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ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
第37話 ロルフの本当の力
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まだ敵は数メートルも離れていたが、ロルフは腰をぐっと沈み込ませて、剣を腰のあたりで水平に構えると、からだを上半身をひねらせ、その場にぐっと足を踏ん張った。
いっぽうを真正面で迎え撃ち、もう片方には背中をむけるような位置取り。
背中をむけられた一方のイェニチェリはチャンスを逃さなかった。ロルフの背中めがけて一気に走り出す。その動きに気づいた正面の兵士が、うしろの仲間にチャンスをつくろうと、これみよがしに剣をふって注意をひく。
ロルフはその場でからだをぐるりと一回転させた。そしてもう一回転——。
まるで一流のバレエダンサーが高難度の『グランフェッテ』を、華麗に舞っているかのように、その場で連続させていく。
ビュウとした風切り音が耳を射ってくる——。
マリアはヴラドとストイカの前に走り込んでいくと、背中の剣を引き抜き、からだの前に振り立てて身構えた。
とたんに、おおきな塊が横殴りに飛んできた。マリアにはそれが見てとれた。だが、ここにいる人々には、それはただの突風にしか感じられないはずだ。
その塊が自分のからだに触れるまでは……。
それはロルフが剣圧で作り出した巨大な風の塊——。それが誰かれ構わず投げつけられようとしていた。
マリアは真っ正面に飛んできた風の塊を剣で跳ね返した。はね飛ばされた塊が地面にぶちあたり、床石を破壊する。
「な、なにが!」
背後にいるヴラドの声が聞こえた。彼らはいまなにが起きているかわからないに違いない。広場の中央で踊るロルフの連続ターンのスピードがあがっていく。
次の風の塊が飛んできた。マリアがそれをはね返す。
大砲のような破壊力の風は、まるで見えない巨人の拳のように、なんどもなんども横殴りしてきた。
風の拳とともに様々な音も聞こえてくる。どこかが破壊された音、誰かが叫んだ悲鳴、なにかが潰れた音——。
その音を耳にしながら、マリアは次々と繰り出されてくる風の凶手を、ことごとく跳ねのけていった。
十数回転もしたところで、ロルフは動きをとめた。
暴風の音がやみ最後の一撃を、パンとはじき飛ばしたときには、あたりは一変していた。
建物の壁はぼこぼこに削りとられ、剥落したレンガが地面に散らばっていた。
いくつもの壁面が赤く染め上げられていて、その袂には、おおきくても上半身くらいの肉片がごろごろと転がっていた。
マリアがざっと見渡しただけでも、周りを取り囲んでいた護衛の兵士の七~八人ほどの姿が見えなくなっていたが、バラバラに切り刻まれずに済んだ兵士でも、腕や脚を失っていたりした。幸運にも四肢の切断を免れた者もいたが、腕や脚の骨をたたき折られて、まるで糸の切れたマリオネットのように、その場に崩れ落ちていた。
広場の中央でロルフと対峙していた敵の兵士はすでに形がなくなっていた。からだがあった場所には、長さ数メートルに渡って棚引くような血湖の帯ができており、その中になにやらごろごろと肉片が転がっていたので、おそらくずたずたに引き裂かれたのだろう。
ロルフの背後に迫っていた兵士の方に目をむける。彼は広場の床石にべったり張り付くようにして倒れていた。からだのあちこちは血塗れで、原形はとどめてはいるものの、到底生きているようには見えなかった。
マリアはふりむいて、ヴラドに声をかけた。
「ドラキュラおじさん、お怪我はなかったかしら?」
いっぽうを真正面で迎え撃ち、もう片方には背中をむけるような位置取り。
背中をむけられた一方のイェニチェリはチャンスを逃さなかった。ロルフの背中めがけて一気に走り出す。その動きに気づいた正面の兵士が、うしろの仲間にチャンスをつくろうと、これみよがしに剣をふって注意をひく。
ロルフはその場でからだをぐるりと一回転させた。そしてもう一回転——。
まるで一流のバレエダンサーが高難度の『グランフェッテ』を、華麗に舞っているかのように、その場で連続させていく。
ビュウとした風切り音が耳を射ってくる——。
マリアはヴラドとストイカの前に走り込んでいくと、背中の剣を引き抜き、からだの前に振り立てて身構えた。
とたんに、おおきな塊が横殴りに飛んできた。マリアにはそれが見てとれた。だが、ここにいる人々には、それはただの突風にしか感じられないはずだ。
その塊が自分のからだに触れるまでは……。
それはロルフが剣圧で作り出した巨大な風の塊——。それが誰かれ構わず投げつけられようとしていた。
マリアは真っ正面に飛んできた風の塊を剣で跳ね返した。はね飛ばされた塊が地面にぶちあたり、床石を破壊する。
「な、なにが!」
背後にいるヴラドの声が聞こえた。彼らはいまなにが起きているかわからないに違いない。広場の中央で踊るロルフの連続ターンのスピードがあがっていく。
次の風の塊が飛んできた。マリアがそれをはね返す。
大砲のような破壊力の風は、まるで見えない巨人の拳のように、なんどもなんども横殴りしてきた。
風の拳とともに様々な音も聞こえてくる。どこかが破壊された音、誰かが叫んだ悲鳴、なにかが潰れた音——。
その音を耳にしながら、マリアは次々と繰り出されてくる風の凶手を、ことごとく跳ねのけていった。
十数回転もしたところで、ロルフは動きをとめた。
暴風の音がやみ最後の一撃を、パンとはじき飛ばしたときには、あたりは一変していた。
建物の壁はぼこぼこに削りとられ、剥落したレンガが地面に散らばっていた。
いくつもの壁面が赤く染め上げられていて、その袂には、おおきくても上半身くらいの肉片がごろごろと転がっていた。
マリアがざっと見渡しただけでも、周りを取り囲んでいた護衛の兵士の七~八人ほどの姿が見えなくなっていたが、バラバラに切り刻まれずに済んだ兵士でも、腕や脚を失っていたりした。幸運にも四肢の切断を免れた者もいたが、腕や脚の骨をたたき折られて、まるで糸の切れたマリオネットのように、その場に崩れ落ちていた。
広場の中央でロルフと対峙していた敵の兵士はすでに形がなくなっていた。からだがあった場所には、長さ数メートルに渡って棚引くような血湖の帯ができており、その中になにやらごろごろと肉片が転がっていたので、おそらくずたずたに引き裂かれたのだろう。
ロルフの背後に迫っていた兵士の方に目をむける。彼は広場の床石にべったり張り付くようにして倒れていた。からだのあちこちは血塗れで、原形はとどめてはいるものの、到底生きているようには見えなかった。
マリアはふりむいて、ヴラドに声をかけた。
「ドラキュラおじさん、お怪我はなかったかしら?」
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