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ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
第18話 未来の独裁者があなたの名前を騙った
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「吸血鬼!。どういうことです?」
ストイカが抑制した声で尋ねた。ヴラドが手でそれを制してマリアに聞いた。
「マリア、どうしてそのようなことになるのかね」
「あなたが残した残酷な逸話とこの土地の伝説を元にして、ある作家が、夜な夜な人の生き血を求めてさまようモンスターの話を書いたの。その本のタイトルが『吸血鬼ドラキュラ』」
ざわっと室内に憤りの空気が流れる。
「なんと腹立たしい。我が殿を化物として描くなぞ」
ストイカが怒りを隠せない様子でマリアをにらみつけた。
マリアは未来から来た証拠のひとつも教えてやったのに、という思いが強かったので、思いがけない反発の空気に、肩すかしをくらった感じだった。
「ロルフ、マリアの言ったことは本当かね」
「えぇ、まぁ……。ですが、けっしてあなたのことを貶めているのではなく、あなたの残酷な行いと、人里はなれた場所に建つ城、そしてこの地に残る死霊伝説から想像された空想話です」
「ではわたしは未来では化物として、名を残しているだけなのかね」
「いえ、それはちがいます。あなたはルーマニアでは英雄として称えられています」
「英雄……だと?」
「はい、イスラム教徒から西方公教会の領地を守った英雄として……」
「カトリック?。わたしらは東方正教会だ」
「はい。それでもキリスト教の領地を守ったことはまちがいなく、カトリック教会からも認められています」
ロルフはわざとらしく大袈裟なジェスチャーを交えながら言った。ヴラドの心証がよくなるようにという配慮なのだろうとマリアは思った。
ヴラドの歓心をかうのに協力しようと、マリアは先ほど図書館で調べたドラキュラの知識を披露した。
「ホントはね、あなたの活躍って、あまり知られていなかったの。でもそれを知ったその当時の王様が、ルーマニア中に広めたの」
「それは、まるで、その王がわたしの活躍にあやかろうとしたように思えるが?」
ヴラドが厳しい目をマリアにむけた。思いがけない反応に、あわててロルフのほうに助けをもとめたが、ロルフも叱責するような目をこちらにむけてきた。
どうやら余計なことを言ってしまったらしい——。
「あ、いや、でも……。それでドラキュラのおじさんの名誉は回復したのよ」
マリアはあわてて取り繕ったが、ヴラドの機嫌はなおりそうもなかった。
「その王はどういうヤツだ?」
ヴラドはマリアではなくロルフにむかって、怒号まじりの質問をぶつけた。
「はい。その者は王ではありません。平民でありながら独裁者になった、チャウシェスクという男です」
「平民がか……。そいつはどうなった?」
「その独裁者、チャウシェスクは、あなたを英雄に仕立てて人気取りをしましたが、クーデターをおこされ、夫人と一緒に処刑されました。奇しくもここトゥルゴヴィシュテで。一節によれば、ドラキュラ城……いえ、アルジェシュ城に落ち延びようとしたらしいです」
ヴラドがすこし口元をゆるめた。
「処刑……。串刺し刑かね?」
「いえ。銃殺です。鉛の弾で穴だらけにされました」
ヴラドの顔が曇った。
「銃殺?。それでは苦しまないではないか」
「はい。未来では苦しませて死なせるのは、人道的ではないとされています」
ヴラドは話に突然興味をうしなって、見切ったように言った。
「それはつまらん刑だな」
ストイカが抑制した声で尋ねた。ヴラドが手でそれを制してマリアに聞いた。
「マリア、どうしてそのようなことになるのかね」
「あなたが残した残酷な逸話とこの土地の伝説を元にして、ある作家が、夜な夜な人の生き血を求めてさまようモンスターの話を書いたの。その本のタイトルが『吸血鬼ドラキュラ』」
ざわっと室内に憤りの空気が流れる。
「なんと腹立たしい。我が殿を化物として描くなぞ」
ストイカが怒りを隠せない様子でマリアをにらみつけた。
マリアは未来から来た証拠のひとつも教えてやったのに、という思いが強かったので、思いがけない反発の空気に、肩すかしをくらった感じだった。
「ロルフ、マリアの言ったことは本当かね」
「えぇ、まぁ……。ですが、けっしてあなたのことを貶めているのではなく、あなたの残酷な行いと、人里はなれた場所に建つ城、そしてこの地に残る死霊伝説から想像された空想話です」
「ではわたしは未来では化物として、名を残しているだけなのかね」
「いえ、それはちがいます。あなたはルーマニアでは英雄として称えられています」
「英雄……だと?」
「はい、イスラム教徒から西方公教会の領地を守った英雄として……」
「カトリック?。わたしらは東方正教会だ」
「はい。それでもキリスト教の領地を守ったことはまちがいなく、カトリック教会からも認められています」
ロルフはわざとらしく大袈裟なジェスチャーを交えながら言った。ヴラドの心証がよくなるようにという配慮なのだろうとマリアは思った。
ヴラドの歓心をかうのに協力しようと、マリアは先ほど図書館で調べたドラキュラの知識を披露した。
「ホントはね、あなたの活躍って、あまり知られていなかったの。でもそれを知ったその当時の王様が、ルーマニア中に広めたの」
「それは、まるで、その王がわたしの活躍にあやかろうとしたように思えるが?」
ヴラドが厳しい目をマリアにむけた。思いがけない反応に、あわててロルフのほうに助けをもとめたが、ロルフも叱責するような目をこちらにむけてきた。
どうやら余計なことを言ってしまったらしい——。
「あ、いや、でも……。それでドラキュラのおじさんの名誉は回復したのよ」
マリアはあわてて取り繕ったが、ヴラドの機嫌はなおりそうもなかった。
「その王はどういうヤツだ?」
ヴラドはマリアではなくロルフにむかって、怒号まじりの質問をぶつけた。
「はい。その者は王ではありません。平民でありながら独裁者になった、チャウシェスクという男です」
「平民がか……。そいつはどうなった?」
「その独裁者、チャウシェスクは、あなたを英雄に仕立てて人気取りをしましたが、クーデターをおこされ、夫人と一緒に処刑されました。奇しくもここトゥルゴヴィシュテで。一節によれば、ドラキュラ城……いえ、アルジェシュ城に落ち延びようとしたらしいです」
ヴラドがすこし口元をゆるめた。
「処刑……。串刺し刑かね?」
「いえ。銃殺です。鉛の弾で穴だらけにされました」
ヴラドの顔が曇った。
「銃殺?。それでは苦しまないではないか」
「はい。未来では苦しませて死なせるのは、人道的ではないとされています」
ヴラドは話に突然興味をうしなって、見切ったように言った。
「それはつまらん刑だな」
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