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ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
第82話 マリアはあたりかまわず、剣を振り回していた
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マリアはあたりかまわず、剣を振り回していた。
それが敵に当たろうが、味方に当たろうが、誰のどこの部位を刎ねようが気にかけていられなかった。自分の進路を邪魔するものをただ排徐する——。それだけだった。
マリアにむかって一度に何発もの銃弾が放たれ、何十もの剣が同時に突き出され、何百という矢が射かけられた。
だが、マリアの振り回す剣はことごとくそれらを撥ねのけた。ロルフほどでなかったが、マリアのつくりだす剣圧は、銃弾や矢の勢いをおおきく削いだ。さらにマリアの剣に巻き込まれて宙に放り投げられる兵士たちが、銃弾や矢の盾にもなった。
「うじゃうじゃと湧いてくるのね。そろそろうんざりしてきたわよ」
マリアは正面から襲いかかってきた兵士たちの首を、横に一閃して四、五人まとめて刎ね飛ばしてから言った。首のなくなった兵士の向こうの光景がひらけて、その遥か先にヴラドたちがいる本営が見えた。ぐっと見すえる。
だが、そこへ行かせまいとばかりに、兵士たちはあとからあとから押し寄せてくる。
「あなた方!。無駄なことやめなさい!」
マリアが大声で叫んだが、兵士たちはまったく気にもとめず襲いかかってくる。
「あたし、トルコ軍から『シャイターン』って、怖れられてるのよ。あなたたちもちょっとは臆しなさい!」
マリアはまわりを取り囲んできた兵の足元めがけて剣をぐるりと振り回した。兵たちの膝から下が切断される。兵隊の壁がその場に一気に崩れ落ちた。だが、その様子を見ていたはずの背後の兵は、倒れた兵を踏みつけてマリアに剣を振り上げてきた。
『おかしい……』
マリアは前方の兵士を剣で打ち払いながら、兵士たちの顔を見た。兵士たちの目は白目をむいたように白濁し、口から泡をふいていて、まるで気絶しているかのような状態だった。だが、それでいながら、眉間に深い皴を刻ませ、怒り狂っている。
あきらかに不自然な表情——。
「だれかに操られている?」
一瞬、ノアの仕業かと思った。
だがもしノアなら十字軍側の兵士ではなく、トルコ軍側の兵士を操り自分を背後から襲わせるはずだ。
ノアではない——。
ならば、ロルフがレオンか、と頭を巡らせたが、それもすぐに否定した。二人の能力は物理的、直接的な能力で、感応力のようなものは使えないはずだ。
それとも自分が無知なだけで、ロルフはもうひとつの力を隠し持つ能力があるのか……。
その時、気圧が変化するのを感じた。先ほどメフメト二世に牙をむいた時とおなじか、それ以上の耳鳴りがする圧だった。
そしてその流れはまちがなくこちらにむいていた。
「ロルフ!。あたしを狩るつもりぃ?」
マリアはあわてて目の前の兵を剣で一閃すると、前のめりに崩れ落ちる兵士の背中を踏み台にして跳躍した。そしてそのうしろからとびこんできた兵隊の頭を蹴り飛ばすと、可能なかぎり上空へ身を踊らせた。
その瞬間、ロルフの放った風が、その場にいた兵士たちのまわりを吹き抜けた。
だが、それは『風の刃』ではなかった。
それが敵に当たろうが、味方に当たろうが、誰のどこの部位を刎ねようが気にかけていられなかった。自分の進路を邪魔するものをただ排徐する——。それだけだった。
マリアにむかって一度に何発もの銃弾が放たれ、何十もの剣が同時に突き出され、何百という矢が射かけられた。
だが、マリアの振り回す剣はことごとくそれらを撥ねのけた。ロルフほどでなかったが、マリアのつくりだす剣圧は、銃弾や矢の勢いをおおきく削いだ。さらにマリアの剣に巻き込まれて宙に放り投げられる兵士たちが、銃弾や矢の盾にもなった。
「うじゃうじゃと湧いてくるのね。そろそろうんざりしてきたわよ」
マリアは正面から襲いかかってきた兵士たちの首を、横に一閃して四、五人まとめて刎ね飛ばしてから言った。首のなくなった兵士の向こうの光景がひらけて、その遥か先にヴラドたちがいる本営が見えた。ぐっと見すえる。
だが、そこへ行かせまいとばかりに、兵士たちはあとからあとから押し寄せてくる。
「あなた方!。無駄なことやめなさい!」
マリアが大声で叫んだが、兵士たちはまったく気にもとめず襲いかかってくる。
「あたし、トルコ軍から『シャイターン』って、怖れられてるのよ。あなたたちもちょっとは臆しなさい!」
マリアはまわりを取り囲んできた兵の足元めがけて剣をぐるりと振り回した。兵たちの膝から下が切断される。兵隊の壁がその場に一気に崩れ落ちた。だが、その様子を見ていたはずの背後の兵は、倒れた兵を踏みつけてマリアに剣を振り上げてきた。
『おかしい……』
マリアは前方の兵士を剣で打ち払いながら、兵士たちの顔を見た。兵士たちの目は白目をむいたように白濁し、口から泡をふいていて、まるで気絶しているかのような状態だった。だが、それでいながら、眉間に深い皴を刻ませ、怒り狂っている。
あきらかに不自然な表情——。
「だれかに操られている?」
一瞬、ノアの仕業かと思った。
だがもしノアなら十字軍側の兵士ではなく、トルコ軍側の兵士を操り自分を背後から襲わせるはずだ。
ノアではない——。
ならば、ロルフがレオンか、と頭を巡らせたが、それもすぐに否定した。二人の能力は物理的、直接的な能力で、感応力のようなものは使えないはずだ。
それとも自分が無知なだけで、ロルフはもうひとつの力を隠し持つ能力があるのか……。
その時、気圧が変化するのを感じた。先ほどメフメト二世に牙をむいた時とおなじか、それ以上の耳鳴りがする圧だった。
そしてその流れはまちがなくこちらにむいていた。
「ロルフ!。あたしを狩るつもりぃ?」
マリアはあわてて目の前の兵を剣で一閃すると、前のめりに崩れ落ちる兵士の背中を踏み台にして跳躍した。そしてそのうしろからとびこんできた兵隊の頭を蹴り飛ばすと、可能なかぎり上空へ身を踊らせた。
その瞬間、ロルフの放った風が、その場にいた兵士たちのまわりを吹き抜けた。
だが、それは『風の刃』ではなかった。
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