433 / 935
ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
第81話 マリアちゃん、寝返っちゃったようね
しおりを挟む
マリアは悪魔のような形相であたりかまわず、ひとびとを剣で薙ぎ払っていた。
「ロルフさん!。マリアが……」
「レオン、わかってるよ。どうやらマリアちゃん、寝返っちゃったようね」
「ね、寝返った?。ど、どういう……」
「彼女はトルコ軍側についた、ってことだね」
「バ、バカな。なぜ……、いや、ノアは、ノアはどうしたんです?」
「さあね。でも、マリアちゃんは本気だよ」
ロルフは剣を横に構え直してから、ストイカにむかって言った。
「ストイカ様、ヴラド公をこの戦場から非難させてください」
ストイカはロルフと目をあわせると、なにもいわずにヴラドのほうへ向かおうとした。
「ロルフ。どういうことだ。なぜ余がここから、今まさに勝利をおさめようとしている戦場をあとにせねばならなんのだ」
「ヴラド公、大変残念なんだけどね、マリアちゃんの狙いはあなた、ヴラド・ドラキュラの首なんだよね」
ロルフのことばにレオンは当然驚いたが、当のヴラドは表情ひとつ変えようとしなかった。むしろ素直に驚きを顔に現したのはシュテファン公だった。マーチャーシュ公は驚くというより、不安そうに顔を曇らせた。
「ロルフ殿、あの幼女がヴラド公の首を取りに来るというのかね?」
「えぇ。そうです。マーチャーシュ公。大変残念なことに……」
「もしそうだとして……。ロルフ殿、レオン殿のふたりでそれを防ぐことくらいはできるのではないかね。いかにあの幼女が『蛮行の少女』としてもだ」
ロルフは剣の構えをふっとゆるめると、おおきくため息をついた。
「マーチャーシュ殿下。遺憾ながら、マリア・フォン・トラップという少女は、オスマン=トルコ帝国のような脆弱な敵ではないのです」
「な、なんだとぉぉぉ、ロルフ。トルコ帝国を、あのメフメト二世を脆弱と卑下するのか?」
ヴラドが顔を真っ赤にしてロルフに詰め寄った。近くに立つとロルフより背が低いのがきわだつが、満身から吹きだすような怒りのせいで対等以上に見える。
「そういきり立たなくても……。殿下もわかってるでしょ。マリアちゃんは数万の兵よりも強いって」
「なぜ、裏切ったのです。マリアさんは」
ストイカがヴラドの怒りを鎮めるべく、ふたりのあいだにらだを割りいらせてから訊いた。
「ストイカ様。あの子は任務にただただ忠実なだけなのです。おとなの事情というのも関係なくね。それに……、神への帰依が足りていない。われわれとちがい篤信が弱い」
ロルフがマリアがいる『ハリシオス門』のほうに目をむけた。レオンもつられるようにそちらを見た。
すでにさきほどの場所から、こちら側に前進してきていた。
そのスピードは速いとはいえない。
だが、数百の兵士を相手に戦いながら、いや、殲滅しながら向かっているとしたら、息を飲むほどのスピードだとしかいいようがない。この時代に戦車があったとしても、あれだけの敵に囲まれては身動きができないにちがいない。
おどろきのあまり、レオンはロルフにすがるように指示を仰いだ。
「ロルフ。わたしはどうすればいいでしょう」
「レオン、十字軍の上空を守るのはここでおしまい。あとは全身全霊でヴラド公を守ってくれないかい」
そのロルフの指示に、マーチャーシュが異議を唱えた。
「ロルフ殿、なにをいう。今、レオン殿の盾をはずされたら、わが軍、いや十字軍がトルコ軍の攻撃をもろに受けるではないか!」
「まぁね。でも殿下、今この状況でそんなことは瑣末なんですよぉ」
「さ、瑣末だと……」
「えぇ。あの子をとめるには、そんな中途半端な覚悟では無理です。いまからわたしも攻撃をします。が……」
そこまで言ってロルフは大きく嘆息した。だが、そこには不退転の決意を固めた真剣そのものの顔があった。だがロルフはほくそ笑んで、冷徹に言い放った。
「こちらの軍も相応の被害を覚悟してもらわねばならないでしょうね」
