460 / 935
ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
第108話 なんて独りよがりな考え方!!!!
しおりを挟む
「彼はすでにこのイスタンブール陥落を目のあたりにして、大きなショックを受けている。ここでメフメトの首を刎ねて、さらに絶望を味わってもらおうっていう趣向なのだよ」
前に引き摺りだされたジグムントは、いまにもへたり込みそうなほど憔悴していた。目を見開いたまま、虚ろな視線をさまよわせていた。おそらくここが首都イスタンブールであるとは認識しているようだった。だが視点がさだまらず、いくら目の玉を動かしても、その実、なにも網膜には届いていないように感じられた。
「その子にトラウマを植えつけてどうするつもり?」
ロルフはうれしそうに微笑みながら、手を横にひろげてあたりを指し示した。
「マリア、この時代、この場所に執着する、この少年の生まれ変わりがだれかわかるかい?」
「生まれ変わり?。この少年の記憶を持つ要引揚者ってこと?。知るはずないでしょ。あたし今まで事前に知らされたことなんてないわよ」
ロルフはとても冷徹な笑みを口元に刻んだ。
「あるイスラム国家の次期最高指導者と目されているアリー・ハタミ」
「それがなんなの?」
「ぼくらの任務はそのイスラムの重要人物に、これ以上ないトラウマを植えつけてから、現世に連れ戻すことなのだよ。このことでキリスト教陣営は現実世界で、計り知れないほど大きなアドバンテージを得ることができる。マリア」
ロルフは胸を張って誇らしげに言い放った。
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁっっっ——」
マリアは怒声を発すると同時にロルフに斬りかかっていた。ロルフはマリアの渾身の太刀を受け流し、横に飛び退いた。予想していたかのような動きだった。
「マリア。レディが口汚くののしるものではないよ」
マリアはロルフにいなされた太刀を反転させて、そのままもう一度斬りかかった。ロルフはその刃を正面から受けた。ガチンと刃と刃が音をたてる。
「あんたらおとながぁぁ——」
マリアはロルフの額に自分の額をこすりつける勢いで近づけて叫んだ。
「あんたらおとながそんなことだから、どんなに歴史を重ねても、地球上から諍いがなくならないのでしょうがぁぁぁ」
「ばかばかしい。戦争がなくならないのは宗教対立のせいだけじゃない。マリア。人種や性差別、貧富の差、リベラルか保守かなどいくらでも転がっている。でも紛争の種をひとつだけでも無くすことができれば凄いことだと思わないかい」
マリアは髪の毛が逆立つほどの怒りがこみあげるのを感じた。
なんて独りよがりな考え方。
自分たちこそが絶対的な正義で、その反対側にもうひとつの正義があるなどと、頭の片隅にすら浮かばない、あまりに偏狭な思想——。
前に引き摺りだされたジグムントは、いまにもへたり込みそうなほど憔悴していた。目を見開いたまま、虚ろな視線をさまよわせていた。おそらくここが首都イスタンブールであるとは認識しているようだった。だが視点がさだまらず、いくら目の玉を動かしても、その実、なにも網膜には届いていないように感じられた。
「その子にトラウマを植えつけてどうするつもり?」
ロルフはうれしそうに微笑みながら、手を横にひろげてあたりを指し示した。
「マリア、この時代、この場所に執着する、この少年の生まれ変わりがだれかわかるかい?」
「生まれ変わり?。この少年の記憶を持つ要引揚者ってこと?。知るはずないでしょ。あたし今まで事前に知らされたことなんてないわよ」
ロルフはとても冷徹な笑みを口元に刻んだ。
「あるイスラム国家の次期最高指導者と目されているアリー・ハタミ」
「それがなんなの?」
「ぼくらの任務はそのイスラムの重要人物に、これ以上ないトラウマを植えつけてから、現世に連れ戻すことなのだよ。このことでキリスト教陣営は現実世界で、計り知れないほど大きなアドバンテージを得ることができる。マリア」
ロルフは胸を張って誇らしげに言い放った。
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁっっっ——」
マリアは怒声を発すると同時にロルフに斬りかかっていた。ロルフはマリアの渾身の太刀を受け流し、横に飛び退いた。予想していたかのような動きだった。
「マリア。レディが口汚くののしるものではないよ」
マリアはロルフにいなされた太刀を反転させて、そのままもう一度斬りかかった。ロルフはその刃を正面から受けた。ガチンと刃と刃が音をたてる。
「あんたらおとながぁぁ——」
マリアはロルフの額に自分の額をこすりつける勢いで近づけて叫んだ。
「あんたらおとながそんなことだから、どんなに歴史を重ねても、地球上から諍いがなくならないのでしょうがぁぁぁ」
「ばかばかしい。戦争がなくならないのは宗教対立のせいだけじゃない。マリア。人種や性差別、貧富の差、リベラルか保守かなどいくらでも転がっている。でも紛争の種をひとつだけでも無くすことができれば凄いことだと思わないかい」
マリアは髪の毛が逆立つほどの怒りがこみあげるのを感じた。
なんて独りよがりな考え方。
自分たちこそが絶対的な正義で、その反対側にもうひとつの正義があるなどと、頭の片隅にすら浮かばない、あまりに偏狭な思想——。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる