425 / 935
ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
第73話 真の標的
しおりを挟む
不自然きわまりない護衛体勢——。マリアの疑念が募る。
マリアは正面の入り口をじっと睨みつけているレオンの横をすり抜けるように、少年の元へ視点を移動させると、迷うことなく少年の頭のなかに飛び込ませた。
ふいに視界が真っ暗になった。
なにも見えない。だが、少年の耳を通して聞こえる外の音だけが、くぐもって漏れ聞こえてくる。まるで水のなかに潜ったような感覚。
マリアは耳をすませた。外の音以外にもなにかが聞こえている。
『誰かいるかしら?』
マリアは心の声を送り込んだが、なんの反応もなかった。どんなに目をこらしてもなにも見えなかったし、どんなに耳をすませてもなにも聞こえなかった。
ただなにかの気配だけはまちがいなく感じられた。
マリアはもう一度耳を澄ませた。
が、突然、外の音が騒がしくなった。エコーがかかったような音だったが、あきらかにこの幕舎内が騒然としはじめたのがわかった。
『マ……アが……している。と……ろ』
だれかが怒りにまかせて叫んでいる。さらに別の人物はさらにおおきな声をあげているようだった。それにかぶさるように狼狽えたような声色が聞こえてくる。
『いえ……。スト……カ……、ロ……フ……。そんな……』
マリアは今この場所に、ストイカとロルフがいると確信した。
『ノア、どういうこと?。ロルフに感づかれたんじゃなくって?』
マリアが問いただしたが、ノアはなにも答えようとしなかった。
時間がない——。
マリアは焦る気持ちを抑えながら、暗闇のなかにこれ以上ないほどに集中させた意識をむけた。
『ねぇ、教えて!。この少年の未練ってなに?。この世で晴らしたい思いってなに?。だれか教えてちょうだい!』
マリアの渾身の叫びはただむなしく、暗闇のなかでこだまするだけだった。
あたりから漏れ聞こえてくる外の音は、しだいに先鋭感を増してきていた。くぐもった音がクリアになってくる。
ロルフがこの子に近づいてきている!。
マリアは悲鳴のような声で訴えた。
『教えて。ねぇ、その子はだれを恨んでいるの?」
暗闇のなかに潜むなにものかは、なにも答えようとしなかった。
だが、その時、はっきりと聞こえはじめた外の音にまじって、ジグムントの呟く声が漏れ聞こえてきた。
消え入りそうな咽ぶ声。あの時、串刺しにされながらも簡単には死なせてもらえず、焼けるような痛みにのたうつ、苦悶の表情そのものの声だった。
彼は呟いた。
胸をつくような無念の思いを……。
「お願い。ドラキュラを殺して……」
マリアは正面の入り口をじっと睨みつけているレオンの横をすり抜けるように、少年の元へ視点を移動させると、迷うことなく少年の頭のなかに飛び込ませた。
ふいに視界が真っ暗になった。
なにも見えない。だが、少年の耳を通して聞こえる外の音だけが、くぐもって漏れ聞こえてくる。まるで水のなかに潜ったような感覚。
マリアは耳をすませた。外の音以外にもなにかが聞こえている。
『誰かいるかしら?』
マリアは心の声を送り込んだが、なんの反応もなかった。どんなに目をこらしてもなにも見えなかったし、どんなに耳をすませてもなにも聞こえなかった。
ただなにかの気配だけはまちがいなく感じられた。
マリアはもう一度耳を澄ませた。
が、突然、外の音が騒がしくなった。エコーがかかったような音だったが、あきらかにこの幕舎内が騒然としはじめたのがわかった。
『マ……アが……している。と……ろ』
だれかが怒りにまかせて叫んでいる。さらに別の人物はさらにおおきな声をあげているようだった。それにかぶさるように狼狽えたような声色が聞こえてくる。
『いえ……。スト……カ……、ロ……フ……。そんな……』
マリアは今この場所に、ストイカとロルフがいると確信した。
『ノア、どういうこと?。ロルフに感づかれたんじゃなくって?』
マリアが問いただしたが、ノアはなにも答えようとしなかった。
時間がない——。
マリアは焦る気持ちを抑えながら、暗闇のなかにこれ以上ないほどに集中させた意識をむけた。
『ねぇ、教えて!。この少年の未練ってなに?。この世で晴らしたい思いってなに?。だれか教えてちょうだい!』
マリアの渾身の叫びはただむなしく、暗闇のなかでこだまするだけだった。
あたりから漏れ聞こえてくる外の音は、しだいに先鋭感を増してきていた。くぐもった音がクリアになってくる。
ロルフがこの子に近づいてきている!。
マリアは悲鳴のような声で訴えた。
『教えて。ねぇ、その子はだれを恨んでいるの?」
暗闇のなかに潜むなにものかは、なにも答えようとしなかった。
だが、その時、はっきりと聞こえはじめた外の音にまじって、ジグムントの呟く声が漏れ聞こえてきた。
消え入りそうな咽ぶ声。あの時、串刺しにされながらも簡単には死なせてもらえず、焼けるような痛みにのたうつ、苦悶の表情そのものの声だった。
彼は呟いた。
胸をつくような無念の思いを……。
「お願い。ドラキュラを殺して……」
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる