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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第200話 ゾーイ、セイの戦車に飛び移る
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セイの戦車はルキアノスと若い御者、今はスフィンクスとアルゴスに両側をガッチリと固められたまま、タラクシッポスのある東側の折り返し点を曲がっていった。
曲がる寸前に正面の観客席でマリアが怪物とたったひとりで戦っているのが見えた。その数の多さに手こずっているようだったが、セイにはマリアが危機に陥っているようには感じられなかった。
どっちにしてもあと一周で終わる。
セイは両隣を交互に見やった。
この一周は三台が並走した形で走っていたが、そのあいだスフィンクスもアルゴスも襲ってくる気配がなかった。それどころかあたりで大暴れしている怪物たちすら、進路を邪魔しようとすらしてこない。まるで怪物たちまでもが協力して、セイを勝たせてくれようとしているような錯覚に陥る。
さきほど一つ目巨人のサイクロプスを倒したところに差しかかろうとした時、ふいに路肩からこちらへ走り込んでくるゾーイの姿をみつけた。ゾーイはおおきな跳躍をすると、背後から御者台に飛び乗ってきた。ゾーイは勢いのあまり前につんのめり、馬と御者台をつなぐ轅にからだが飛び出そうとした。セイがあわててそれを引き戻す。
「ゾーイ!、どうしたんだい」
「セイさん、突然すまないよ。だけど時間がない」
「なにがあった?」
ゾーイのただならない様子にセイの顔が引き締まった。
「気を落ち着けてきいとくれ。セイさん、ゴールにあなたの妹さん、サエさんが出現したんだよ」
「まさか、サエが?」
「だけど本物かどうかはわかんないんだよ。あたいは移動させよう抱えたんだけど、うまくいかなかった。でもこのままあと一周したらこの戦車はサエさんを轢いちまう」
ゾーイが事実だけを伝えようとしているのはわかったが、サエの名前をもちだされてセイは、心がざわついた。
「マリアさんが心配してんだよ。サエさんが本物でも偽物でも、自分が傷つけたと思ったら、セイさんは耐えられない人だって……」
そう指摘されたが、セイはそれを即座に否定できなかった。
もしかしたらそういう弱い部分があって、マリアに見抜かれているのかもしれない——。
「セイさん、このレースで優勝する必要はなくなったってことだよ。とりあえずここでレースを終わらせようじゃあないか」
ゾーイの提案にセイは一も二もなく従うことにした。「わかった」とだけ言って、手綱を引こうとした。
「セイ、戦車をとめるな!。とめたらそれで終わりだ」
左側の戦車からとてつもない威圧感のある声がとんだ。セイはおもわず手綱にかけた力をゆるめた。
「ルキアノス。どういうことだ!」
セイはスフィンクスにむかって声を荒げた。ゾーイはその瞬間に自分の背後に怪物がいるのに気づいたが、それがルキアノスの成れの果てと知って「これがルキアノス……」と思わず漏らした。
「セイ、いまここで戦車をとめれば、その瞬間にゴールにいる少女はこの車輪の下の下敷きになっているだろう」
曲がる寸前に正面の観客席でマリアが怪物とたったひとりで戦っているのが見えた。その数の多さに手こずっているようだったが、セイにはマリアが危機に陥っているようには感じられなかった。
どっちにしてもあと一周で終わる。
セイは両隣を交互に見やった。
この一周は三台が並走した形で走っていたが、そのあいだスフィンクスもアルゴスも襲ってくる気配がなかった。それどころかあたりで大暴れしている怪物たちすら、進路を邪魔しようとすらしてこない。まるで怪物たちまでもが協力して、セイを勝たせてくれようとしているような錯覚に陥る。
さきほど一つ目巨人のサイクロプスを倒したところに差しかかろうとした時、ふいに路肩からこちらへ走り込んでくるゾーイの姿をみつけた。ゾーイはおおきな跳躍をすると、背後から御者台に飛び乗ってきた。ゾーイは勢いのあまり前につんのめり、馬と御者台をつなぐ轅にからだが飛び出そうとした。セイがあわててそれを引き戻す。
「ゾーイ!、どうしたんだい」
「セイさん、突然すまないよ。だけど時間がない」
「なにがあった?」
ゾーイのただならない様子にセイの顔が引き締まった。
「気を落ち着けてきいとくれ。セイさん、ゴールにあなたの妹さん、サエさんが出現したんだよ」
「まさか、サエが?」
「だけど本物かどうかはわかんないんだよ。あたいは移動させよう抱えたんだけど、うまくいかなかった。でもこのままあと一周したらこの戦車はサエさんを轢いちまう」
ゾーイが事実だけを伝えようとしているのはわかったが、サエの名前をもちだされてセイは、心がざわついた。
「マリアさんが心配してんだよ。サエさんが本物でも偽物でも、自分が傷つけたと思ったら、セイさんは耐えられない人だって……」
そう指摘されたが、セイはそれを即座に否定できなかった。
もしかしたらそういう弱い部分があって、マリアに見抜かれているのかもしれない——。
「セイさん、このレースで優勝する必要はなくなったってことだよ。とりあえずここでレースを終わらせようじゃあないか」
ゾーイの提案にセイは一も二もなく従うことにした。「わかった」とだけ言って、手綱を引こうとした。
「セイ、戦車をとめるな!。とめたらそれで終わりだ」
左側の戦車からとてつもない威圧感のある声がとんだ。セイはおもわず手綱にかけた力をゆるめた。
「ルキアノス。どういうことだ!」
セイはスフィンクスにむかって声を荒げた。ゾーイはその瞬間に自分の背後に怪物がいるのに気づいたが、それがルキアノスの成れの果てと知って「これがルキアノス……」と思わず漏らした。
「セイ、いまここで戦車をとめれば、その瞬間にゴールにいる少女はこの車輪の下の下敷きになっているだろう」
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