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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第196話 ユメミ・サエさんがいます!
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「おい、エヴァ。なんの真似だぁ」
逃げたはずのエヴァがあわてて戻ってきたことにマリアは困惑した。
なによりもこれ以上ないほどの数の怪物との戦闘の最中だったし、エヴァはそういう自分の『お楽しみ』の時間を邪魔しないだけにとまどいは大きかった。それに『お楽しみ』の最中とはいえ、正直あまり楽しくない状況もわかっているはずなので、足手まといになるような真似はしてこないはずなのだ。
「マリアさん大変です。ユメミ・サエさんがいます!」
そのことばに一瞬心が乱れた。切っ先が鈍り斬りかかった三体の怪物の、一体の首を刎ねそこねた。
「エヴァ。でたらめを言うな。一体、殺りそこねただろうがぁ」
「本当です。あそこ、ゴール・ラインのところに!」
マリアはむかってくる怪物の一体をいなして、からだをくるりと一回転しながら、エヴァが指摘するほうへ目をむけた。たしかに誰かがたたずんでいた。ほかの観客のように逃げまどうこともなければ、怪物に変貌して人間ばなれした動きもしていない。
ただそこに座っているだけだった。あまりにも不自然な形で——。
だがここからでは顔までは判別がつかない。
「本当にサエなのか?」
憤りを隠さない口調でエヴァに再確認した。
「まちがいありません。あのネロの神殿、黄金宮殿で見たあの子です」
「エヴァ、そっちでなんとかできないのか?」
「ごめんなさい。こっちはタルディスさんを乗せているだけで、これ以上はとても……」
エヴァはほんとうに申し訳なさそうに言った。
だが、それも当然だとマリアはわかっていた。こちら側の世界のものを持ちあげるというのは、物であれ、人であれ、とてつもない精神力をつかう。今のエヴァはゾーイがアリストパネスを持ちあげたどころではない芸当をみせているのだ。
「くそぅ、参ったな。オレが行きたいところだが、行ったところでなにをすればいいかわからねぇ。どうすりゃいい」
「今、セイさんの戦車は反対側のレーンを走っています。わたし、セイさんに今すぐ戦車をとめるよう言ってきましょう」
「あぁ、次の折り返し点が最終コーナーだ。それを曲がればゴールまで一直線だからな。それまでにセイをとめろ」
マリアはおそらくケンタウロスの類いらしき怪物を叩き斬りながら言った。だが、その瞬間、マリアは気づいた。
悪魔がそんなに簡単に抜けられる罠をしかけるわけがない。たとえそれが下級悪魔であったとしてもだ——。
逃げたはずのエヴァがあわてて戻ってきたことにマリアは困惑した。
なによりもこれ以上ないほどの数の怪物との戦闘の最中だったし、エヴァはそういう自分の『お楽しみ』の時間を邪魔しないだけにとまどいは大きかった。それに『お楽しみ』の最中とはいえ、正直あまり楽しくない状況もわかっているはずなので、足手まといになるような真似はしてこないはずなのだ。
「マリアさん大変です。ユメミ・サエさんがいます!」
そのことばに一瞬心が乱れた。切っ先が鈍り斬りかかった三体の怪物の、一体の首を刎ねそこねた。
「エヴァ。でたらめを言うな。一体、殺りそこねただろうがぁ」
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ただそこに座っているだけだった。あまりにも不自然な形で——。
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憤りを隠さない口調でエヴァに再確認した。
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「エヴァ、そっちでなんとかできないのか?」
「ごめんなさい。こっちはタルディスさんを乗せているだけで、これ以上はとても……」
エヴァはほんとうに申し訳なさそうに言った。
だが、それも当然だとマリアはわかっていた。こちら側の世界のものを持ちあげるというのは、物であれ、人であれ、とてつもない精神力をつかう。今のエヴァはゾーイがアリストパネスを持ちあげたどころではない芸当をみせているのだ。
「くそぅ、参ったな。オレが行きたいところだが、行ったところでなにをすればいいかわからねぇ。どうすりゃいい」
「今、セイさんの戦車は反対側のレーンを走っています。わたし、セイさんに今すぐ戦車をとめるよう言ってきましょう」
「あぁ、次の折り返し点が最終コーナーだ。それを曲がればゴールまで一直線だからな。それまでにセイをとめろ」
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