「ロルフさん!。マリアが……」
「レオン、わかってるよ。どうやらマリアちゃん、寝返っちゃったようね」
「ね、寝返った?。ど、どういう……」
「彼女はトルコ軍側についた、ってことだね」
「バ、バカな。なぜ……、いや、ノアは、ノアはどうしたんです?」
「さあね。でも、マリアちゃんは本気だよ」
ロルフは剣を横に構え直してから、ストイカにむかって言った。
「ストイカ様、ヴラド公をこの戦場から非難させてください」
ストイカはロルフと目をあわせると、なにもいわずにヴラドのほうへ向かおうとした。
「ロルフ。どういうことだ。なぜ余がここから、今まさに勝利をおさめようとしている戦場をあとにせねばならなんのだ」
「ヴラド公、大変残念なんだけどね、マリアちゃんの狙いはあなた、ヴラド・ドラキュラの首なんだよね」
ロルフのことばにレオンは当然驚いたが、当のヴラドは表情ひとつ変えようとしなかった。むしろ素直に驚きを顔に現したのはシュテファン公だった。マーチャーシュ公は驚くというより、不安そうに顔を曇らせた。
「ロルフ殿、あの幼女がヴラド公の首を取りに来るというのかね?」
「えぇ。そうです。マーチャーシュ公。大変残念なことに……」
「もしそうだとして……。ロルフ殿、レオン殿のふたりでそれを防ぐことくらいはできるのではないかね。いかにあの幼女が『蛮行の少女』としてもだ」
ロルフは剣の構えをふっとゆるめると、おおきくため息をついた。
「マーチャーシュ殿下。遺憾ながら、マリア・フォン・トラップという少女は、オスマン=トルコ帝国のような脆弱な敵ではないのです」
「な、なんだとぉぉぉ、ロルフ。トルコ帝国を、あのメフメト二世を脆弱と卑下するのか?」
ヴラドが顔を真っ赤にしてロルフに詰め寄った。近くに立つとロルフより背が低いのがきわだつが、満身から吹きだすような怒りのせいで対等以上に見える。
「そういきり立たなくても……。殿下もわかってるでしょ。マリアちゃんは数万の兵よりも強いって」
「なぜ、裏切ったのです。マリアさんは」
ストイカがヴラドの怒りを鎮めるべく、ふたりのあいだにらだを割りいらせてから訊いた。
「ストイカ様。あの子は任務にただただ忠実なだけなのです。おとなの事情というのも関係なくね。それに……、神への帰依が足りていない。われわれとちがい篤信が弱い」
ロルフがマリアがいる『ハリシオス門』のほうに目をむけた。レオンもつられるようにそちらを見た。
すでにさきほどの場所から、こちら側に前進してきていた。
そのスピードは速いとはいえない。
だが、数百の兵士を相手に戦いながら、いや、殲滅しながら向かっているとしたら、息を飲むほどのスピードだとしかいいようがない。この時代に戦車があったとしても、あれだけの敵に囲まれては身動きができないにちがいない。
おどろきのあまり、レオンはロルフにすがるように指示を仰いだ。
「ロルフ。わたしはどうすればいいでしょう」
「レオン、十字軍の上空を守るのはここでおしまい。あとは全身全霊でヴラド公を守ってくれないかい」
そのロルフの指示に、マーチャーシュが異議を唱えた。
「ロルフ殿、なにをいう。今、レオン殿の盾をはずされたら、わが軍、いや十字軍がトルコ軍の攻撃をもろに受けるではないか!」
「まぁね。でも殿下、今この状況でそんなことは瑣末なんですよぉ」
「さ、瑣末だと……」
「えぇ。あの子をとめるには、そんな中途半端な覚悟では無理です。いまからわたしも攻撃をします。が……」
そこまで言ってロルフは大きく嘆息した。だが、そこには不退転の決意を固めた真剣そのものの顔があった。だがロルフはほくそ笑んで、冷徹に言い放った。
「こちらの軍も相応の被害を覚悟してもらわねばならないでしょうね」
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。


セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる