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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第209話 何千もの敵には、何千もの武器
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そのとき突然、空がかき曇った。
ゾーイはあわてて天を仰いだ。これほどドラスティックに、天候が急変するのはただ事ではない。いやな予感がした。
天空におおきな穴があいて漆黒の空間がひろがっていた。そして、そこにはまるで台風でもあるかのように、気流が渦巻いてみえた。
ゾーイはその渦の中心を信じられない思いで見た。
そこに目を疑うほどの数の刀があった。
細い刀身、全体がすこしうしろに反り返り、刀身の片側に刃がある。セイが先ほど手の中に召喚したものと似ている。おそらく日本刀だ。
それがまるで飛行機の編隊のように、空中に等間隔で居並んだまま、ゆっくりと降りてくる。数えるまでもなく何千本もある——。
何千もの敵には、何千もの武器——。
ゾーイははっとしてセイを見た。
数!!!!!!。
「妹のサエを利用する卑怯な奴を、ぼくは絶対に許さない」
セイの目がギラリと殺気を帯びた光を放っていた。抱きしめられた時、自分の目の前にあった、セイの情愛にあふれたやさしい瞳はすでにない。
ゾーイは心の襞がざわつくのを感じた。
セイがなにをするつもりかはわからない。だが、その目には決意に満ちていた。
狂わんばかりの怨念を滾らせ、満身に殺意を漲らせていきながらも、残酷なまでに冷静な精神で、その荒ぶる魂を制卸している——。
そんな決意をたたえる目に、ゾーイのこころは揺さぶられた。
これがサムライ——。
ゾーイはそこにかつてセイの国、ニッポンにいたという兵士の姿を見た気がした。だが、『サムライ』とは職業でも役職でもなく、『サムライ』という『生き様』であると聞いた。
避けられないことを心静かに受け入れ、危険や災難を前にしても、甘えを排して自分を律し、『生』に執着しない死生観でおのれの矜持と正対する。
そういう『生き様』だと……。
セイが右手を上にゆっくりあげながら、地上にいる怪物たちを睨め付けた。
「参る!」
そうちいさく呟くと、挙げた手を一気に下に振り下ろした。それが突撃の合図だった。
セイが戦車の後方から地上にむかって飛び降りた。
ゾーイはおどろきのあまり反射的に手を伸ばした。いくら力があると言っても、地面にそのまま落ちたら、ただではすまない高度だ。
だが、落ちて行くセイの足元に無数の日本刀が横になって滑り込んできていた。刀が峰の部分を上にして、おどろくほどのスピードで整列しはじめる。一定間隔で並びながら、刀はすこしづつ下へと段差を刻んでいた。
セイがその刀の階段を一気に駆け降りていく。
並んだ刀の峰を踏みつけながら、ときには数段飛ばしで駆け降りていく。
ゾーイはあわてて天を仰いだ。これほどドラスティックに、天候が急変するのはただ事ではない。いやな予感がした。
天空におおきな穴があいて漆黒の空間がひろがっていた。そして、そこにはまるで台風でもあるかのように、気流が渦巻いてみえた。
ゾーイはその渦の中心を信じられない思いで見た。
そこに目を疑うほどの数の刀があった。
細い刀身、全体がすこしうしろに反り返り、刀身の片側に刃がある。セイが先ほど手の中に召喚したものと似ている。おそらく日本刀だ。
それがまるで飛行機の編隊のように、空中に等間隔で居並んだまま、ゆっくりと降りてくる。数えるまでもなく何千本もある——。
何千もの敵には、何千もの武器——。
ゾーイははっとしてセイを見た。
数!!!!!!。
「妹のサエを利用する卑怯な奴を、ぼくは絶対に許さない」
セイの目がギラリと殺気を帯びた光を放っていた。抱きしめられた時、自分の目の前にあった、セイの情愛にあふれたやさしい瞳はすでにない。
ゾーイは心の襞がざわつくのを感じた。
セイがなにをするつもりかはわからない。だが、その目には決意に満ちていた。
狂わんばかりの怨念を滾らせ、満身に殺意を漲らせていきながらも、残酷なまでに冷静な精神で、その荒ぶる魂を制卸している——。
そんな決意をたたえる目に、ゾーイのこころは揺さぶられた。
これがサムライ——。
ゾーイはそこにかつてセイの国、ニッポンにいたという兵士の姿を見た気がした。だが、『サムライ』とは職業でも役職でもなく、『サムライ』という『生き様』であると聞いた。
避けられないことを心静かに受け入れ、危険や災難を前にしても、甘えを排して自分を律し、『生』に執着しない死生観でおのれの矜持と正対する。
そういう『生き様』だと……。
セイが右手を上にゆっくりあげながら、地上にいる怪物たちを睨め付けた。
「参る!」
そうちいさく呟くと、挙げた手を一気に下に振り下ろした。それが突撃の合図だった。
セイが戦車の後方から地上にむかって飛び降りた。
ゾーイはおどろきのあまり反射的に手を伸ばした。いくら力があると言っても、地面にそのまま落ちたら、ただではすまない高度だ。
だが、落ちて行くセイの足元に無数の日本刀が横になって滑り込んできていた。刀が峰の部分を上にして、おどろくほどのスピードで整列しはじめる。一定間隔で並びながら、刀はすこしづつ下へと段差を刻んでいた。
セイがその刀の階段を一気に駆け降りていく。
並んだ刀の峰を踏みつけながら、ときには数段飛ばしで駆け降りていく。
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