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ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
第2話 ずいぶんひっどいところに来たものね
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マリア・フォン・トラップ——。
彼女はアッヘンヴァル学長の姪で優秀なダイバーだと聞いていた。
だが、父親が外交官で伯母にアッヘンヴァル学長がいるのだから、特別待遇を受けるのも当然だ、という口さがない噂も同時に聞き及んでいた。
レオンの個人的見解で言うなら、そのコネや特権が『ダイバーズ・オブ・ゴッド』の評価に直接及ぶとは思えなかった。
そんなに甘い世界ではない、というのを肌身にしみて知っていたので、その噂を簡単には鵜呑みにできない。
ただ別の噂ではすでに8歳のときには人の前世の記憶の中にダイブできた、とは聞こえてきていたが、そちらのほうがにわかに信じられなかった。
もしそれが真実だとしたら、たったの4年しか経験がないことになる。それだけの経験で『ダイバーズ・オブ・ゴッド』に推薦されるとは到底思えなかった。
自分は14歳の時にダイブできるようになって、すでに6年。これまでに二十回に迫るダイブの実績もある。その経験と実績をこんな小さな女の子が埋めきれるとは、レオンには到底思えなかった。
そのとき、マリアの鼻がひくついた。おおきく伸びをしながらマリアが目をひらいた。
「ずいぶんひっどいところに来たものね」
「ひどいところ?」
「だってものすごい臭いがしているじゃない」
「臭い……。俺にはなにも。ノア、キミはどうだ?」
「ちょっと待ってください」
そう言ってノアが精神を集中させるように目を閉じた。
「レオンさん。たしかにこの先にひとの気配がほんの微かに感じられるよぉ。だれかが潜んでいるのかもしれないぃ」
「潜んでるですって?。ノア、あなたの能力ってひとの気配を感知するんじゃなかったからしら?」
「そうだともぉ」
「ふうん、でも鼻は利かないのね。まったく羨ましいこと。この鼻がねじ切れそうな臭いが臭わないだなんて。あなたたちよっぽど能力が弱いのね」
そのことばにノアがいきりたった。
「マリア、ぼくは『特待生』で大学に入学したほどの能力者だよぉ。ちょっとことばが過ぎるんじゃないかなぁ」
「あら、ノア。だったら大問題じゃない。嗅覚に問題があるわよ。それと視覚もね。もしかしてあなたたち、こっちの世界じゃあ、五感が鈍い仕様なのかしら……?」
「ずいぶん言ってくれるじゃないかぁ。それはきみが子供だからだろぉぉ。お子ちゃまは味覚も聴覚もすぐれているっていうからねぇ。きっと大人には感じられないものが臭っているんだよぉ」
ノアが皮肉をたっぷりとマリアに浴びせかけた。
「まぁ。見えないなら、それはそれで幸せだと思うからいいけどさぁ」
今度はマリアのけしかけるような言い方が、レオンの癇に障った。
「マリア、いい加減なことを言わないでくれないか。ここはただの森だ」
レオンはそう言って手で正面を指し示しながら語気を強めた。
「見たまえ、正面の木々がだいぶまばらになってきた。その森ももうすぐ抜ける」
「森ですって?」
彼女はアッヘンヴァル学長の姪で優秀なダイバーだと聞いていた。
だが、父親が外交官で伯母にアッヘンヴァル学長がいるのだから、特別待遇を受けるのも当然だ、という口さがない噂も同時に聞き及んでいた。
レオンの個人的見解で言うなら、そのコネや特権が『ダイバーズ・オブ・ゴッド』の評価に直接及ぶとは思えなかった。
そんなに甘い世界ではない、というのを肌身にしみて知っていたので、その噂を簡単には鵜呑みにできない。
ただ別の噂ではすでに8歳のときには人の前世の記憶の中にダイブできた、とは聞こえてきていたが、そちらのほうがにわかに信じられなかった。
もしそれが真実だとしたら、たったの4年しか経験がないことになる。それだけの経験で『ダイバーズ・オブ・ゴッド』に推薦されるとは到底思えなかった。
自分は14歳の時にダイブできるようになって、すでに6年。これまでに二十回に迫るダイブの実績もある。その経験と実績をこんな小さな女の子が埋めきれるとは、レオンには到底思えなかった。
そのとき、マリアの鼻がひくついた。おおきく伸びをしながらマリアが目をひらいた。
「ずいぶんひっどいところに来たものね」
「ひどいところ?」
「だってものすごい臭いがしているじゃない」
「臭い……。俺にはなにも。ノア、キミはどうだ?」
「ちょっと待ってください」
そう言ってノアが精神を集中させるように目を閉じた。
「レオンさん。たしかにこの先にひとの気配がほんの微かに感じられるよぉ。だれかが潜んでいるのかもしれないぃ」
「潜んでるですって?。ノア、あなたの能力ってひとの気配を感知するんじゃなかったからしら?」
「そうだともぉ」
「ふうん、でも鼻は利かないのね。まったく羨ましいこと。この鼻がねじ切れそうな臭いが臭わないだなんて。あなたたちよっぽど能力が弱いのね」
そのことばにノアがいきりたった。
「マリア、ぼくは『特待生』で大学に入学したほどの能力者だよぉ。ちょっとことばが過ぎるんじゃないかなぁ」
「あら、ノア。だったら大問題じゃない。嗅覚に問題があるわよ。それと視覚もね。もしかしてあなたたち、こっちの世界じゃあ、五感が鈍い仕様なのかしら……?」
「ずいぶん言ってくれるじゃないかぁ。それはきみが子供だからだろぉぉ。お子ちゃまは味覚も聴覚もすぐれているっていうからねぇ。きっと大人には感じられないものが臭っているんだよぉ」
ノアが皮肉をたっぷりとマリアに浴びせかけた。
「まぁ。見えないなら、それはそれで幸せだと思うからいいけどさぁ」
今度はマリアのけしかけるような言い方が、レオンの癇に障った。
「マリア、いい加減なことを言わないでくれないか。ここはただの森だ」
レオンはそう言って手で正面を指し示しながら語気を強めた。
「見たまえ、正面の木々がだいぶまばらになってきた。その森ももうすぐ抜ける」
「森ですって?」
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