450 / 935
ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
第98話 わずか1〜2キロ先に海が迫っていた
しおりを挟む
マリアはすこしホッとしたが、ふいに後方で爆発音がしてハッとした。あわてて後方に首をまわす。
わずか1~2キロメートル先に海が迫っていた。そしてその海を埋め尽くすように、おびただしい数の船が浮かんでいた。その船体にはためくのはハンガリー国旗。
マーチャーシュ公の援軍だった。
さらにその船団のなかに、ジェノバから派遣されたとおぼしき十字軍の大型帆船が混じっていた。そこから大砲が陸地にむけて撃たれていたのだ。
大型帆船から放たれた砲弾が大宮殿の一番海側に面したマグナブラ宮殿の屋根に着弾したのが見えた。別の砲弾は元老院の柱をかすめ、「ハギア・ソフィア大聖堂」の前の広場の土をはねあげた。
目の前にコンスタンティノープル競技場が見えてきた。
すぐその先が皇帝たちがすむ宮殿になる。上空から臨む競技場は壮観だった。
この競馬場のおおきさは長さ450メートル、幅130メートルで、一度に10万人を収容できる規模だった。そしてその競馬場のまんなかにある分離帯にビザンチン文化の荘麗さを見せつけるいくつかのオベリスクが建っていた。
特に『コンスタンティンのオベリスク』と『テオドシウスのオベリスク』はまるで蒼穹を突かんばかりにそそり立ち見るものを圧倒した。
空から見おろしてみても、その高さは『ハギア・ソフィア大聖堂』の尖塔までと同じほどの高さがあり、遠くからも容易に視認できた。『コンスタンティンのオベリスク』はレンガを幾層にも積み上げ、『テオドシウスのオベリスク』一枚岩の花崗岩を掘って作られていた。
そしてそのふたつのオベリスクの中央には、ペルシア戦争のプラタイアの戦いでの勝利を祝して建立された『蛇の柱』があった。三匹の蛇がお互いに絡みつきあいながら、垂直に螺旋に巻いたデザインで、神聖な印象をひとびとに与えた。
マリアはスルタンの居住する宮殿の上を飛び越えたところで、このまま海に落とされると覚悟した。すでに右側の陸地部分には馬の練習所と厩舎が見えてきている。
それを通り過ぎると、すぐにマルマラ海だ。
このまま船の上に着地できれば……。
これ以上戦場から離されると、さすがに手のうちようがない——。
下方からふいに潮風が吹きあがり、湖の臭いが鼻腔をついた。海の上にでたのがわかった。
その瞬間、それまでマリアのからだを圧倒的な力で押しつづけていた、風の勢いが嘘のようにおさまった。あまりにも突然無風になり、マリアは空中でなにかするもなにもなく、あっという間に海に落下していった。
わずか1~2キロメートル先に海が迫っていた。そしてその海を埋め尽くすように、おびただしい数の船が浮かんでいた。その船体にはためくのはハンガリー国旗。
マーチャーシュ公の援軍だった。
さらにその船団のなかに、ジェノバから派遣されたとおぼしき十字軍の大型帆船が混じっていた。そこから大砲が陸地にむけて撃たれていたのだ。
大型帆船から放たれた砲弾が大宮殿の一番海側に面したマグナブラ宮殿の屋根に着弾したのが見えた。別の砲弾は元老院の柱をかすめ、「ハギア・ソフィア大聖堂」の前の広場の土をはねあげた。
目の前にコンスタンティノープル競技場が見えてきた。
すぐその先が皇帝たちがすむ宮殿になる。上空から臨む競技場は壮観だった。
この競馬場のおおきさは長さ450メートル、幅130メートルで、一度に10万人を収容できる規模だった。そしてその競馬場のまんなかにある分離帯にビザンチン文化の荘麗さを見せつけるいくつかのオベリスクが建っていた。
特に『コンスタンティンのオベリスク』と『テオドシウスのオベリスク』はまるで蒼穹を突かんばかりにそそり立ち見るものを圧倒した。
空から見おろしてみても、その高さは『ハギア・ソフィア大聖堂』の尖塔までと同じほどの高さがあり、遠くからも容易に視認できた。『コンスタンティンのオベリスク』はレンガを幾層にも積み上げ、『テオドシウスのオベリスク』一枚岩の花崗岩を掘って作られていた。
そしてそのふたつのオベリスクの中央には、ペルシア戦争のプラタイアの戦いでの勝利を祝して建立された『蛇の柱』があった。三匹の蛇がお互いに絡みつきあいながら、垂直に螺旋に巻いたデザインで、神聖な印象をひとびとに与えた。
マリアはスルタンの居住する宮殿の上を飛び越えたところで、このまま海に落とされると覚悟した。すでに右側の陸地部分には馬の練習所と厩舎が見えてきている。
それを通り過ぎると、すぐにマルマラ海だ。
このまま船の上に着地できれば……。
これ以上戦場から離されると、さすがに手のうちようがない——。
下方からふいに潮風が吹きあがり、湖の臭いが鼻腔をついた。海の上にでたのがわかった。
その瞬間、それまでマリアのからだを圧倒的な力で押しつづけていた、風の勢いが嘘のようにおさまった。あまりにも突然無風になり、マリアは空中でなにかするもなにもなく、あっという間に海に落下していった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。


セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる