392 / 935
ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
第40話 それでトルコの使者の頭を杭を打ちつけて殺したのね
しおりを挟む
激高するブラドをまるで煽るようにマリアが尋ねた。
その顔つきをみると、ただの好奇心で聞いただけのようあったが、ノアにはまた火に油をそそぐようなまねをするマリアの態度には舌打ちする思いだった。
ノアとおなじように感じ取ったのか、ストイカがあわてて口を挟み込んできた。
「マ、マリア殿、それはわたしどもワラキアとトルコとのあいだに条約が結ばれていたからなのです。ハンガリーと同盟することは条約違反で、この婚礼によって条約が破棄されるのではないか危惧していました。トルコはなんども使節をよこしてきて、忠誠心の確認をもとめてきたのです」
「服従と従属と貢納の一方的な条約だったがな」
「あぁ……、それでトルコの使者の頭を杭を打ちつけて殺したのね」
マリアがあっけらかんと言った。
「頭に杭を……?」
ストイカが驚いた表情をして、マリアに尋ねた。
「えぇ。有名ですわよ。使者が謁見してきたときに、ドラキュラおじさんの前で被り物を脱がなかったという理由で、帽子を頭に杭で打ちつけたって……」
「いや、それはどういう……?。イスラム教では被り物は脱がないのが正式でしょう?」
「えぇ。でも、それを非礼だと言って……。え、そうじゃないの?」
マリアが間抜けな顔で首をひねると、ブラドが苦笑しながら言った。
「それもドラキュラ伝説っていうヤツかね。ずいぶん、おもしろい逸話ができあがっているようだな」
「さようで。ずいぶん無粋な逸話かと……」
ストイカもブラドに同意した。ブラドはマリアのほうに目をむけてすごんだ。
「マリアよ、わたしは相手を殺すのに、つまらぬ言いがかりなどつけぬ。殺したいから殺す。それがたとえトルコの使者であっても、ただの病人であってもだ」
ノアは自分にむけられている言葉ではないのに、がたがた震えているのに気づいた。椅子に座っていなければ、立っていられないにちがいない。
「ま、いいわよ。で、実際にはなんで開戦することになったのよ?。勝てっこない相手なのに」
「あ、はい。トルコは我が国ワラキアの忠誠の証として、デウシルメ要員として五百人の少年と貢納金三万ドカートを持参し、殿みずから表敬訪問せよと要求してきたのです」
「あきらかにわたしを捕らえるための罠だよ。だがわたしは父ブラド二世が陥った罠を忘れてはいない。父は騙され、わたしと弟ラドウは人質にされたのだからな。だからわたしは会見場所にドナウ川畔の要塞ジウルジウを指定して、トルコの姦計の逆をついた」
デウシルメ------------------------------------------------------------
オスマン帝国においてキリスト教徒の子供 (8~20歳ぐらい) を3~8年に1度ずつ強制徴用して,イスラム教徒に改宗させ,トルコ・イスラム的習慣を身につけさせて宮廷の侍従およびイェニチェリとして取立てた制度
その顔つきをみると、ただの好奇心で聞いただけのようあったが、ノアにはまた火に油をそそぐようなまねをするマリアの態度には舌打ちする思いだった。
ノアとおなじように感じ取ったのか、ストイカがあわてて口を挟み込んできた。
「マ、マリア殿、それはわたしどもワラキアとトルコとのあいだに条約が結ばれていたからなのです。ハンガリーと同盟することは条約違反で、この婚礼によって条約が破棄されるのではないか危惧していました。トルコはなんども使節をよこしてきて、忠誠心の確認をもとめてきたのです」
「服従と従属と貢納の一方的な条約だったがな」
「あぁ……、それでトルコの使者の頭を杭を打ちつけて殺したのね」
マリアがあっけらかんと言った。
「頭に杭を……?」
ストイカが驚いた表情をして、マリアに尋ねた。
「えぇ。有名ですわよ。使者が謁見してきたときに、ドラキュラおじさんの前で被り物を脱がなかったという理由で、帽子を頭に杭で打ちつけたって……」
「いや、それはどういう……?。イスラム教では被り物は脱がないのが正式でしょう?」
「えぇ。でも、それを非礼だと言って……。え、そうじゃないの?」
マリアが間抜けな顔で首をひねると、ブラドが苦笑しながら言った。
「それもドラキュラ伝説っていうヤツかね。ずいぶん、おもしろい逸話ができあがっているようだな」
「さようで。ずいぶん無粋な逸話かと……」
ストイカもブラドに同意した。ブラドはマリアのほうに目をむけてすごんだ。
「マリアよ、わたしは相手を殺すのに、つまらぬ言いがかりなどつけぬ。殺したいから殺す。それがたとえトルコの使者であっても、ただの病人であってもだ」
ノアは自分にむけられている言葉ではないのに、がたがた震えているのに気づいた。椅子に座っていなければ、立っていられないにちがいない。
「ま、いいわよ。で、実際にはなんで開戦することになったのよ?。勝てっこない相手なのに」
「あ、はい。トルコは我が国ワラキアの忠誠の証として、デウシルメ要員として五百人の少年と貢納金三万ドカートを持参し、殿みずから表敬訪問せよと要求してきたのです」
「あきらかにわたしを捕らえるための罠だよ。だがわたしは父ブラド二世が陥った罠を忘れてはいない。父は騙され、わたしと弟ラドウは人質にされたのだからな。だからわたしは会見場所にドナウ川畔の要塞ジウルジウを指定して、トルコの姦計の逆をついた」
デウシルメ------------------------------------------------------------
オスマン帝国においてキリスト教徒の子供 (8~20歳ぐらい) を3~8年に1度ずつ強制徴用して,イスラム教徒に改宗させ,トルコ・イスラム的習慣を身につけさせて宮廷の侍従およびイェニチェリとして取立てた制度
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。


セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる