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ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
第93話 これがあなたの本当の力っていうわけ?
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「レオン、すべての力を使え」
「遅い!。ここで終わりにするわ!」
そう言ってマリアは力をさらに込めた。
が、剣はゆっくりと押し戻されはじめた。じりじりと刃先がヴラドの額から離れていく。レオンの全部の力がこちらに振り向けられたことがわかった。
と同時に、ふいにあたりに爆発音が響きはじめた。トルコ軍の砲撃が十字軍の陣地に届きはじめたのだった。遠くのほうで砲弾の餌食になった者たちの叫び声が聞こえる。とたんにあたりに喧騒が広がりはじめる。
「マリア、諦めろ。もうきみはドラキュラ公に手を出せない」
「これがあなたの本当の力っていうわけ?」
「あぁ。わかったろ。きみの力自慢もぼくの本気には勝てない」
ヴラドの頭をかち割りそこねた刃は、すでにマリアの真上まで押し戻され、マリアはおおきな剣をもったまま万歳をしている格好になっていた。
マリアはレオンのほうに目をむけた。そして哀しげに言った。
「さすがね、レオン。でもまだ実戦が足りてないわよ」
そう言うなり、左手のなかに短剣を呼びだし、すかさずドラキュラの左胸に突き刺した——。
が、剣はヴラドの甲冑の金具に当たって、すこし切っ先がずれた。剣先は彼の肩口を貫いただけだった。ヴラドが痛みに顔をしかめる。
マリアはヴラドの肩口から剣を引き抜くと、なんの躊躇もせずもう一度突き立てようとした。
その瞬間、正面から一本の太い杭がマリアにむかって飛んできた。マリアはとっさに短剣でその杭を打ち払った。
ゴキンと鈍い音がして短剣が折れる。
マリアは柄だけになった短剣をすてると、長剣を構えて杭が飛んできたほうに目をやった。
そこにストイカがいた。
「殿に手出しはさせませんよ」
「おお、ストイカ……」
ヴラドは前に進み出たストイカに声をかけたが、そのまま声を飲み込んだ。
そこにいるのはたしかにストイカの格好をしていたが、その顔は邪悪に歪み、殺気や狂気に彩られていて、もうほとんどストイカの面影はなかった。その邪悪な気配はまわりの空気を滅するかのように、ぶすぶすと毒気を放っていた。さすがのヴラドも人外の持つ、本物の悪に飲み込まれていた。
ヴラドは自分の前に盾となって立ちはだかってくれているストイカが味方なのか、敵なのかがわからずに混乱した顔つきをしていた。
マリアはストイカの周囲に浮かんでいる『杭』を見つめた。10本ほどの空中に浮いた尖端を鋭く削った串刺し刑用の杭。
すべてがマリアを狙っていた。
マリアは剣を手の中でくるりと回し、構えなおしてから言った。
「あら、ストイカさん。すこし会わないうちに、どうやら人間やめちゃったみたいね」
「遅い!。ここで終わりにするわ!」
そう言ってマリアは力をさらに込めた。
が、剣はゆっくりと押し戻されはじめた。じりじりと刃先がヴラドの額から離れていく。レオンの全部の力がこちらに振り向けられたことがわかった。
と同時に、ふいにあたりに爆発音が響きはじめた。トルコ軍の砲撃が十字軍の陣地に届きはじめたのだった。遠くのほうで砲弾の餌食になった者たちの叫び声が聞こえる。とたんにあたりに喧騒が広がりはじめる。
「マリア、諦めろ。もうきみはドラキュラ公に手を出せない」
「これがあなたの本当の力っていうわけ?」
「あぁ。わかったろ。きみの力自慢もぼくの本気には勝てない」
ヴラドの頭をかち割りそこねた刃は、すでにマリアの真上まで押し戻され、マリアはおおきな剣をもったまま万歳をしている格好になっていた。
マリアはレオンのほうに目をむけた。そして哀しげに言った。
「さすがね、レオン。でもまだ実戦が足りてないわよ」
そう言うなり、左手のなかに短剣を呼びだし、すかさずドラキュラの左胸に突き刺した——。
が、剣はヴラドの甲冑の金具に当たって、すこし切っ先がずれた。剣先は彼の肩口を貫いただけだった。ヴラドが痛みに顔をしかめる。
マリアはヴラドの肩口から剣を引き抜くと、なんの躊躇もせずもう一度突き立てようとした。
その瞬間、正面から一本の太い杭がマリアにむかって飛んできた。マリアはとっさに短剣でその杭を打ち払った。
ゴキンと鈍い音がして短剣が折れる。
マリアは柄だけになった短剣をすてると、長剣を構えて杭が飛んできたほうに目をやった。
そこにストイカがいた。
「殿に手出しはさせませんよ」
「おお、ストイカ……」
ヴラドは前に進み出たストイカに声をかけたが、そのまま声を飲み込んだ。
そこにいるのはたしかにストイカの格好をしていたが、その顔は邪悪に歪み、殺気や狂気に彩られていて、もうほとんどストイカの面影はなかった。その邪悪な気配はまわりの空気を滅するかのように、ぶすぶすと毒気を放っていた。さすがのヴラドも人外の持つ、本物の悪に飲み込まれていた。
ヴラドは自分の前に盾となって立ちはだかってくれているストイカが味方なのか、敵なのかがわからずに混乱した顔つきをしていた。
マリアはストイカの周囲に浮かんでいる『杭』を見つめた。10本ほどの空中に浮いた尖端を鋭く削った串刺し刑用の杭。
すべてがマリアを狙っていた。
マリアは剣を手の中でくるりと回し、構えなおしてから言った。
「あら、ストイカさん。すこし会わないうちに、どうやら人間やめちゃったみたいね」
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