342 / 935
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第230話 でもきっと聖ちゃんは大丈夫
しおりを挟む
こんなに長い時間潜っているのはほんとうにひさしぶり——。
広瀬・花香里はプールの底に沈んでいる夢見・聖を見ながらそう感じた。
ダイブをはじめてすでに8時間近くが経っている。
おそらくむこうでは何日も経過しているにちがいない。
今度はどんな冒険を、どんな戦いをしているんだろう——。
かがりはヴァイタルデータや脳内物質の分泌濃度をずっとモニタリングし続けながら、聖との冒険を楽しんでいた。
なにが起きているかわからない。
目まぐるしく脳内物質が入れ替わったり、心拍数や呼吸数がめくるめく変化をしている。
最初はいきなり心拍数が跳ね上がって心配したが、そのあとは呼吸が早くなったり、アドレナリン値やノルアドレナリン値が増えた。そしてドーパミンが大量分泌して、今はセロトニンが優位に働いている。
時間が長い分だけ、分泌される量はいつもより多い。
父、夢見輝雄が言うには、いろいろな戦いになんども挑んでいるのかもしれない、ということだった。たぶんすこし前ならきっと焦燥感に駆られてしかたがなかっただろう。そんな波形の変化だった。
でもきっと聖ちゃんは大丈夫——。
だって、マリアとエヴァは……楽しそうにはねてるもの——。
かがりは、聖のデータモニタの隣にある、マリアとエヴァのヴァイタルデータのほうに目をやった。
二人の波形は聖のものとしっかりとリンクしていた。
やはりふたりとも最初に心拍数が跳ね上がったが、セイのアドレナリン値が上昇しはじめると、ふたりは切羽詰まった状況にでるノルアドレナリン値が優位になった。その後グラフは乱降下を繰り返したのち、恍惚を司る脳内麻薬エンドルフィン値が強くなり、今はやすらぎを司るセロトニンに包まれている。
かがりにはその分泌物質の変化から、あちらの世界で起きている状況がなんとなく推察できた。
おおかた最初の方は手をだせずハラハラするだけだったが、突然血が湧くような活躍場面がおとずれ、恍惚に浸るほどの大暴れをしたのだろう。
問題はその大暴れで事態が決着したか、それともさらに拡大したのかだった。
かがりはちらりと隣のテーブルに目をむけた。そろそろ戻ってくるころだろうと思い、用意したハンバーガーがテーブルいっぱいに置いてある。予想外に長引いていたせいで、すでにあらかた冷えきって、フライドポテトはふにゃふにゃになっている。
んもう、早く帰ってきなさいよね。カビ生えちゃうわよ!
と、その瞬間、頭上のランプが点滅し、アラートが鳴ったかと思うと、マリアが戻ってきた。かがりは「マリア!」と叫ぶなりあわてて駆け寄る。
ゴーグルをはね上げ、マスクを引き剥がしたマリアは、顔を手でなんどかぬぐい『念導液』をふり払うと、近寄ってきたかがりに言った。
「おいかがり、今回、セイはずっと全裸だったぞ。いわゆるフルチンっていうヤツだ」
広瀬・花香里はプールの底に沈んでいる夢見・聖を見ながらそう感じた。
ダイブをはじめてすでに8時間近くが経っている。
おそらくむこうでは何日も経過しているにちがいない。
今度はどんな冒険を、どんな戦いをしているんだろう——。
かがりはヴァイタルデータや脳内物質の分泌濃度をずっとモニタリングし続けながら、聖との冒険を楽しんでいた。
なにが起きているかわからない。
目まぐるしく脳内物質が入れ替わったり、心拍数や呼吸数がめくるめく変化をしている。
最初はいきなり心拍数が跳ね上がって心配したが、そのあとは呼吸が早くなったり、アドレナリン値やノルアドレナリン値が増えた。そしてドーパミンが大量分泌して、今はセロトニンが優位に働いている。
時間が長い分だけ、分泌される量はいつもより多い。
父、夢見輝雄が言うには、いろいろな戦いになんども挑んでいるのかもしれない、ということだった。たぶんすこし前ならきっと焦燥感に駆られてしかたがなかっただろう。そんな波形の変化だった。
でもきっと聖ちゃんは大丈夫——。
だって、マリアとエヴァは……楽しそうにはねてるもの——。
かがりは、聖のデータモニタの隣にある、マリアとエヴァのヴァイタルデータのほうに目をやった。
二人の波形は聖のものとしっかりとリンクしていた。
やはりふたりとも最初に心拍数が跳ね上がったが、セイのアドレナリン値が上昇しはじめると、ふたりは切羽詰まった状況にでるノルアドレナリン値が優位になった。その後グラフは乱降下を繰り返したのち、恍惚を司る脳内麻薬エンドルフィン値が強くなり、今はやすらぎを司るセロトニンに包まれている。
かがりにはその分泌物質の変化から、あちらの世界で起きている状況がなんとなく推察できた。
おおかた最初の方は手をだせずハラハラするだけだったが、突然血が湧くような活躍場面がおとずれ、恍惚に浸るほどの大暴れをしたのだろう。
問題はその大暴れで事態が決着したか、それともさらに拡大したのかだった。
かがりはちらりと隣のテーブルに目をむけた。そろそろ戻ってくるころだろうと思い、用意したハンバーガーがテーブルいっぱいに置いてある。予想外に長引いていたせいで、すでにあらかた冷えきって、フライドポテトはふにゃふにゃになっている。
んもう、早く帰ってきなさいよね。カビ生えちゃうわよ!
と、その瞬間、頭上のランプが点滅し、アラートが鳴ったかと思うと、マリアが戻ってきた。かがりは「マリア!」と叫ぶなりあわてて駆け寄る。
ゴーグルをはね上げ、マスクを引き剥がしたマリアは、顔を手でなんどかぬぐい『念導液』をふり払うと、近寄ってきたかがりに言った。
「おいかがり、今回、セイはずっと全裸だったぞ。いわゆるフルチンっていうヤツだ」
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。


セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる