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ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
第70話 ノア、あなたの力を借りるわ
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「ノア、あなたの力を借りるわ」
マリアはそう言って目を閉じると、ノアの背中に手をあてた。背が低いので背中というより腰に近い部分にしか届かなかったが、ぴたりと手のひらをつけるなり、マリアの瞼の裏に、ヴラドの幕舎がみえてきた。
昨夜、マリアはノアを問い詰めた。
ふたりは隣り合った牢屋に入れられていて、数人の牢番が常駐していたが、マリアはかまわずノアに強い口調で迫った。
「ノア、ロルフをもう一度呼びだして!。聞きたいことがあるの!」
直接顔が見えないせいで、ノアがどんな表情をしているかはわからなかったが、すくなくとも声は弱々しかった。
「む、無理だよぉ。もうコンタクトが切れちゃったからぁ……」
「なぁに?、一回だけなの?。まぁ、使えない能力だこと」
「出発前からロルフをぼくの意識に憑依させてたんだ。やり直すのは遠すぎて無理なんだよぉ」
「ふうん、つまりここでのことは、ロルフに筒抜けだったっていうわけね」
「だって、それがぼくの能力なんだよ」
「それって、あたしもできるの?」
「できるってなにがぁ……」
「あたしもあなたに憑依できるかってこと」
「できなかないけど、ぼくらは一緒に捕まってるんだよぉ。なにができるっていうのさぁぁ」
「たとえば、あなたの『千里眼』の能力を使えるかしら?」
「ええぇ!。そんな能力を使ってなにしようっていうンだいぃ」
ノアは否定しなかった。あのノアが無理だとか難しいとか、ネガティブな返事をしなかった。マリアはすぐさま断定した。
「使えるのね!」
「あ、いや。そのぅ……。一度行った場所……なら……」
「ノア、あとでその力を使わせてもらうわよ。やりかただけ教えていただけるかしら?」
ノアの視点は空中に浮かぶなにかの意識体を通じてみえていた。その意識体がヴラドの幕舎のなかにすっとはいっていく。すると奥の方からなにやら豪放な笑い声が聞こえてきた。
視点がとらえたのは、ヴラド・ドラキュラだった。ヴラドは自分の両脇にストイカとロルフを侍らせて、ふたりの男と話をしていた。
ふたりの男は対照的な姿だった。右側の男は蛮族をおもわせる野性味を感じさせる男で、からだもガッチリとしていたが、左側の男はいくぶん細いからだつきで、とてもやさしそうな目をしていた。少年のような面立ちもあって、ヴラドと比べてもかなり年下にみえる。
ふたりの男はすぐ脇に、精鋭らしき部下を控えさせていた。どの兵士もいつでも抜刀できるように、腰の剣の柄に手をかけている。
聞こえてきた笑い声とは反して、その場の空気はなごやかという感じではなかった。
マリアはそう言って目を閉じると、ノアの背中に手をあてた。背が低いので背中というより腰に近い部分にしか届かなかったが、ぴたりと手のひらをつけるなり、マリアの瞼の裏に、ヴラドの幕舎がみえてきた。
昨夜、マリアはノアを問い詰めた。
ふたりは隣り合った牢屋に入れられていて、数人の牢番が常駐していたが、マリアはかまわずノアに強い口調で迫った。
「ノア、ロルフをもう一度呼びだして!。聞きたいことがあるの!」
直接顔が見えないせいで、ノアがどんな表情をしているかはわからなかったが、すくなくとも声は弱々しかった。
「む、無理だよぉ。もうコンタクトが切れちゃったからぁ……」
「なぁに?、一回だけなの?。まぁ、使えない能力だこと」
「出発前からロルフをぼくの意識に憑依させてたんだ。やり直すのは遠すぎて無理なんだよぉ」
「ふうん、つまりここでのことは、ロルフに筒抜けだったっていうわけね」
「だって、それがぼくの能力なんだよ」
「それって、あたしもできるの?」
「できるってなにがぁ……」
「あたしもあなたに憑依できるかってこと」
「できなかないけど、ぼくらは一緒に捕まってるんだよぉ。なにができるっていうのさぁぁ」
「たとえば、あなたの『千里眼』の能力を使えるかしら?」
「ええぇ!。そんな能力を使ってなにしようっていうンだいぃ」
ノアは否定しなかった。あのノアが無理だとか難しいとか、ネガティブな返事をしなかった。マリアはすぐさま断定した。
「使えるのね!」
「あ、いや。そのぅ……。一度行った場所……なら……」
「ノア、あとでその力を使わせてもらうわよ。やりかただけ教えていただけるかしら?」
ノアの視点は空中に浮かぶなにかの意識体を通じてみえていた。その意識体がヴラドの幕舎のなかにすっとはいっていく。すると奥の方からなにやら豪放な笑い声が聞こえてきた。
視点がとらえたのは、ヴラド・ドラキュラだった。ヴラドは自分の両脇にストイカとロルフを侍らせて、ふたりの男と話をしていた。
ふたりの男は対照的な姿だった。右側の男は蛮族をおもわせる野性味を感じさせる男で、からだもガッチリとしていたが、左側の男はいくぶん細いからだつきで、とてもやさしそうな目をしていた。少年のような面立ちもあって、ヴラドと比べてもかなり年下にみえる。
ふたりの男はすぐ脇に、精鋭らしき部下を控えさせていた。どの兵士もいつでも抜刀できるように、腰の剣の柄に手をかけている。
聞こえてきた笑い声とは反して、その場の空気はなごやかという感じではなかった。
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