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ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
第17話 あなた、歴史に名を残すわよ
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「ヴラド公、わたしたちは過去の歴史を変えるため未来から来たものです」
ロルフがさきに話をきりだした。いつもの軽薄な感じではなく、多分にかしこまった態度だった。当然と言えば当然だったが、マリアの目にはとても新鮮に映った。
「ですが、今がいつかがわからず困惑しております。あなたが玉座に座られているところをみると、すでにコンスタンチノープルはオスマン=トルコの手におちたと思われますが……」
「あぁ、とっくのむかしに落とされておる」
先ほどまでのヴラドの高圧的な態度は鳴りを潜めていた。
「その時、わたしはモルダヴィアから亡命して、ハンガリー王国のフニャディ・ヤノシュの元にかくまわれていた。残念ながらなんの力もなかった」
マリアはいま一度ヴラドの顔を仰ぎ見た。
この世に唯一残された肖像画と比べると、すこし若々しい。たぶん30代前半(32歳)だろう。だが、病的な頬のこけかたや猛獣を思わせるギラついた目、そして不屈の闘志を感じさせる鷲鼻にその片鱗が見てとれる。背は思ったよりおおきくない。ロルフと比べると低いことがわかる。だがその存在感がおおきく、身長差を感じさせない。
「ええ、存じています。あなたは王ではなかったし、一緒に亡命したモルダヴィアの後継者シュテファン公にも力はなかった」
ロルフがうやうやしくそう言うと、ヴラドが身を前にのりだした。
「ほう、そこまで知っているのか」
「もちろんです。未来から来た者ですから」
「本当にそなたたちが、未来からの来訪者というのなら教えてほしい。わたしはこれからどうなる?」
「申し訳ありませんが、それは言えません」
ロルフがやんわりと、それでいて一片の交渉の余地もなく断った。
「あなたに本来あるべき歴史を変えられるわけにはいかないのです」
「どういうことかね。さきほど過去を変えにきたと言ってたはずだが?」
「ええ。その通りです。ですが、変えるのはあくまでわたしたちです。あなたではありません」
ロルフはヴラドに取りつく島を与えずピシャリと言った。だが、そのすぐうしろで傅く、レオンとノアはロルフのやりとりに気が気ではない様子だ。びくついた目つきでロルフの背中をちらちらと見ている。
「ではわたしは変えられてはいけないほどの歴史を作るというのかね?」
「あ、いえ……」
ロルフは言いよどんだ。さきほどまでの毅然とした態度が、おぼつかなくなっている。
マリアはこの場の空気がひりつくような問答を楽しんでいた。
が、ロルフが口をつぐんだことで、ヴラドとヴラドの家臣たちのあいだに、不信感がひろがりはじめている。また口元から『串刺し刑せよ』にいう命令が、滑り出しそうな勢いだ。
「あなた、歴史に名を残すわよ!」
マリアはしかたなくロルフに助け船を出すことにした。
「ドラキュラのおじさんは500年後、世界中に名を知られるようになる。何十億もの人があなたの名前を知ることになるの」
マリアはロルフに貸しを作ったつもりだったが、ロルフは迷惑そうな顔をして、首をいくぶんうなだれた。
「なんと嬉しいことを。殿、わたしたち臣下も鼻が高いものです」
さきほどまでの冷徹な目が嘘のように、軍事監視官のコンスタンティン・ストイカの表情がやわらいだ。やさしげに見える顔は、本当にやさしい笑顔であふれていた。
「でも、有名になるのって、吸血鬼としてよ」
ロルフがさきに話をきりだした。いつもの軽薄な感じではなく、多分にかしこまった態度だった。当然と言えば当然だったが、マリアの目にはとても新鮮に映った。
「ですが、今がいつかがわからず困惑しております。あなたが玉座に座られているところをみると、すでにコンスタンチノープルはオスマン=トルコの手におちたと思われますが……」
「あぁ、とっくのむかしに落とされておる」
先ほどまでのヴラドの高圧的な態度は鳴りを潜めていた。
「その時、わたしはモルダヴィアから亡命して、ハンガリー王国のフニャディ・ヤノシュの元にかくまわれていた。残念ながらなんの力もなかった」
マリアはいま一度ヴラドの顔を仰ぎ見た。
この世に唯一残された肖像画と比べると、すこし若々しい。たぶん30代前半(32歳)だろう。だが、病的な頬のこけかたや猛獣を思わせるギラついた目、そして不屈の闘志を感じさせる鷲鼻にその片鱗が見てとれる。背は思ったよりおおきくない。ロルフと比べると低いことがわかる。だがその存在感がおおきく、身長差を感じさせない。
「ええ、存じています。あなたは王ではなかったし、一緒に亡命したモルダヴィアの後継者シュテファン公にも力はなかった」
ロルフがうやうやしくそう言うと、ヴラドが身を前にのりだした。
「ほう、そこまで知っているのか」
「もちろんです。未来から来た者ですから」
「本当にそなたたちが、未来からの来訪者というのなら教えてほしい。わたしはこれからどうなる?」
「申し訳ありませんが、それは言えません」
ロルフがやんわりと、それでいて一片の交渉の余地もなく断った。
「あなたに本来あるべき歴史を変えられるわけにはいかないのです」
「どういうことかね。さきほど過去を変えにきたと言ってたはずだが?」
「ええ。その通りです。ですが、変えるのはあくまでわたしたちです。あなたではありません」
ロルフはヴラドに取りつく島を与えずピシャリと言った。だが、そのすぐうしろで傅く、レオンとノアはロルフのやりとりに気が気ではない様子だ。びくついた目つきでロルフの背中をちらちらと見ている。
「ではわたしは変えられてはいけないほどの歴史を作るというのかね?」
「あ、いえ……」
ロルフは言いよどんだ。さきほどまでの毅然とした態度が、おぼつかなくなっている。
マリアはこの場の空気がひりつくような問答を楽しんでいた。
が、ロルフが口をつぐんだことで、ヴラドとヴラドの家臣たちのあいだに、不信感がひろがりはじめている。また口元から『串刺し刑せよ』にいう命令が、滑り出しそうな勢いだ。
「あなた、歴史に名を残すわよ!」
マリアはしかたなくロルフに助け船を出すことにした。
「ドラキュラのおじさんは500年後、世界中に名を知られるようになる。何十億もの人があなたの名前を知ることになるの」
マリアはロルフに貸しを作ったつもりだったが、ロルフは迷惑そうな顔をして、首をいくぶんうなだれた。
「なんと嬉しいことを。殿、わたしたち臣下も鼻が高いものです」
さきほどまでの冷徹な目が嘘のように、軍事監視官のコンスタンティン・ストイカの表情がやわらいだ。やさしげに見える顔は、本当にやさしい笑顔であふれていた。
「でも、有名になるのって、吸血鬼としてよ」
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