326 / 935
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第214話 たいしたもんだ!
しおりを挟む
そう、資格はない。だから、もうこの前世の世界に自分が足を踏み入れることはない。
能力を持たない自分は、能力者であるセイたちとは別次元の人種なのだ。
ここは無能の者が立ち入っていい領域ではない——。
ならば……、最後の旅の記念に一体くらい、みずからの手で悪魔を倒しておくのもまた一興ではないか。
スピ口は剣をもった右腕を左胸のほうへ引きあげると、一気に悪魔の首元めがけて薙ぎ払った。肉に刃を喰いこませる嫌な感触が伝わるでも、骨を断ちきる強い抵抗があるでもなかった。まるで「ムサカ(ギリシア名物の2種類のソースと野菜の重ね焼き)」を切り分けるほどの感触しかない。
だがそれだけで、悪魔の首は勢いよく跳ね飛んでいった。
「な、弱えぇだろ!」
マリアが楽しげに大声をあげた。
「ええ。ええ……、弱いです」
スピロはその喜びいっぱいのマリアの声につられて、おもわず声を弾ませた。
マリアはにやりと笑うと、スピロを指さしながら言った。
「それでも、あんたは悪魔を一体倒した……」
「たいしたもんだ」
そう言われてあらためて手の中の剣『マカイラ』を見た。そしてスピロに刎ねられ転がっている悪魔の頭を……。
結局、名前もきかぬままの、名もなき亜魔であったが、この手で駆逐した——。
「はいっ!」
悦びが全身をかけぬけた。
いますぐここで踊り出したいような、歌い出したいような、そんな晴れやかな気分だった。
が、その時、タルディスが「あれはなんだ!」と大声で叫んだ。
スピ口はせっかくの気分を台無しにされてムッとしたが、いたしかたなく言われたほうへ目をむけた。
怪物たちに追われてトラック内に逃げおおせた人々が、またもやなにかに変貌しようとしていた。
二人の人間が背中合せに張りつき合体し、まるまるとした体躯の生物に変身している。その生物はそのまま倒れこむと、二人分の四本の手と、四本の足を地面につけて、八本足で地面を歩きはじめる。すでに服は破れ落ちて裸になっていたが、その体表面はローションでも塗ったようにぬめりを帯びていて、どぎついまでの『てらてら』とした妖しい光がのたくる。
ふたつの頭がこちらをむく。すでに人間の顔ではない。目は赤々と血走り、口は耳元まで裂けていて、まるで出来の悪い人形のようにも見える。ふたつの頭は上下逆さまになったままで、口をおおきく開いてあたりを威嚇する。
その不気味な容姿に息を飲まされたが、スピロはその正体に気づいた。
「まさか……、あれは、アンドロギュノス……」
能力を持たない自分は、能力者であるセイたちとは別次元の人種なのだ。
ここは無能の者が立ち入っていい領域ではない——。
ならば……、最後の旅の記念に一体くらい、みずからの手で悪魔を倒しておくのもまた一興ではないか。
スピ口は剣をもった右腕を左胸のほうへ引きあげると、一気に悪魔の首元めがけて薙ぎ払った。肉に刃を喰いこませる嫌な感触が伝わるでも、骨を断ちきる強い抵抗があるでもなかった。まるで「ムサカ(ギリシア名物の2種類のソースと野菜の重ね焼き)」を切り分けるほどの感触しかない。
だがそれだけで、悪魔の首は勢いよく跳ね飛んでいった。
「な、弱えぇだろ!」
マリアが楽しげに大声をあげた。
「ええ。ええ……、弱いです」
スピロはその喜びいっぱいのマリアの声につられて、おもわず声を弾ませた。
マリアはにやりと笑うと、スピロを指さしながら言った。
「それでも、あんたは悪魔を一体倒した……」
「たいしたもんだ」
そう言われてあらためて手の中の剣『マカイラ』を見た。そしてスピロに刎ねられ転がっている悪魔の頭を……。
結局、名前もきかぬままの、名もなき亜魔であったが、この手で駆逐した——。
「はいっ!」
悦びが全身をかけぬけた。
いますぐここで踊り出したいような、歌い出したいような、そんな晴れやかな気分だった。
が、その時、タルディスが「あれはなんだ!」と大声で叫んだ。
スピ口はせっかくの気分を台無しにされてムッとしたが、いたしかたなく言われたほうへ目をむけた。
怪物たちに追われてトラック内に逃げおおせた人々が、またもやなにかに変貌しようとしていた。
二人の人間が背中合せに張りつき合体し、まるまるとした体躯の生物に変身している。その生物はそのまま倒れこむと、二人分の四本の手と、四本の足を地面につけて、八本足で地面を歩きはじめる。すでに服は破れ落ちて裸になっていたが、その体表面はローションでも塗ったようにぬめりを帯びていて、どぎついまでの『てらてら』とした妖しい光がのたくる。
ふたつの頭がこちらをむく。すでに人間の顔ではない。目は赤々と血走り、口は耳元まで裂けていて、まるで出来の悪い人形のようにも見える。ふたつの頭は上下逆さまになったままで、口をおおきく開いてあたりを威嚇する。
その不気味な容姿に息を飲まされたが、スピロはその正体に気づいた。
「まさか……、あれは、アンドロギュノス……」
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる