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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第238話 おまえもセイに惚れちまっただろ? - オリンピック編 - 完結
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もうそろそろ日にちをまたごうかという深夜に、マリアの提案で再びメンバーが集まった。マリアがスピロを呼びだすと、先ほどと変わらない格好でモニタ画面に姿を現わした。
【セイはイナイのですね】
スピロが訊いてきた。
「ああ、女子会だからな」
マリアがそう言うと、スピロが【ジョシカイとは?】と尋ねてきた。
「ニッポンじゃあ、女の子だけの集まりをそう言うらしい」
【ワタシはオトコですよ】
「ハ、なにをいまさら。心は女だろうがぁ。だったら女だ」
【ありがとう】
「さっきはセイがはしゃぎすぎて。まともに紹介できなかったからな……」
そう言いながらマリアはかがりの腕をつかんでカメラの正面にひっぱりだした。
「こいつが聖の恋人の広瀬かがりだ」
そう紹介されてかがりはあわてて否定するジェスチャーをした。
「あ、いや、な、なにを言うの。マリア、私と聖ちゃんはそんな関係じゃあ……」
「かがり、おまえが何と言おうと、おまえとセイのあいだに誰もはいれねえんだからしかたねだろ」
「はいれない……って?」
かがりがなんの含みもなく頭をひねるのを見て、マリアは無性にむしゃくしゃした。ついモニタのむこうのスピロにあたる。
「な、スピロ。これだから困るんだよ。オレたちもどう立ちふるまっていいのやら」
「ほんとうですわ。もう少し聖さんとべったりしてくれてれば、いえ、それはそれでイヤですけどまぁ、それなら諦めがつくというものです」
エヴァがめずらしく感情をまるだしにして、マリアの意見を肯定してきた。
【セイはほんとうにすてきなヒト】
スピロがそう返してきたので、マリアはさらに皮肉を重ねてみせた。
「ただの変わりモンだよ。こんな美女に囲まれてるっていうのにさ」
「本当ですわ」
【まるでアルキビアデスみたい】
スピロがそう言うと、かがりがその名前に頭をひねった。
「アルキビアデス?。それって誰?」
「古代ギリシアのトンでもねえ女たらしだよ。だけど、セイはそんなにイケメンじゃねぇぞ」
マリアはかがりに説明をいれながら、スピロの意見を全力否定してかかると、エヴァとゾーイがそれに続いた。
「そうです。あんなに大金持ちではありませんわ」
『それに貴族でもない』
三人がそれぞれのアルキビアデスの感想を矢継ぎ早に返した。が、スピロは顔色ひとつ変えることなくその意味を説明してきた。
【アルキビアデスもガイケンのうつくしさにひかれないヒトでした。ソクラテスにキュウアイしたんですよ】
ゾーイがそのスピロの意見に合点した。
『たしかにソクラテスは醜男で有名でした。シノレスという醜い怪物にそっくりで。でもアルキビアデスはそんなソクラテスをずっと愛した』
「なるほどな。たしかに聖も人の見た目なんか気にしねえ。人の中身にしか惹かれないっていうんなら、そうだな。アルキビアデスとおなじだな……」
「へえー、そんな人がいたんだ」
かがりが感心しきりで間の手をいれたが、すぐにおかしなことに気づいたらしい。
「——って、マリア。ソクラテスって男でしょ。どーいうことなの?」
「古代ギリシアではそういう恋愛は、ふつうのことだったんですわ」
エヴァが当たり障りのない説明をしたが、マリアはかがりをからかうことにした。
「まぁ、おかげで聖はなんども貞操の危機にみまわれたがな」
「ど、どういうことぉ?」
「プラトンにはずいぶんしつこく狙われてた」
するとモニタのむこうからスピ口も参戦してきた。
【ハダカのセイはたくさんのオトコにおそわれました】
「えっ、えっ、それ聞いてない!」
かがりは聖がらみの暴露話にあたふたした。すこしかわいそうになったので、マリアはことの顛末を語った
「心配すんな。セイは全員KOしちまったよ」
「そ、そうなの……」
かがりがほっと胸をなでおろしたのをみて、マリアはスピロに声をかけた。
「おいおいスピ口、いくら恋敵だからって、あんま、かがりをからかうな」
「ちょっとマリア恋敵って何よ」
「恋敵は恋敵ですわ」
エヴァが横がわり入ってきた。
「かがりさん、あなたって人がいるから遠慮していますけど、みんなセイさんが好きなんですよ。ね、ゾーイ」
そうエヴァに声をかけられて、ゾーイが自動翻訳機にボソボソと何か吹き込んだ。
『セイと一緒に旅したら、誰だって好きになってしまいます』
「だな。さっきさんざん聖の胸で泣いてたしな」
マリアがそうゾーイに言うと、ゾーイはすこし顔を赤らめた。
「あいつのカノジョのおまえの前で言うのもなんだが、みんな聖のことが好きなのさ。そうだろ、スピ口」
マリアはスピ口に問いかけた。
だが、スピロは何も答えようとしなかった。マリアはもう一度訊いてみた。
「なんだよ、スピロ、おまえもセイに惚れちまっただろ?」
しばらくするとモニタの下方に、返事が翻訳されて表示された。
それを見るなりエヴァが「まぁ、よく言いますこと」とすこし呆れかえった声をあげた。
ゾーイは肩をすくめながら『姉はよくばりなんです』と釈明めいたことを言った。
かがりはその意味がわからず、眉根をよせて難しそうな顔で「どういう意味なの?」と訊いた。
マリアはたくらみにあふれた返事を見て、思いっきり意地悪な表情で尋ねた。
「おい、スピ口。こいつはどっちの意味だ?」
だが、スピロはなにも言わず、ただ口元をゆっくりとゆるませて、笑みをうかべただけだった。マリアにはそれがとても楽しそうで、恥ずかしそうで、愛おしさがこぼれ落ちるような笑顔に見えた。
マリアはもう一度スピロの返事に目をむけた。
そこにはこう書いてあった——。
【—— わたしはプラトニック・ラブがいい ——】
------------------------------------------------------古代オリンピック編 完
【セイはイナイのですね】
スピロが訊いてきた。
「ああ、女子会だからな」
マリアがそう言うと、スピロが【ジョシカイとは?】と尋ねてきた。
「ニッポンじゃあ、女の子だけの集まりをそう言うらしい」
【ワタシはオトコですよ】
「ハ、なにをいまさら。心は女だろうがぁ。だったら女だ」
【ありがとう】
「さっきはセイがはしゃぎすぎて。まともに紹介できなかったからな……」
そう言いながらマリアはかがりの腕をつかんでカメラの正面にひっぱりだした。
「こいつが聖の恋人の広瀬かがりだ」
そう紹介されてかがりはあわてて否定するジェスチャーをした。
「あ、いや、な、なにを言うの。マリア、私と聖ちゃんはそんな関係じゃあ……」
「かがり、おまえが何と言おうと、おまえとセイのあいだに誰もはいれねえんだからしかたねだろ」
「はいれない……って?」
かがりがなんの含みもなく頭をひねるのを見て、マリアは無性にむしゃくしゃした。ついモニタのむこうのスピロにあたる。
「な、スピロ。これだから困るんだよ。オレたちもどう立ちふるまっていいのやら」
「ほんとうですわ。もう少し聖さんとべったりしてくれてれば、いえ、それはそれでイヤですけどまぁ、それなら諦めがつくというものです」
エヴァがめずらしく感情をまるだしにして、マリアの意見を肯定してきた。
【セイはほんとうにすてきなヒト】
スピロがそう返してきたので、マリアはさらに皮肉を重ねてみせた。
「ただの変わりモンだよ。こんな美女に囲まれてるっていうのにさ」
「本当ですわ」
【まるでアルキビアデスみたい】
スピロがそう言うと、かがりがその名前に頭をひねった。
「アルキビアデス?。それって誰?」
「古代ギリシアのトンでもねえ女たらしだよ。だけど、セイはそんなにイケメンじゃねぇぞ」
マリアはかがりに説明をいれながら、スピロの意見を全力否定してかかると、エヴァとゾーイがそれに続いた。
「そうです。あんなに大金持ちではありませんわ」
『それに貴族でもない』
三人がそれぞれのアルキビアデスの感想を矢継ぎ早に返した。が、スピロは顔色ひとつ変えることなくその意味を説明してきた。
【アルキビアデスもガイケンのうつくしさにひかれないヒトでした。ソクラテスにキュウアイしたんですよ】
ゾーイがそのスピロの意見に合点した。
『たしかにソクラテスは醜男で有名でした。シノレスという醜い怪物にそっくりで。でもアルキビアデスはそんなソクラテスをずっと愛した』
「なるほどな。たしかに聖も人の見た目なんか気にしねえ。人の中身にしか惹かれないっていうんなら、そうだな。アルキビアデスとおなじだな……」
「へえー、そんな人がいたんだ」
かがりが感心しきりで間の手をいれたが、すぐにおかしなことに気づいたらしい。
「——って、マリア。ソクラテスって男でしょ。どーいうことなの?」
「古代ギリシアではそういう恋愛は、ふつうのことだったんですわ」
エヴァが当たり障りのない説明をしたが、マリアはかがりをからかうことにした。
「まぁ、おかげで聖はなんども貞操の危機にみまわれたがな」
「ど、どういうことぉ?」
「プラトンにはずいぶんしつこく狙われてた」
するとモニタのむこうからスピ口も参戦してきた。
【ハダカのセイはたくさんのオトコにおそわれました】
「えっ、えっ、それ聞いてない!」
かがりは聖がらみの暴露話にあたふたした。すこしかわいそうになったので、マリアはことの顛末を語った
「心配すんな。セイは全員KOしちまったよ」
「そ、そうなの……」
かがりがほっと胸をなでおろしたのをみて、マリアはスピロに声をかけた。
「おいおいスピ口、いくら恋敵だからって、あんま、かがりをからかうな」
「ちょっとマリア恋敵って何よ」
「恋敵は恋敵ですわ」
エヴァが横がわり入ってきた。
「かがりさん、あなたって人がいるから遠慮していますけど、みんなセイさんが好きなんですよ。ね、ゾーイ」
そうエヴァに声をかけられて、ゾーイが自動翻訳機にボソボソと何か吹き込んだ。
『セイと一緒に旅したら、誰だって好きになってしまいます』
「だな。さっきさんざん聖の胸で泣いてたしな」
マリアがそうゾーイに言うと、ゾーイはすこし顔を赤らめた。
「あいつのカノジョのおまえの前で言うのもなんだが、みんな聖のことが好きなのさ。そうだろ、スピ口」
マリアはスピ口に問いかけた。
だが、スピロは何も答えようとしなかった。マリアはもう一度訊いてみた。
「なんだよ、スピロ、おまえもセイに惚れちまっただろ?」
しばらくするとモニタの下方に、返事が翻訳されて表示された。
それを見るなりエヴァが「まぁ、よく言いますこと」とすこし呆れかえった声をあげた。
ゾーイは肩をすくめながら『姉はよくばりなんです』と釈明めいたことを言った。
かがりはその意味がわからず、眉根をよせて難しそうな顔で「どういう意味なの?」と訊いた。
マリアはたくらみにあふれた返事を見て、思いっきり意地悪な表情で尋ねた。
「おい、スピ口。こいつはどっちの意味だ?」
だが、スピロはなにも言わず、ただ口元をゆっくりとゆるませて、笑みをうかべただけだった。マリアにはそれがとても楽しそうで、恥ずかしそうで、愛おしさがこぼれ落ちるような笑顔に見えた。
マリアはもう一度スピロの返事に目をむけた。
そこにはこう書いてあった——。
【—— わたしはプラトニック・ラブがいい ——】
------------------------------------------------------古代オリンピック編 完
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