ直前に、入り口からすり抜けていた。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる