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ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
第14話 ストイカ!。このふたりを処刑しろ!
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「いいかげんじゃなくってよ」
マリアはうんざりとして口を尖らせた。
「ほう、小娘。つまり、この私、ブラド・ドラキュラは、おまえたちが未来から来たという妄言を信じろと言うのかね」
そのことばの端々に含まれるギラついたエッジは、まわりの人々のこころに刃をつきたてた。側近たちはその凶刃の巻き添えをくわぬよう、みな半身をうしろにひいた。
「いいえ、ドラキュラ公、そうでは……」
あわてて火消しに乗り出したのはロルフ・ギュンターだった。すばやく前に進みでると、すぐさま片膝をついてヴラドの前に傅いた。
「殿このマリアの非礼の数々、申し訳ございません。まだ年端もいかぬ幼き子のことゆえ、なにとぞひらにお許し下さい」
ヴラドは目の前に跪いているロルフを、玉座から見おろしたまま口元を緩めた。
「そうか……、幼き子か……。ならばしかたあるまい」
ロルフが顔をあげてほっとした表情でヴラドを仰ぎみた。
「では責任は貴様がとれ。串刺し刑にてな」
ロルフは目だけをヴラドの方にむけて身動きしなかった。
「ストイカ!。このふたりを処刑しろ!」
ヴラドがそう叫ぶと、側近のなかから優しげな表情を浮かべた男が進みでて、目でまわりの衛兵に指図をした。すぐに数人の兵がロルフの周りを取り囲む。
「なぜです!」
うしろから抗議の声があがった。レオンの訴えだった。ヴラドは良心の欠片が一片もない目を今度はレオンにむけた。
「ふむ、ひとりだけ串刺しというのは忍びない。そこの少年も一緒に処してやろう」
レオンの表情が絶望に沈んだ。
気色ばんでたちあがったものの、そのまま身動きひとつできなかった。そのすぐ横ではノアが跪いた姿勢のまま、ヴラドの視界にはいらぬよう、からだを縮こまらせている。
マリアはおおきくため息をついた。
あー。もー、面倒くさぁいおじさん——。
マリアは床をドンと蹴ると、空中に跳ね飛んだ。
ロルフやレオンたちの頭の上を飛び越えていく。マリアは空中で手のひらに力を呼び込んだ。
あっという間にマリアは背中に剣を背負っていた。
それは中世の騎士が愛用した刃の広い両刃の「ブロードソード」。ドイツでは『カッツバルゲル』と呼ばれるもの。それは標準の80センチほどの長さだったが、一メートル20センチほどのマリアの身長には、やたら長刀に見える。
マリアはうしろ手に背中に手を回すと、柄(ヒルト)を握りしめ、剣を引き抜いた。マリアが跳躍から床に降りたった時には、彼女の剣はヴラドの首元にぴたりとあてがわれていた。
誰もがそれに反応できず、ふいに目の前の現出した主君の危機に亜然とするだけだった。
マリアはヴラドの首に剣の刃を押しあてながら、周りの臣下や兵を牽制してみせた。
「おじさん。あたしたちのお話を聞いてもらえる?」
マリアはため息まじりに続けた。
「個人的には、あなたが首から血を流しながら聞いてくれようが、どうだろうがいっこうに構わなくてよ」
ヴラドの護衛たちが剣を引き抜き、マリアにいつでも斬りかかれるように構えた。
「お嬢さん!。その剣をどけていただけますか」
マリアはうんざりとして口を尖らせた。
「ほう、小娘。つまり、この私、ブラド・ドラキュラは、おまえたちが未来から来たという妄言を信じろと言うのかね」
そのことばの端々に含まれるギラついたエッジは、まわりの人々のこころに刃をつきたてた。側近たちはその凶刃の巻き添えをくわぬよう、みな半身をうしろにひいた。
「いいえ、ドラキュラ公、そうでは……」
あわてて火消しに乗り出したのはロルフ・ギュンターだった。すばやく前に進みでると、すぐさま片膝をついてヴラドの前に傅いた。
「殿このマリアの非礼の数々、申し訳ございません。まだ年端もいかぬ幼き子のことゆえ、なにとぞひらにお許し下さい」
ヴラドは目の前に跪いているロルフを、玉座から見おろしたまま口元を緩めた。
「そうか……、幼き子か……。ならばしかたあるまい」
ロルフが顔をあげてほっとした表情でヴラドを仰ぎみた。
「では責任は貴様がとれ。串刺し刑にてな」
ロルフは目だけをヴラドの方にむけて身動きしなかった。
「ストイカ!。このふたりを処刑しろ!」
ヴラドがそう叫ぶと、側近のなかから優しげな表情を浮かべた男が進みでて、目でまわりの衛兵に指図をした。すぐに数人の兵がロルフの周りを取り囲む。
「なぜです!」
うしろから抗議の声があがった。レオンの訴えだった。ヴラドは良心の欠片が一片もない目を今度はレオンにむけた。
「ふむ、ひとりだけ串刺しというのは忍びない。そこの少年も一緒に処してやろう」
レオンの表情が絶望に沈んだ。
気色ばんでたちあがったものの、そのまま身動きひとつできなかった。そのすぐ横ではノアが跪いた姿勢のまま、ヴラドの視界にはいらぬよう、からだを縮こまらせている。
マリアはおおきくため息をついた。
あー。もー、面倒くさぁいおじさん——。
マリアは床をドンと蹴ると、空中に跳ね飛んだ。
ロルフやレオンたちの頭の上を飛び越えていく。マリアは空中で手のひらに力を呼び込んだ。
あっという間にマリアは背中に剣を背負っていた。
それは中世の騎士が愛用した刃の広い両刃の「ブロードソード」。ドイツでは『カッツバルゲル』と呼ばれるもの。それは標準の80センチほどの長さだったが、一メートル20センチほどのマリアの身長には、やたら長刀に見える。
マリアはうしろ手に背中に手を回すと、柄(ヒルト)を握りしめ、剣を引き抜いた。マリアが跳躍から床に降りたった時には、彼女の剣はヴラドの首元にぴたりとあてがわれていた。
誰もがそれに反応できず、ふいに目の前の現出した主君の危機に亜然とするだけだった。
マリアはヴラドの首に剣の刃を押しあてながら、周りの臣下や兵を牽制してみせた。
「おじさん。あたしたちのお話を聞いてもらえる?」
マリアはため息まじりに続けた。
「個人的には、あなたが首から血を流しながら聞いてくれようが、どうだろうがいっこうに構わなくてよ」
ヴラドの護衛たちが剣を引き抜き、マリアにいつでも斬りかかれるように構えた。
「お嬢さん!。その剣をどけていただけますか」
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