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ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
第34話 コンスタンティノープル奪還
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コンスタンティノープルを奪還する——。
ロルフがそんな世迷い事とともとれることを高らかに宣言したことで、マリアたちは兵士養成所の広場で腕前を見せなければならなくなった。
あまりに大言壮語すぎて、かえって不信感をひろげてしまったらしい。
「ロルフ、おまえがそこまで言うのであれば、本当にそれをなし得る力があるのか、我々に見せる必要がある。もし納得できなければ、そなたたちを串刺し刑に処す」
ヴラドがそう言って目配せし、警護の兵に三人の男をつれてこさせた。
それはトルコ兵だった。
痩せさらばえた体ではあったが、眼光は異様なほど鋭く、隙あらばからだごとぶつけてでも、噛みついてでも、兵士を倒して逃げてやるという決意に満ちていた。手枷と足枷をつけられ、自由を奪われてなければ、たしかにそれを成し遂げそうに思えた。
トルコ兵が広場の中央にひっぱりだされると、広場の周りを武装した兵士が取り囲み、その背後や二階の物見台から弓をつがえた兵士たちが、三人に狙いをさだめた。
その布陣を満足そうに眺めながら、ヴラドがロルフに言った。
「彼らはオスマン=トルコが誇る精鋭イェ二チェリの兵士だ」
ヴラドは手をひろげて、兵士たちを紹介するように視線を誘った。
「ロルフ殿、そなたたちに、この三人を殺してもらう。だが、なにぶんにも手練れなのでね。逃げられんよう周りを兵でとり囲まさせてもらった」
ロルフは周りを仰々しく取り巻いている兵士たちをひとしきり眺めてから、背後に控えているレオンとノアを指し示しながら答えた。
「殿。まずここにいるノアは、遥かかなたにいる敵の気配をも嗅ぎ取るすぐれた物見です。すぐれた剣士でもありますが今回は辞退させましょう。またレオンは防卸の術の使い手ゆえ、この立ち合いには不向きです」
「ではロルフ、おまえとその幼子だけで戦うのだな?」
「いいえ。ここはわたしひとりで充分です。マリアの実力はすでにご存知でしょう」
「不利は承知かね」
「不利?。一万人を相手にするなら、多少手こずるでしょうがね。それより周りの兵士たちを引かせてもらえないですか。巻き添えを喰らって命を落としますよ」
「そうはいかん。そこのトルコ兵も、そなたもここから逃がすわけにはいかんのでな」
どうやらヴラドは自分を愚弄したロルフを許すつもりがないらしい——。
ヴラドの矮小な執念深さを嗅ぎ取って、マリアはため息をついた。人類の歴史上もっとも残忍な人物のひとりとされる男が、このような狭量な者であったことに落胆を隠せない。他者に対する怖れから凶行に走るのでは、そこらの愚人となんら変わることがないからだ。
「かまわん。多少の犠牲がでてもよい」
ヴラドが強気で押し通すと、ロルフは達観したような口調で言質をとった。
「御意。ですが……、多であっても、少とはならないことを覚悟してくださいね」
ロルフがそんな世迷い事とともとれることを高らかに宣言したことで、マリアたちは兵士養成所の広場で腕前を見せなければならなくなった。
あまりに大言壮語すぎて、かえって不信感をひろげてしまったらしい。
「ロルフ、おまえがそこまで言うのであれば、本当にそれをなし得る力があるのか、我々に見せる必要がある。もし納得できなければ、そなたたちを串刺し刑に処す」
ヴラドがそう言って目配せし、警護の兵に三人の男をつれてこさせた。
それはトルコ兵だった。
痩せさらばえた体ではあったが、眼光は異様なほど鋭く、隙あらばからだごとぶつけてでも、噛みついてでも、兵士を倒して逃げてやるという決意に満ちていた。手枷と足枷をつけられ、自由を奪われてなければ、たしかにそれを成し遂げそうに思えた。
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その布陣を満足そうに眺めながら、ヴラドがロルフに言った。
「彼らはオスマン=トルコが誇る精鋭イェ二チェリの兵士だ」
ヴラドは手をひろげて、兵士たちを紹介するように視線を誘った。
「ロルフ殿、そなたたちに、この三人を殺してもらう。だが、なにぶんにも手練れなのでね。逃げられんよう周りを兵でとり囲まさせてもらった」
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「殿。まずここにいるノアは、遥かかなたにいる敵の気配をも嗅ぎ取るすぐれた物見です。すぐれた剣士でもありますが今回は辞退させましょう。またレオンは防卸の術の使い手ゆえ、この立ち合いには不向きです」
「ではロルフ、おまえとその幼子だけで戦うのだな?」
「いいえ。ここはわたしひとりで充分です。マリアの実力はすでにご存知でしょう」
「不利は承知かね」
「不利?。一万人を相手にするなら、多少手こずるでしょうがね。それより周りの兵士たちを引かせてもらえないですか。巻き添えを喰らって命を落としますよ」
「そうはいかん。そこのトルコ兵も、そなたもここから逃がすわけにはいかんのでな」
どうやらヴラドは自分を愚弄したロルフを許すつもりがないらしい——。
ヴラドの矮小な執念深さを嗅ぎ取って、マリアはため息をついた。人類の歴史上もっとも残忍な人物のひとりとされる男が、このような狭量な者であったことに落胆を隠せない。他者に対する怖れから凶行に走るのでは、そこらの愚人となんら変わることがないからだ。
「かまわん。多少の犠牲がでてもよい」
ヴラドが強気で押し通すと、ロルフは達観したような口調で言質をとった。
「御意。ですが……、多であっても、少とはならないことを覚悟してくださいね」
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