ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

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ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜

第74話 マリア、怒り狂う

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 その瞬間、マリアのからだが怒りにうちふるえた。
 目じりを険しくつりあげ、こめかみに青筋をみなぎらせて、咽の奥から魂そのものがとびだしてくるのではと思えるほどの、怒号を吐きだす。

「ロルフぅぅぅぅぅぅぅぅ!!。あたしをぉぉぉ、だましたわねぇぇぇぇぇ!!」

 マリアはノアの背中においた手を突き出して、ノアのからだを突き飛ばした。ノアが地面に転がる。手がノアのからだから離れるやいなや、マリアの意識は元に戻った。
「ノアぁぁぁ!。あなた、知ってた!。知ってて……」
「マリア!」
 ノアが声を荒げてマリアのことばを遮った。ノアはマリアをぐっと睨みつけると、服についた砂や土をはたきながら、ゆっくりと立ちあがった。
「ロルフ・ギュンターなんだよ。従わないなんて選択肢なんかがあるわけないだろ」
 その口調はやけに落ち着き払っていて、いつもの軽薄な雰囲気は微塵みじんも感じられない。
「なにを言っているの!。ロルフは嘘をついたのよ!」
「それが?」
「それがぁぁ?。要引揚者の命は救われないでしょう」
「まあ……、あのロルフ・ギュンターでも、救助成功率は100%じゃない。失敗のひとつくらいはあるさ」
「あなた、なにを言ってるのかわかってるの?。要引揚者の未練はヴラド・ドラキュラを殺すこと。このひと、メフメトを殺すんじゃない!」
「力が及ばなかったのさ。今回は年端もいかない幼いダイバーがいたせいで、うまくいかなかったんだよ」
 マリアはギリッと奥歯をかみしめた。
「最初から、あたしを利用する、そういうシナリオだったのねぇぇ」
「ああ。でも情けないったらない。ほんとうはレオンとぼくだけでやれるはずだったのにさ。うまくやれれば『ダイバーズ・オブ・ゴッド』の七十門徒しちじゅうもんとにだって、選ばれたんだ」
「そんなの、エラ伯母様が推薦しないわ」
「マリア、学長にそんな力があるわけないだろ」
「だったら……。まさか、ロルフ……、ロルフ・ギュンター?」
「あぁ。彼は『ダイバーズ・オブ・ゴッド』の『十二使徒』の最有力候補にあがってる。なにせ『黄道十二宮』の悪魔『ハナエル』をひとりで倒したと言われてるからね」
「嘘よ。『黄道十二宮』の悪魔なんて、ひとりで倒せるわけないわ!」
「マリア、倒したんだよ。法王庁も非公式だけど認めてる」
「だったら、なぜそんなひとがこんなことやるの。要引揚者を救助しないなんて!」
「だが、ロルフは絶対だ!!!」
 その時背後からメフメトが声をかけてきた。
「マリア、なにが起きているのだ」
 マリアはメフメト二世の方にむき直ると、怒りをたぎらせたままの目をむけて答えた。
「スルタン。計画を変更することになったわ」
「変更?。どう変更を……」
 マリアは手の中にすばやく力の暗雲を宿らせると肩口に手をのばした。背中にはすでに具現化した大剣がある。マリアはそれを肩ごしに引き抜いて身構えた。
 突然大剣を構えたマリアの姿に、すぐさま剣を抜いて護衛が取り囲む。ラドゥはスルタンの前に進みでて、剣をかかえて盾になる。
 マリアは大剣をビュンとふるうと、メフメト二世にむかって言った。

「ごめんなさい。ちょっと戻ってヴラド・ドラキュラの首を刎ねてきますわ」
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