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ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
第60話 死ぬのはいやだぁぁぁ、助けてぇぇぇ
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そのとき、ドーンという大砲の音がかなたから聞こえた。
ノアはすぐさま足をとめて、精神を集中させた。敵方の砲撃手たちの心象風景を、一瞬で根こそぎサーチしていく。
ノアはごくりと固唾を呑んで、おおきく目を見開いた。
「マリア……。まずいよぉ」
「なにがなの。聞こえた大砲の音は一発だけよ」
ふいに空がにわかにかき曇った。そう感じられた。
だが、それは空を埋め尽くした夥しい数の矢が、頭上を覆ったものだった。まるでイナゴかなにかの群れが空中を飛び交っているかのようにすら見える。
「うわぁぁぁぁぁ。死ぬぅぅぅ。絶対死ぬってぇぇ」
ノアは恐怖のあまり喚き散らすしかできなかった。だがマリアはとことんうんざりとした様子でため息をついた。
「ノアったら、そんな風に大声あげるから狙われたのよ」
「マリア!、キミがジャンプして目立ちまくったからだろぉぉぉ」
ノアは反射的にマリアに文句を返したが、頭上に迫ってくる矢の雨を目にして、その場で頭をかかえてしゃがみ込んだ。
「死ぬのはいやだぁぁぁ、助けてぇぇぇ」
「ノア。レオンが守ってくれてるわよ……」
マリアにあきれ果てた口調で言われて、ノアははっとして顔をあげた。
あの矢の驟雨はノアの頭上、2メートルほどのところでピタリと止まっていた。何百本もの矢という矢が、空中で不自然に浮いたままで制動されている。
「超音波のシールドでね。ホント、まったく騒ぎすぎよ」
ノアはゆっくりと立ちあがると、空中に固定されてみえる矢に手を伸ばそうとした。その様子をみてマリアはノアに問いかけた。
「ノア、あなたったら、レオンのこと信じてなかったでしょ」
「あ、いや。そんなことはないさ」
「嘘ばっかり。あなたってひとの心読みすぎて、現実世界でもひとを信じられないんだわ」
「ち、ちがうよ。でもレオンと一緒にダイブするのはまだ二回目だから……。ま、それにちょっと偉そうなんだよねぇ。ロルフとちがって……」
「そう。だったら直接、そう言えばいいじゃない」
「そ、そんなこと言えるわけないだろぉぉぉ。だってぼくの能力なんて、きみの言う通りこの世界じゃ、たいして役にたちやしないんだ。きみのようなすごい能力者にはわからないさ」
「そうかしら?。役に立つのはこれからでしょ……」
そう言いながら、マリアは背中から剣を引き抜いた。
「だって、あたしはたぶんここでお役ごめんだもの」
「ど、どういうことなんだい」
「だって、ほら」
マリアはにっこりと笑って、周辺をぐるりと手のひらでさししめした。ノアはおおきく振られたマリアの手の動きを目で追った。
あたりをいつの間にかとんでもない数のオスマン=トルコの兵に取り囲まれていた。
赤い服のイェニチェリが曲がった剣を振りかざしているうしろに、鎧兵部隊が銃を構えていた。そしてそのうしろにはあきらかに金で雇われたとわかる西洋騎士の傭兵がボウガンを携えていた。
「マ、マリアぁぁぁ。と、とり囲まれてるぅぅぅ。も、もうおしまいだよぉ」
「なに言ってるのよ。あなたの出番でしょ」
「ぼく……、ぼくのぉぉぉ」
「そ、この兵士たちがあたしたちを捕らえにきたのか、それとも殺しにきたのか、こころを読んでちょうだい」
「こ、ころすつもりだったら、ど、どうすんのさぁぁ」
マリアは肩をおとすと、ほんとうに面倒くさそうな顔をして答えた。
「まぁ、そんときはしかたないわ。このひとたちを皆殺しにするだけよ」
ノアはすぐさま足をとめて、精神を集中させた。敵方の砲撃手たちの心象風景を、一瞬で根こそぎサーチしていく。
ノアはごくりと固唾を呑んで、おおきく目を見開いた。
「マリア……。まずいよぉ」
「なにがなの。聞こえた大砲の音は一発だけよ」
ふいに空がにわかにかき曇った。そう感じられた。
だが、それは空を埋め尽くした夥しい数の矢が、頭上を覆ったものだった。まるでイナゴかなにかの群れが空中を飛び交っているかのようにすら見える。
「うわぁぁぁぁぁ。死ぬぅぅぅ。絶対死ぬってぇぇ」
ノアは恐怖のあまり喚き散らすしかできなかった。だがマリアはとことんうんざりとした様子でため息をついた。
「ノアったら、そんな風に大声あげるから狙われたのよ」
「マリア!、キミがジャンプして目立ちまくったからだろぉぉぉ」
ノアは反射的にマリアに文句を返したが、頭上に迫ってくる矢の雨を目にして、その場で頭をかかえてしゃがみ込んだ。
「死ぬのはいやだぁぁぁ、助けてぇぇぇ」
「ノア。レオンが守ってくれてるわよ……」
マリアにあきれ果てた口調で言われて、ノアははっとして顔をあげた。
あの矢の驟雨はノアの頭上、2メートルほどのところでピタリと止まっていた。何百本もの矢という矢が、空中で不自然に浮いたままで制動されている。
「超音波のシールドでね。ホント、まったく騒ぎすぎよ」
ノアはゆっくりと立ちあがると、空中に固定されてみえる矢に手を伸ばそうとした。その様子をみてマリアはノアに問いかけた。
「ノア、あなたったら、レオンのこと信じてなかったでしょ」
「あ、いや。そんなことはないさ」
「嘘ばっかり。あなたってひとの心読みすぎて、現実世界でもひとを信じられないんだわ」
「ち、ちがうよ。でもレオンと一緒にダイブするのはまだ二回目だから……。ま、それにちょっと偉そうなんだよねぇ。ロルフとちがって……」
「そう。だったら直接、そう言えばいいじゃない」
「そ、そんなこと言えるわけないだろぉぉぉ。だってぼくの能力なんて、きみの言う通りこの世界じゃ、たいして役にたちやしないんだ。きみのようなすごい能力者にはわからないさ」
「そうかしら?。役に立つのはこれからでしょ……」
そう言いながら、マリアは背中から剣を引き抜いた。
「だって、あたしはたぶんここでお役ごめんだもの」
「ど、どういうことなんだい」
「だって、ほら」
マリアはにっこりと笑って、周辺をぐるりと手のひらでさししめした。ノアはおおきく振られたマリアの手の動きを目で追った。
あたりをいつの間にかとんでもない数のオスマン=トルコの兵に取り囲まれていた。
赤い服のイェニチェリが曲がった剣を振りかざしているうしろに、鎧兵部隊が銃を構えていた。そしてそのうしろにはあきらかに金で雇われたとわかる西洋騎士の傭兵がボウガンを携えていた。
「マ、マリアぁぁぁ。と、とり囲まれてるぅぅぅ。も、もうおしまいだよぉ」
「なに言ってるのよ。あなたの出番でしょ」
「ぼく……、ぼくのぉぉぉ」
「そ、この兵士たちがあたしたちを捕らえにきたのか、それとも殺しにきたのか、こころを読んでちょうだい」
「こ、ころすつもりだったら、ど、どうすんのさぁぁ」
マリアは肩をおとすと、ほんとうに面倒くさそうな顔をして答えた。
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